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2008年4月 5日 (土)

《ツバメ飛ぶ》 少女テロリストはK54をふところに

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  リュック・ベンソンかベトナム生まれのツイ・ハークあたりに映画化して欲しかったのが、このベトナム小説《ツバメ飛ぶ》。
 作者はグエン・チー・ファン、元北ベトナム軍兵士。
 物語は南ベトナムの海に近い農村地帯を舞台にした少年・少女達で構成されたゲリラ組織に属するようになったクイという少女の文字通りの苦難と血に塗みれた軌跡。作者は、大人の読物というより、むしろ子供達に読んでほしかったようだ。確かに、ちょっとどぎつい箇所もあるが、今の子供達なら問題ないだろう。でも、これは、アクション性が強く、情けない「ニキータ」なんか目じゃないし、《レオン》と《ジャンヌダルク》を足して二で割ったぐらいには作れるのではないだろうか。アクション映画としてだけでも面白いと思う。

 1969年冬、ダナンとクイニョンの間のタムクアン。クイは11歳。
 母は米海軍の艦砲射撃の犠牲となってとっくに他界。老いた父と、姉のハーオ、クイの三人が庭で食事しているところから物語は始まる。以前クイニョンで獄吏をしていたトゥアンが腰にコルト45を提げ7人の部下を引き連れて現れる。母親が殺されゲリラ部隊(所謂ベトコン)に入っていたクイの兄ズオンを殺しに来たのだった。誰かがズオンがクイの家の井戸に隠れているのを密告しない限り有り得ないことであった。結局、兄はダイナマイトで爆死させられてしまう。
 姉のハーオが、母と兄の仇を取るためゲリラ部隊に入隊し、クイが姉の替わりに畑仕事から家事までやらなければならなくなった。暫くしてやはりトゥアンによってハーオも殺されてしまい、クイは父親に兄のズオンと仲の好かったクォンの「つばめ隊」に預けられる。クイもクォンを慕っていたし、子供心にも兄と姉の仇のトゥアンを何としても生かしておけなかった。トォアンは実は以前はズオンやクオンと一緒にゲリラ活動をしていた仲だったのだ。つまり、敵=米国・南ベトナム政府軍に寝返ったのだった。多くの村人がトゥアンの密告で殺されてしまっていた。

 「テト攻勢後、彼女が住む県の武装勢力は壊滅といっていいに等しい状態となった。・・・力の均衡が崩れ、敵の勢力が優勢を占めるようになった。村に残ることができた戦士たちは地下への潜行を強いられた。・・・敵の新しい駐屯地が雨後のタケノコのように設営されていった。こちらから攻撃をしかける道は閉ざされた。そのため、地元のゲリラたちは苦肉の策として『滅悪作戦』に打って出ることにした。ただし、大人の戦士たちは敵に近づくことができないので、かわりに子供をつかうしかない。その実行部隊として『つばめ隊』が結成された。隊員は、大人のゲリラ同様、秘密のアジトで集団生活をし、銃で武装した。村長や地区長、村に潜り込んだ諜報員、警察官などは、行く先々でいつ不意討ちをかけられるかわからない危険にさらされた。」

 「ツバメ隊のメンバーにとって、敵の要人テロはしごく単純な動機から発していた。隊員は、最年長の者でも十六歳、残りはみな十三、四歳の少年、少女ばかりであったが、そのほとんどが地元の要人に直接の恨みがあり、彼等を殺害することに迷いやためらいなどは一切なかった。・・・
 しかしよその地区まで行って、顔を見たこともない相手を殺すとなると、話は別だった。ただ上から名前だけ教えられて殺しに行くのは、いかな隊員であっても二の足を踏まずにはいられなかった。」

 
 「『あいつだ!』
 クイはかごを下ろして中から銃を取り出すと、裏庭へ急行した。周囲に何もない広い場所で、一人の男が夢中になってヤシの木を植えていた。あまりに無防備な後ろ姿にクイはぼう然とした。ディックがこんなだれでもするような仕事をするとは意外だった。またしても一抹のためらいが彼女を襲った。しかしトゥアンのことを思い出したとたん、そんなためらいは即座に消えた。・・・
 『ディックさん!』
 クイは呼んだ。声の調子が少しはずれているのが自分でもわかった。彼はふり返った。あごに大きなほくろがあり、そこから長いひげが一本伸びているのをクイは見届けた。やつにまちがいがない。
 『撃て!』
 だれかの声が頭の中で響いた。しかしクイは気が動転して、すぐには行動を起こすことができなかった。黒い銃口が自分に向けられているのを知ったハイデックは腰を抜かし、かすれた声で懇願した。」

 「『みんなの言うとおり、私(トゥアンの妻ナム)の夫は裏切り者よ。夫は地元の人たちから恨みを買ってるわ。だけど、だからって私までが、この私までが夫の罪を引き受けなきゃいけないの? みんな、私が仕事をしようとするといろいろ妨害するの。田畑の分配だって、遠くやせた土地しかもらえないのよ。もし規定の稲を収めることができなかったら、村の基金に収めるからって、家にあるテーブルやいすをもっていかれちゃうのよ。メースンの生産組に入れてほしいって頼んだこともあったけど、入れてもらえなかった。それでしかたなく魚を売り歩いていたら、途方もなく重い税金をかけてくるか、何かと理由をつけては没収しようとするのよ。子どもだって同じ。学校へ行っても、だれにも相手にしてもらえない。みんなから白い目で見られるのよ。だからあなたに聞きたいの。どうして私たちはそんな目にあわなきゃならないの? ねえ、どうして? 私たちがこの村に住んでることがそんなに気に入らないなら、どこへだって行くつもりよ。なのに、出ていくための書類はもらえない・・・。以前は私だって村のゲリラだったのに』
 そこまで話すと、女は声をあげて泣き出した。
 『うちの主人が敵に寝返ってから、私は飼い殺しも同然の身になったわ。私は夫を憎んだ。でも子どもを連れて出ていくことは出来なかったの。平和になれば、すべてかたがつくと思った。夫が死んでしまえば、それで終るとおもっていた。あなたは子どもがいないから、一生父親の罪を背負って生きていかなくちゃならない子どもをもった母親の気持なんて、わかりっこないでしょうけど』」

                <つばめ飛ぶ> グエン・チー・フアン 訳・加藤栄(てらいんく)

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