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2007年10月 1日 (月)

プノンペンの朝はカラシニコフではじまる

20070629093205

プノンペンの朝はカラシニコフではじまる!
これは僕の、もう幾年来のお気に入りのフレーズ
であった。けど、時代は移ろい、もうさしもの
"危ない町"プノンペンも小綺麗な安全な町として
あの外務省から太鼓判を押されかねなくなってい
そうな昨今、何とも時代遅れな、ツールスレン博
物館の隅っこで埃を被っていそうな代物に思えて
しまう。
この数年、プノンペンとはまるっきり没交渉なの
で僕の勝手な憶測に過ぎないが、実際は如何なの
であろう。

このフレーズには対句があって、それは今は置く
として、旧るい話ばかりで些か恐縮するが、もう
幾年も前、プノンペンの定番<キャピトル・レス
トラン>で、お決まりのフランス・パンとフライ
ド・エッグ、紅いミルク・ティーの朝食を、タブ
ロイド新聞<カンボジアン・デイリー>を見なが
ら食べていると、突如ダ、ダ、ダッ!と比較的近
くで自動小銃の発射音がした。
「えっ、銃声?」
と、柱や建物の陰に邪魔されて見えないので、ひ
ょろひょろと立ち上がり店の前の方へ行こうとす
ると、いっぱい居た客達が、その殆どは白人達で
あったが、一斉にタイル張りの床に突っ伏し始め
た。銃声は更に続き、僕も慌ててテーブルの陰に
身を伏せた。
が、弾がこちらに飛んで来ているように思えず、
ひょいと頭をもたげ、モニボン大通りに向かう前
の通りをずっと追っていくと、果たして、通行人
達は皆物陰に隠れ、商店が軒を連ねた前の歩道に、
五十代とおぼしきひょろんと痩せた親爺が一人佇
み、カラシニコフを通りの反対側に向け、更に連
射しているではないか。
見てると、その親爺に銃撃戦といったような殺気
だった緊張感はなく、何気なく煙草でも吸ってい
るような感じで間を置いて銃弾を射ち込み続けて
いた。
あの向かいには、確か子供相手のソニーのプレイ
ステーションを並べた小さなゲーム屋か果物屋が
あったはず等と、相手側が応戦するでもない一方
的な銃撃の不可解さにあれこれ憶測し始めた頃に
は、他の客達もテーブルの下から起き上がり、恐
る恐る銃声のする通りの向こうを窺い出した。
その内、親爺の立っているすぐ後ろの建物の出入
口から三十代の女が現れ、如何もその親爺の家族
らしく、何やら親爺に云っていた。
その時女は取り乱しも動揺した風にも見えず、む
しろ淡々として親爺の直ぐ横で話しかけ、それが
何とも奇妙に思えた。
暫くして、その女の説得にでも応じたのか、カラ
シニコフを女に渡し、通りをそのままモニボン大
通りとは逆の、つまりキャピトル側に向かって歩
き出した。
ふと見ると、いつの間にか手ぶらだったはずの親
爺の片手にオートマチック拳銃が握られていて、
「オーッ!」
とか何とか白人の何人かが叫びを挙げた。
と、通りの途中で何故か立ち止まり、周りをキョ
ロキョロしだした。
何を始めようとしてるんだ、と誰もが固唾を呑ん
で見守っていると、何処からかモト・サイと呼ば
れているバイク・タクシーが一台やって来て親爺
の前で止まった。親爺はそのままバイクの後ろに
乗り、キャピトルの直ぐ脇にある十字路を反対方
向に折れ何処かへ去って行った。
暫くして自動小銃を手にした二人乗りのポリスの
バイクが二台やって来て跡を追い駈けていった。
後で見に行くと、カラシニコフ銃弾は、やはり向
かいの果物屋に向け撃ち込まれていた。
店主か誰かが負傷したと云うことだった。親爺に
恨みでも買ったのだろうか。事情通ではない僕に
はそれ以上の事は知りようがなかった。

それとは別の日のある深夜、キャピトル・ホテル
2の三階の狭いシングルでタイ・ポップスのテー
プを聴いてると、突如、物凄い銃撃音が響いた。
周囲も寝静まった真夜中、
「えっ!」
と一瞬動きが止まってしまった。
それだけなら敢えてのこのこと危険を冒してまで
様子を見に行く事もなかった。
「ギャーッ!」
女の泣き叫ぶ声がその後えんえんと続き、一体何
事が起きたんだと、さすがに部屋を出、廊下に出
てみた。
仄明かりにぼんやりとタイル床が照らし出されい
るだけで、あれだけの銃声と金切り声にも拘わら
ず他の部屋の誰の姿もなかった。
とっくに熟睡しているのだろうか、あるいは係わ
りたくもないのだろうか、それとも殆ど泊まり客
がいないのだろうか。
外とはうってかわってしーんとした余りの静けさ
に奇異なものを覚えながらも、腰を屈め通りに面
したベランダに這って出た。
暗い真下の通りに、一台の乗用車が停まっていた。
その車の向こう側に一人づつ私服の警察らしき男
が、前方が両手を伸ばし拳銃を車の中に狙いをつ
け、車の少し後方に立ったもう一人が、何しろ薄
闇の中なので、それがカラシニコフなのか今ひと
つ定かでなかったが、自動小銃を構え、大声で車
内に怒鳴っていた。
前方の警官は即車内に発砲しかねない緊張が漲っ
ていて、その割には中から誰かが両手を挙げて出
て来るというわけでもなく、ひたすら女の泣き叫
び声ばかりが深夜の通りに響き渡るばかり、事態
は遅々として一向に進展をみなかった。
ふと横を見ると少し離れたベランダの床にここの
住人と目されているノッポ氏が腹這いになって下
の不可解な禍事に見入っているではないか。
向こうも僕の視線に気付き、一体如何なってんだ
とばかりに小首を傾げてみせた。
その内自動小銃を手にした警官が車の進行方向の
遙か向こうに狙いをつけるように斜め上に銃口を
向け、連射した。
暗がりの中で、銃身や機関部辺りに火の粉が弾け
飛ぶのが見えた。
女の叫び声が一層強まった。
その警官が車の進行方向を指さし更に怒鳴りつけ
た。
やがて乗用車はのろのろと走り始めた。
通りの遙か向こうに姿が見えなくなるまでずっと
見送り続けた。
それにしても、一体どんな事件だったのか、未だ
に見当もつかない。

で、最初の対句だが、
プノンペンの夜はカラシニコフで終わる
と云う訳だ。
現在もってプノンペンがそんなヤバイ町であり続
けているのかどうか、僕は未だ自分の眼で確かめ
てはいない。

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