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2007年10月 2日 (火)

シーウィー : 死に至る病の生薬

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バンコク、チャオプラヤー川を渡った対岸トンブリーに、通称シーウィー博物館と呼ばれる建物が、ノイ駅近くのシリラート病院の敷地内に在るという。
タイ人好みの毒々しい猟奇的ホラー映画を彷彿とさせるような、シャム双生児や件のシーウィーという死刑囚の遺体も、ホルマリン漬けにされたり、アメリカ映画《蝋人形の館》そのままに、蝋人形と化したまま四角いガラス・ケースに収められ陳列されているという。

1946年、中国の貧村からタイに出稼ぎにやって来たHuang Lee Huiは、慣れない環境で、鶏のさばきや荷役夫等の下働きばかり。幼少の頃から患っていた肺病が、無理な労働や低劣な環境に次第に悪化し始めた。そんな惨憺たる状況の最中、日中戦争時の悪夢にうなされ、たまたまシーウィーに親近感を持ち傍に寄って来た少女を絞殺してしまう。
犯人不明のまま事件は迷宮入りになるが堪えられずそこを後にし、何処かで土地を見つけ、勝手知った畑仕事に精を出す。しかし天候不順のためそれも失敗に終ってしまう。
老いた母親にタイで金を儲けしてくると約して遙々やって来たタイではあったが見切りを付け、中国に戻る決意をしたものの、今度はその費用の捻出が困難を極め、やがて肺病も一層悪化の一途を辿り始める。
その頃から子供達を誘拐し殺害して、その心臓や肝臓を煎じて飲み始め、合わせて四人の子供の命を奪う。
最後には、海岸近くの洞窟で最初の少女を入れると五人目の少年を殺害した直後、とうとう駆けつけた警察に逮捕される。

二人の未だ若いタイ人女性監督によって撮られた、映像も繊細なこの映画を観ていて、すぐに、嘗て観たモノクロの中国映画、魯迅の《薬》
を想い出した。
肺病みの息子・小栓のために父親が銀貨で死刑囚の血を浸した饅頭を役人から買い、蒸して息子に食べさせるという暗い陰影の中でのその映像は妙にリアルであったような記憶がある。
血饅頭と、臓腑そのものを鍋で煮て煎じるの相違はあるが、恐らく魯迅の方が脚色したのではないかと思われるが、定かではない。
現在でも、肝臓のために動物の肝臓を食べたりするのは普通に行われている一種の民間療法みたいなものだし、
"旧弊な迷信"とばかり一蹴してしまうのは甚だ偽善に過ぎよう。

艱難辛苦の半生で、一体何のために生きてきたのだろうと、己が半生を、己自身をそしてこの世の中を恨み続けたであろう、タイではシーウィーZee Wuiと呼ばれた当時はまだ不治の病であった肺病みの貧農出の移民労働者イミグラントは、単純に、薬代もないから、そこら辺に遊んでいる子供達を"生薬"として屠ってしまったかのようだ。
"規範"というより、この社会に繋ぎ留められていた最後の絆すら無惨に粉砕されてしまったのだろう。

最近廉価版で限定販売されたチャールストン・ヘストン主演のSF映画《ソイレント・グリーン》なんかじゃ、世界的食料不足が常態化してしまい、年寄り達がある年齢に達すると、姥捨山宜しく、配給食ソイレント・グリーンの原料とされてしまう。
もう、肺や肝臓等の部分なんかではなく、人体丸ごとクラッカーの材料となってしまうのだ。
シーウィーなんて非-効率性を厳しく指弾されかねない世界になっている。嘗て、欧米の捕鯨が油や何んかの微々たる部分しか利用せず、残りの大部分を廃棄していたのを、鯨の殆どの部分を有効利用していた日本人達が、"もったいない"の理由で非難していた如く。

子供殺しや内臓摘出等の可成りエグいはずのシーンはうまくかわされていて、残虐な趣ではない。
若い女性監督がそんな嗜虐趣味剥き出していたんじゃ、そっちの方が怖いくらいだが、危ない題材にそれなりの視点からアプローチし得、何とか無難にこなせた、佳作であろう。

凝った不気味な紙ケース付のDVDには、付録に実際のシーウィーに関する証言やインタビュー有り。
(但し、英語字幕のみ/PAL リージョン・コード3)

監督 ブラニー・ラットチャイブン
   ニダー・スタット・ナ・アユタヤー

シーウィー : トワン・ロン(中国)
ダーラー   : プレムシニー・ラタナソップ
サンティ   : チャトチャイ・プレンパニッチ

2004年作品
制作・マッチング

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