《ルオマの初恋》 哈尼人不会騙人
文化大革命前から比較的最近までの雲南のバスの車掌・春芬の長い半生を描いた《芳香之旅》、そして同じ張静初の主演《雲南の花嫁》、その監督・章家瑞の雲南三部作の一番最初の作品がこのハニ(哈尼)族を題材にした2002年の作品《諾瑪的十七歳》。
《雲南の花嫁》は未見で、そのビデオを捜しにビデオ屋に入るとこのDVDが有った。監督の章家瑞(チャン・チアルイ)も文革世代で下放の経験があったらしい。《芳香之旅》は正に彼自身の時代体験そのものだった作品なのだろう。《芳香之旅》は僕も気に入った作品で、その趣とは随分とかけ離れてはいるけど、つい思い出してしまう記憶があった。
嘗て敦煌から新疆だったか鈍いバスに乗ったことがあった。シートが木製で、跳ねるとモロ尻が板張りに打ち付けられ堪ったものではなかったけど、最後部に二人連れの何故か派手な競輪スタイルの日本人が乗っていて、バンピングする毎に叫び声をあげその喧しいこと騒々しいこと、乗り合わせた中国人達も苦笑していた。
少数民族の風土・習慣・習俗はいずれも興味深く絵になってしまう。映像が好いので、こんなブログであっても掲載口絵を選ぼうにも気に入った画像ばかりで取捨するのに苦労してしまった。
先ず、舞台の元陽県紅河の壮観なまでの棚田とやたら階段と坂の多い町、ハニ族女性のカラフルで美麗な衣装。そして、主人公・ルオマの屈託のない笑顔が仲々好いい。そんな中では、込み入った筋立ては必要なく、十七歳のハニ娘の初恋だけを追うだけで十分といわんばかり。ルオマ役の娘も現地募集のハニの女子高生だったらしい。都会育ちの張静初なんかとは随分と感じが違って、山岳の土と風の芳りが漂っていそうだ。
まともな役者は、漢族の青年写真家・アミン役の楊志剛だけという。すると、ルオマのお婆さんもアミンに部屋を貸しているハニの社長も素人ってことだろうか。
雲南省紅河哈尼族彜族自治州のとある棚田拡がったハニ族の村に、祖母と一緒に暮らしているルオマという父母のいない十七歳の娘が居た。
田畑での仕事の合間に近くの町に出、路肩で焼きトウモロコシを売って現金を得る生活をしていた。そんなある日、ルオマがいつも焼きトウモロコシを売っている場所のすぐ近くの写真館の主・アミンが、彼女に目をつけた。彼も又現金収入の方途を探っていたが、如何せん、処世に不器用な芸術写真志望の青年で、昆明にいる恋人に出資して貰っていた二万元も殆ど使い果たしてしまい、写真館の部屋代を今日もハニ族の大家に催促されていた。
そんな彼が思いついたのが、ルオマが観光客に人気があったのを、商売にすることだった。早速観光客が頻く訪れる棚田の見晴らし好い場所に、民族衣装のルオマを連れて行って、彼女と一緒の写真撮影一枚につき十元のプラカードを手に、客のバスが訪れるのをまった。最初は繁盛した。もうお決まりだが、やがてそれを知った他の連中がほっておく訳がなかった。同じ場所に、同じように民族衣装に身を包んだ娘を連れたブローカーの男達が現れた。それも、八元以下の料金を明示して。
忽ち元の木阿弥のアミンとなってしまった。
しかし、ルオマの方は、いつものようにび焼きトウモロコシを再開すればいいだけであったけど、すっかりアミンに惚れてしまっていた。淡い初恋。束の間であっても、毎日アミンのバイクの後部シートに坐ってアミンの背中越しに触れ合い続けていた。
それに、ルオマの親友の、省都・昆明の青年と結婚するルオシアから高層ビルを昇がり降りするエレベーターの話を聞いていて、アミンがきっとルオマを昆明のエレーベーターに乗せてやると約束していたことを忘れることがなかった。
やがて、ルオマが何もかも捨ててアミンの元に走ろうともはや廃業したアミンの写真館の近くに差し掛かると、向こうに一度喧嘩別れした昆明にいるアミンの恋人が、アミンと一緒に昆明行きのバスを待っていた。直ぐバスが止まり、二人を乗せて走り去っていった。ルオマは建物の影に隠れたまま、何一つ云えず、走り去ってゆくバスを見送るばかりであった。
再びルオマはお婆ちゃんと一緒の淡々としたハニの生活に戻っていった。泥にまみれ田圃仕事に精を出し、町に出て焼きトウモロコシを売る生活。あるとき、以前部屋代を溜めたアミンに部屋の調度品まで外にぶん投げて部屋代を請求していて、ルオマがハニの人間なら人に対して優しく振る舞うはず猛烈に抗議したことがあった、今じゃこざっぱりしたスーツに身を包んだその大家たる社長が、ルオマに大きな封筒を手渡した。アミンが写真家として出世したらしい、と一言呟いて。
中には、アミンの写真集が入っていた。表紙にアミンが以前撮ったルオマの写真が使われているではないか。嬉しそうに自分の映った表紙を眺めながら、トウモロコシを焼き続けるルオマであった。
一口に雲南といっても広く、僕が訪れた処なんて本当知れている。勿論資金と時間の問題だけど、しかし、じっくり廻ろうとすると到底一年や二年でも廻り切れまい。それほど、雲南は魅力に富んだ場所なのだ。昆明→大理→麗江のお決まりパッカーラインだけじゃちょっと情けなさ過ぎだ。後になって、嗚呼あそこにも行きたかった、嗚呼こっちにも行っとけばよかったなんて嘆息しきり。
リー・ミン(李敏) ルオマ
楊志剛 アミン
祝琳媛 ルオシア(ルオマの友達)
李翠 お婆さん
監督 章家瑞
脚本 孟家宋
撮影 マー・トンロン
音楽 ホアン・チェンユー
トン・ウェイ
制作 青年電影制片庁 2002年作品
« WIMPY 旅先のファースト・フード | トップページ | モメイのデビュー・アルバム "モメイ" »
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 高杉晋作=東行庵(下関・吉田) 再訪(2026.03.31)
- 黒石ブログ的近況 《 笑うべからず 》同類異種的島田清次郎への接近(2026.03.18)
- わたしと共に磔刑を覚悟する者はいないか ! 古海卓二《 九州の百姓一揆 》(2026.02.23)
- 甲斐大策的軌跡 古い港町のオアシス・グリシェン・カフェ(2026.02.07)
- 浮遊と舞い上がり(2026.01.24)


コメント