« ヤワラート  曼谷黒幇的故事 | トップページ | カンパニー   印度黒幇的故事 »

2008年1月 5日 (土)

シクロ  西貢黒幇的故事 

Cyclo1

《青いパパイヤ》でフランス人好みのベトナム風味って感じの旧植民地的香りの漂った繊細な映像世界を開示してみせたアン・ユン監督であったが、ここでは大胆にも正に旧植民地(フランス&アメリカ)時代の象徴のようなマフィア(黒幇)の世界を舞台にした。だからトニー・レオンだったのであろう。台湾映画《悲情城市》で客演した時も寡黙な役柄だったが、ここでも寡黙な役柄だけど、マフィアの兄貴分で、もう香港での十八番ででもある。すっかり女性好みのトニー・レオンに仕上げられてしまっている。
 
 サイゴン(ホー・チン・ミン市)のあるシクロ運転手(レ・ヴァン・ロック)の青春の蹉跌って処で、彼の父母の居ない老爺を含んだ四人家族皆、小学生の妹すら小さな商いをして辛うじて生計を立てていた。姉(チャン・ヌ・イェン・ケ)は市場で天秤棒を担ぎながら、白いアオザイを着て学校にもかよっていた。老爺は自転車の空気入れ屋、妹は靴磨き。淡々と描いていくその家族の姿は質素であるが清々しい。

 ある時彼は貸し主から借りて商売しているシクロ(輪タク)を別地域のマフィアに盗まれる。女ボスに助けを求めると他の仕事を宛がわれ、額に汗することの少ない割には儲けがぼろいので、ずるずると裏稼業の世界の深みに嵌ってゆくことになる。実は彼の姉は金のために娼婦もやっていて、そのマフィアの兄貴分を慕っていた。兄貴分(トニー・レオン)も彼女に惹かれていた。二人は抱き合ったりデートをしたりはしても、肉体関係を持つまでに至ってないように見受けられる。彼の女ボスと同衾したりしているようだけど、如何も情念の滾りが窺えず、何ともアンニゥイな雰囲気に満ちている。これはフランス映画の範疇でもある。ベトナムの文化人って総じて旧宗主国フランス志向(嗜好)が強いみたいで、インド人が同じく女王陛下の英国志向が強いのと同様の旧殖民治国に共通する心理のようだ。
端から見てると、未だに奴隷根性から抜け出せないで居るとしか想えない傾向なんだけど、日本人も期間は短かったはずが米国に対して似たような心性を有していて、欧米(列強・・・ちょっと古い?)が二十一世紀になっても君臨できている理由が分るような気がする。

 ある時シクロがマフィアの連中に組織に入りたいと言い出す。と、兄貴分は怒り彼をぶん殴る。それでも、何処かアパートの一室に連れられて行き、テープで顔をグルグル巻きにされ椅子に結わえられた男がマフィアのベテランの殺し屋にナイフで殺される現場の一部始終を見させられる。殺し屋は、手練れた前戯の如く相手をいたぶり嬲ったあげくいきなりナイフで頸動脈を抉り、男は血潮を挙げながら倒れ痙攣し続けた。凄惨な場面だけど執拗なくらい克明に描いている。耽美にならない程度に抑えたのか結果に過ぎないのか定かでないけど、ヤモリの尻尾を千切って口に銜えてみせたり青ペンキを被って金魚を口に銜えて見せたり、可なり執拗にグロテスクな場面を美的に撮り続けている。シクロ青年の困窮と焦燥、退廃と暴力の裏稼業の世界が交差するとそんなシュールな光景(ショット)が派生してしまうのかも知れない。

 姉が彼女を買ったある男に暴力を揮われ、兄貴分は切れ、屋上で彼をナイフで滅多刺しにして殺害してしまう。それから幾らもしない内に、燃え始めた部屋の中で逃げようともせず焼死する。姉に対する気持と現実の間に生じた齟齬がもはや如何にも埋めようがなくなってしまったのだろうか。同じ日、自分の息子を事故で亡くした女ボスは、片腕でもあり愛人でもあった兄貴分をも失ってしまう。やがて、シクロは元のシクロ稼業に戻り、姉も悲しみを胸に秘め日々の生活に埋没してゆく・・・
 
 最後に象徴のように、彼等の住んでいた旧い集合住宅の蝟集した一角の直ぐ隣に、新式のプールの備わった真新しいカラフルな高層ホテルかマンションが聳えているショットが入る。サイゴンにはもう十年くらい前に訪れただけなので、一体サイゴンが如何なってるのか見当もつかない。やがて、昆明みたいに、趣のある佇まいの旧市街を一掃してカラフルな高層ビルやマンションが整然と建ち並ぶのであろうか。
 嘗てある旅行者が、ホー・チン・ミン=サイゴンは混沌としたバイタリティー溢れる今が旬の街だ、と教えてくれたことがあった。それから何年も遅れて漸く訪れた時には、もう旬は過ぎていた。むしろ手前のプノンペンの方が旬であった。 

 シクロ レ・ヴァン・ロック
 詩 人 トニー・レオン
  姉  チャン(トラン)・ヌ・イェン・ケ
 女ボス グエン・ヌ・キン

 監督  チャン(トラン)・アン・ユン
 脚本  チャン(トラン)・アン・ユン
     グエン・チュン・ビン
 撮影  ブノワ・ドゥローム
 音楽  トン=ツァ・ティエ
 美術  ブノワ・バルー
 フランス・香港・ベトナム合作 1995年

Cyclo2  

Cyclo3

« ヤワラート  曼谷黒幇的故事 | トップページ | カンパニー   印度黒幇的故事 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ヤワラート  曼谷黒幇的故事 | トップページ | カンパニー   印度黒幇的故事 »

2026年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

フォト

  • フォト蔵

昆明・旧市街

逍遙遊片

  • 20070702100005
    三千世界の逍遙遊片
本コンテンツをご覧になるには、Flash Playerプラグインが必要です。FlashのWebサイトよりインストールしてください。

上海の弁護士・公認会計士・税理士