韓流 in カルカッタ
最近では意外と増え始めたのではないかと想われるタイ人旅行者がそのターゲットになっているのかも知れないが、嘗て韓国人パッカーが世界のあっちこっちに姿を現わすようになってから、インドのバナラシー=カルカッタ間の列車で、韓国人旅行者が襲われる事件が頻発するようになった。
日本人に間違えられたんだという話も聞いたが、列車の中で刺され外に放り出されたり、凄いな!等と他人事のように、そうかあんな列車でもそんな事件は起こるのかと感心していたものであった。
それから数年後、'98年であったか、バナラシーからカルカッタへ向かう列車の中で二十歳代の韓国女性と一緒になった。
韓国ではキリスト教系の団体の秘書をしていて、もう七年も勤めているのに未だに有給休暇が六日しか貰えず、中秋の休暇(韓国では中秋の名月は休日らしい)四日足して計十日の休暇を作り、長年の夢だった憧れのインドに遙々やって来たという。
海外旅行は初めてで、それもインドという訳で、彼女の話聞いていると、少々じゃないくらいにボラれっ放しのようであった。
ハウラー駅から、朝の出勤のインド人サラリーマン達で溢れかえったフェリー(1.75Rs)で対岸に渡り、汗まみれになってサダルまで歩き、僕は先ずお決まりの《パラゴン・ホテル》に予約。が、彼女は否を云い、近くの中級ホテルをあっちこっち当たってみた。何処も今一で、且つ一様に薄暗くて、まだ未婚の若い女である彼女にとっては何とも薄気味悪く危なく想えたようだ。
で、結局、マリア・ホテルの250Rsのシャワー・ルーム付のシングルに決まった。
高めの天井はコンクリ風で、真夜中にパカッ!っと天井板が外され賊が入り込んでくるという事は決して起こりようもなく、ドアに内側から差し込む、インド人達が何人も体当たりしてきてもびくともしないような、そこのマネージャーも自慢げな分厚く長い角材のかんぬき棒が、彼女をしてその部屋を決めさせたようだった。
翌朝"ブルー・スカイ・レストラン"で、彼女と会った。
そこで話が前日、通りで知り合った二人連れの韓国娘達に及んだ。
彼女達が、韓国の実家に電話をすると、今、韓国では、何とこのカルカッタで韓国人女性のバラバラ死体が発見されたと大騒ぎしているんだと。それで彼女達は些かナーバスになっていたようだ。
知ったかぶりをして、バナラシー=カルカッタ間の列車で襲われた韓国人の話をしてなくて好かったとつくづく思った。
夕方、予約済みのマリアの前に停めてあった空港行きのタクシー(120Rs)で、彼女が退つことになった。相乗りは居ず、彼女一人であった。
ところがである。
運転手の隣にもう一人、インド人が座っていた。
これはこの辺りのタクシーではよくある事で、僕も以前、この運転手の脇に居る奴は一体何なんだと訝ったものであった。
例のバラバラ事件を聞いたばかりの彼女には、そんな曖昧な事では済まなかった。
「この人、何なの!」
運転席の二人も簡単な英会話ぐらいは分かるはずで、もろその男を指差してヒステリックに叫ぶ彼女に二人もびっくりしていた。
散々時間をかけ、単なる助手の類に過ぎないとなだめ続けて漸くしぶしぶ納得したようであった。
確かに、不案内な彼女一人を乗せたタクシーがそのまますんなりと空港まで行かず、何処か人影のない寂しい場所へ連れ込んだりする可能性も、マリアのマネージャーが太鼓判を押したとしても、完全に否定し切れはしない。
だから、しぶしぶ納得したはずであっても、何か縋るような眼差しで僕の方を見遣りながら、一人タクシーに乗って去って行く彼女を、百パーセント絶対安全とは云い切れぬまま、ジリジリと様々な想いに焦がされながら見送る他無い己にうんざりせざるを得なかった。
彼女を見送って暫くして、僕も翌早朝のDRUK-AIR(ブータン)115Rsで退つんだから、カルカッタ空港には安いリタイアニング・ルームが有り、そこに一晩泊まって余裕でバンコク行きの DRUK-AIRに乗った方が賢明だと気付いた時には既に遅かった。
普段なら先ずそうしてただろう。
何しろカルカッタに着いてからというもの、実に慌ただしく余りにもせわしなかったのでそこまで思い至れなかった。
一緒にタクシーに乗ってれば、どんなに彼女も、否僕の方も安心できただろう。後悔の念に苛まれながらも、何とか彼女が無事空港に着けるように祈る他なかった。
ひょっとして、長年勤めた韓国のキリスト教団体のオフィスの彼女の机の上に、唯埃だけが、多年降り積もった埃だけが層をなしているのかも知れない等と、最近は想うこともなくなってしまった。
ーーーそれでも、無事彼女が帰国できたという最終的な言質は未だ得られていない。
* Rs = インド・ルピー
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