サイクリスト 七日間のスーフィー
イランのアフガン難民・・・可成り居るらしいが定かではない。イランのアフガン人というと文化の中心地と云われるシーラーズでハシシか麻薬かの売人のアフガン人がクレーンによる縛り首の公開処刑になったって話しを旅行者に聞いたぐらいで、余り馴染みがない。もう一方の隣国パキスタンじゃあペシャワールでもクエッタでも沢山見かけ話もし、チャイをご馳走にもなって馴染みが深い。当然大半が貧しい難民で、ペシャワールの街角で肩に担いだり手車引いたりの露天商を営んでいるアフガン人達はパキのポリスに棒で叩かれたり蹴飛ばされていた。
イランに逃れてきたアフガン難民のナシムは、アフガニスタンで自転車乗りをしていたが、イランでは仲々職が見つからず、病気で入院中の妻の病院代の工面がままならないまま苦渋の毎日を送っていた。
息子と組んで、バスのタイヤの前に寝そべって自殺するマネをして運転手や周辺の人々からバクシーシを貰う捨て身の挙にでたものの、あっちこっちでやられている常套で、逆にリンチに遭いそうになりほうほうの態で逃げ出した。それでも、ある伝(つて)で何とか自転車乗りの仕事にありつくことが出来た。
アフガンでは三日間自転車に乗り続けることが出来たと、息子が自慢していたのを聞き、興行師は"一週間"と宣伝し客集めを始める。三日と七日じゃえらく違うし、もう人間の限界を超えているけど、ナシムに選択の余地はなかった。愛妻の為に何としても自転車に乗り走り続ける他なかった。
広くもない空き地に設えられた円周を、唯ひたすらグルグルと走り回るばかりの耐久レースだった。他に競争者が居るわけでもなく、単調そのものの孤独なレース。
最初の頃は当然観客も少なかったものの、日が過つに従って段々増え始める。背後で地元の政・経済界のボス達がそれぞれの利害と目論見で暗躍する。あのイスラム原理主義と謂われるイランで、政の方はともかく、経済的な黒幕が色んな画策したり出来るものなのかと、思わず眼からウロコが音を立てて落ちてしまったけど、如何なんだろう。
記録係や健康管理の医師団すらボスの息がかかっていて、ボスの意向次第で如何にでも動かせる。看護婦はそんな汚らしい仕事に嫌気が差し仕舞いには、ボスの意向に逆らう挙に出、周りの観客と一緒にナシムに声援を送るようになる。途中、ある深夜、疲労と睡眠不足でナシムがヨロヨロとし始めたと思ったら、バタンと転倒してしまう。慌てて興行師は他の者に運転を替わらせ、その間に建物の奥に担ぎ込み暫し睡眠をとらせる。深夜で観客は居ず、露天商達も眠りこけていて誰も気付く者はなかった。
一眠りした後のナシムは元気そのもの。やたら張り切った。それでも七日は長く、再び疲労と睡眠不足に苛まれ苦闘を余儀なくされる。最後はテレビ局までやってきての中継放送までおこなわれるほど。結局、期日の七日・一週間をナシムは達成する。深夜の空白の何時間は有ったにしても。
息子が尚も走り続ける父親・ナシムに云う。もう、終ったんだ、もう走らなくてもいいんだよ、と。それでも、ナシムは自転車から降りることもなく走り続けた・・・
途中で、何処かで観たことがるような気がし、直ぐに想い出した。相当前に、何処かの名画座で観たことがあった。否、テレビでも確か。タイトルは忘れたが、ハリウッド映画で高額の賞金目当てに、様々な境遇の男女がペアーで何日も踊り続けるって奴だった。ドラマチックで仲面白かった記憶があるが、果たして、映画中にそのハリウッド映画のらしい一場面が流れていた。確かに、あれはイラン人好みでもあったのだろう。時期的には、ホメイニイ革命前のパーレビ時代に上映されたに違いない。
主人公はナシムだが、サーキットをグルグル回るばかりのナシムに代わって、あるいは手脚となって息子があっちこっち動き廻る。むしろ様々なエピソードはナシム以外の処で展開され、ナシムはその口実に過ぎなく想えてしまいうくらいだ。イランの庶民、アフガン難民、暗躍する黒幕。
最後の、レースが終っても尚走り続けるナシムの姿は、「炎のランナー」の如く、殆ど忘我状態で、ランナーズ・ハイに酔いしれ歓喜に高鳴っているかのようだ。頂度、イスラムのスーフィーの舞踏の如く、グルグルと円を描いて廻り続け忘我の陶酔境に浸り続けるのだろう。
キャスト
(ナシム)モハラム・ゼイナルザデ エスマイル・ソルタニアン
マフシード・アフシャールデザ サラミ・マフマルバフ
監督・脚本・美術 モフセン・マフマルバフ
撮影 アリレザ・ザリンダスト
音楽 マジド・エンテザミィ
制作 1989年(イラン)
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