《ワン・テイク・オンリー》 バンク&ソム=バンコクの青春2001
《レイン》のオキサイド・パン=パワリット・モンコビシットのコンビが放つ第二弾。バンクとソム、ケチな麻薬密売人と売春を生業にする女学生のタイのバブルも弾けた2001年のバンコク青年の刹那的な軌跡。
パワリットは《レイン》でカッコ好い殺し屋を演じたが、この《ワン・テイク・オンリー》でも、気弱で気の好い青年をコミカルな味を出しながら好演している。映画自体は、青春映画のお決まりパターンを踏襲したステレオ・タイプ、でも香港+タイだと、また格別なものがある。
冒頭からベッド・シーンを演じたソム役のワナチャダ・シワポンチャイ、ポップ・グループ"Niece"の元メンバーと思うのだが、大きな眼に鼻そして厚めの唇、典型的なタイ女の風貌のチャーミングな娘で、パワリットと好いコンビだ。
オキサイド・パンは余りベツド・シーンが得意ではないようで、バンクとソムのベッド・シーンも縦→横→縦→横とあっさり流してしまう。何処かで同じようなの見たなと思ったら、少し後の作品《テッセラクト》でも、英国人ショーンとゴーゴー・ガール"フォン"のベッド・シーンで同じ手を使っていた。フォン=雨、一作目の《レイン》のヒロインも"フォン"。オキサイド・パンはフォンという名あるいは響きがタイの風物と相俟って形成されたイメージを気に入っているのだろう。これは彼に限らず、フォンという言葉自体の魅力だろう。"レイン"という英語も同じで、僕の好きな言葉の一つだ。そういえば、ちょっと、否、かなり古いが、レッド・ツェペリンにも"レイン・ソング"という曲があったっけ。
この映画の面白さは、前作のイメージを覆して、気弱なヒーローそして悪専門学校生達に返り討ちされボコボコに滅多打ちにあっているバンクを、工事用の石材を鞄に詰めて振り回し悪輩を退散させ助けた気の強いヒロイン・ソムという逆倒にあるのだろう。だから、最後まで、バンクはリアルなくらいにカッコ悪く気弱なままだ。これはしかし、現実のフラフラしたタイ男と気丈なタイ女という図式そのもの。
バンクのカッコ好いのは、ひたすら彼の無い物ねだり的な代償行為としての夢想の中だけ。
途中、バンコク名物の車道での花輪売り少女からサムがミニ天秤棒を借り自分で信号待ちの車の間を廻って花輪を売りまくって完売し少女に売上金全部を渡すシーンがある。
少女が裸足で売っているのを目撃したからだ。靴代を稼いだのだった。
自分の若い女としての魅力に自信があったからやれたのだろう。
ソムは少女に自分の姿を視、オキサイド・パンはバンコクを視たのだろう。
花輪売りや物乞いはタイでは立派な一つの産業で、少女は従業員の一人に過ぎないようだ。組織-縄張りがあって、そうそう勝手に個人が入り込めたりはしないらしい。因みに、ごく最近、タイの国会で、外人の物乞いを認めない法律が出来たらしい。外人といっても、金のないバック・パッカーのなれの果てというのでなく、隣国カンボシアなんかの少年・少女あるいは手脚を奪われた人々のことで、何と、タイでは、物乞いは政府の認可制度があって、認可を受けてないと勝手に物乞いすら許されないようだ。生活に困ってもいない人々が、安易に生活に困っている人々の"物乞い"商売に参入するのを防ぐという名目なんだろうが。実際には、組織化されていて、それは全くの有名無実で、単にブローカー達が一手に甘い汁を吸うのを保証したに過ぎない。で、ブローカーが隣国から国境を簡単に通過しバンコクまで輸送し職に就かせていたらしい。
そういえば、以前は、キャピトル・レストランやプノンペン市内のあちこちで見掛けた地雷で脚を失った人々の姿を次第に見なくなったのは、全員では有り得ないだろうが、バンコクでの"職"に就いたためだったのかもしれない。
母親も売春婦だったバンクもソムも同じアパートの住人だった。
最初は互いに気付かなかったが、ある出会いで同じアパートなのが分って意気投合。ある時、しょぼくれたバンクの仕事仲間と、大きな取引にありつけ、大金を得る。二人は持ち慣れない大金にすっかり舞い上がり散財の限りを尽す。バンクはソムに大金を費やす。バンクもソムもすっかり成金カップル。その内、大金も底をつき始めたのか、再び同じ仲間が、前回以上の美味しい取引を持ってくる。今度はソムも仲間に加わり、麻薬を運ぶ仕事を担当することになった。ところが、取引相手が、いきなり銃を取り出し、麻薬だけをだまし取ろうとして、撃ち合いになる。仲間は射殺され、ソムも被弾する。バンクは這々の体で腹部に弾を喰らったソムを連れ車でその場から逃げ出す。 警察にも追われ、麻薬をバンク達に預けた組織にも追われ、万事窮す。
バンクはほとほと己の不甲斐なさに相曽が尽きてしまう。
と、事の成り行きで、組織の男を殺してしまい、その男の腰に差してあった拳銃を奪い、騙した組織の連中の処に単身乗り込んでゆく。食堂の奥のj間で飯を喰っていたボスにいきなり発砲し射殺してしまう。そして、疲れたように警察に出頭・・・
代償行為的に空想に浸るのが慣らい性になってしまっていたバンクであってみれば、しかし、一体最後の方のどれが本当でどれが想像の産物か定かではない。そういえば、ペン・エークの《インビジブル・ウェーブ》も同じように虚実が曖昧朦朧としていた。
監督 オキサイド・パン
音楽 オレンジ・ミュージック
撮影 クリソン・ブラマシィ
バンク パワリット・モンコビシット
ソム ワナチャダ・シワポンチャイ
制作 フィルム・バンコク 2001年
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