《夏至》 ハノイの三個のパパイヤ

今年、米・仏合作のアクション映画"アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン"が公開になるらしいチャン(トラン)・アン・ユンの、もう九年も前の作品。
如何にもフレンチ好みの造りになっているのはともかく、タイのペンエークとは亦ちょっと作風の違った独特の耽美的映像は僕も気に入っていて、《シクロ》では魔都サイゴンの下町の怪しげな世界を舞台にしていたが、今度は首府ハノイのインテリ・中産階級家庭を舞台に据えている。これもちょっと鼻につくけど、それはそれ、世の中色んな人々・世界があるってことでしかない。

それにしても、アンユン監督の手にかかると、中年のおばさんすら妖しげな女(にょ)性も艶やかに煩悩の蜘蛛の糸を吐く。
《シクロ》でも色男トニー・レオンを絡め取っていたグエン・ニュークイン、ここでも本領を発揮して熟れ過ぎたパパイヤの如く粘っとりと情夫を身悶えさせてみせるが、その生臭さをアンユン監督が、ペンエークの無機的なまでの"揺らぎ"とは別様のファッショナブルなまでに透明な静謐さの中に統べてしまう。
主役のはずのヌー・イエン・ケーも、その業の焔の熾烈さには、すっかり影が薄くなってしまう。それはしかし、その対照として、清々しい若々しさに耀くヌー・イエン・ケーなのであろう。
更に、この《夏至》では、その間にもう一人、レ・カイン演じる次女が入り、二十代、三十代、四十代とそれぞれの世代の女の生態を描き出してみせている。

自宅でカフェを営んでいる長女スオンの旦那はカメラマンで、幾年も前、スオンが流産してしまってから、二人の関係がギクシャクし始め、冷たい関係が未だに続いていた。実は、流産した直後、傷心の余りか、ハロン湾かどっかの人里離れたビーチに若い愛人を作り子供すらもうけていたのだった。その二重生活に次第に堪えられなくなってしまい、スオンと離別することを決意する。
次女カインの夫は作家で、近々出版するべく小説を執筆中。漸く身籠もったことを彼女は夫に知らせるが、姉妹にはまだ伝えず二人だけの秘密にしておくことを約束させる。が、執筆が行き詰まりサイゴンに気分転換に赴く途中の飛行機の中で、たまたま隣り合わせた女に魅かれてしまい、ついにはホテルで逢瀬の段取りまで行き着く。ところが、いざ彼女の部屋に入ってみると女は薄いネグリジェを纏ったまま横になっていて、そのまま廊下に戻ってしまう。浮気は未遂のままに了わってしまったものの、帰宅した彼の背広のポケットに件の女が彼にホテルの部屋番号と時間を認めた紙切れをカインに見つけられてしまう。
下積み俳優の兄と一緒に生活していた末娘リエンは、長女のカフェを手伝っていた。ファザコンが兄コンになり、兄がたじたじになるくらい何かというと兄に甘えていた。リエンの二つ年上の恋人は、リエンの尻に敷かれっぱなしが気に入らず、最近距離を置き始めた。そんなリエンは、しかし、ちょっと前やっと彼と肉体関係を結び、もうすっかり妊娠気分。
姉妹それぞれの悲喜こもごも、最後には互いの不運を嘆き涙に暮れるが、リエンの無知丸出しの"妊娠"誤解に上の二人も涙を忘れ大笑い。・・・
スオン(長女) グエン・ニュークイン
カイン(次女) レ・カイン
リエン(三女) トラン(チャン)・ヌー・イエン・ケー
クォック(長女の夫) アンクル・フン
キエン(次女の夫) チャン・マイクォン
トァン ホァン・ラム・トゥン
フォン レ・ゴォック・ズン
監督 トラン(チャン)・アン・ユン
脚本 トラン(チャン)・アン・ユン
撮影 マーク・リー(李屏賓)
美術 ブノア・バルー
音楽 トン・タ・ティエ
衣装 スーザン・ルー
(ベトナム・フランス2000年作品)


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