《スラムドッグ$ミリオネア》 on BOMBAY
漸く《スラムドッグ$ミリオネア》を観ることが出来た。
巷ではこの映画に出演した少女ラティカ役のルビーナ・アリ(9)ちゃんが父親に中東の金持ちの処に売られてゆくところだと騒いでいるようで、実際は養女ということらしい。父親からすれば、すっかり有名になってしまった娘を決して豊かとは云えない自分の元に置いておくよりも、裕福な家庭で育てられた方が互いに得策と考えたのだろう。売らんかなで信憑性に欠ける英国のタブロイド新聞が騒ぎ始めたらしいけど、普通の意味の養女ではなく文字通りの"人身売買"なんだったろうか。相も変わらずの貧困的故事。
映画自体はイギリス映画でボリウッドではないが、ミーラ・ナイールの《サラーム・ボンベイ》(1988)とマニラトナムの《ボンベイ》(1995)を掛けて二で割ったようで、仲々面白かった。
予告編観てすぐ想起したのは《サラーム・ボンベイ》で、サタジット・レイ以外の僕が初めてお目にかかったエンターテイメント系のインド映画であった。これは国内でもマイナー・ヒットし、この作品でインド映画の洗礼を受けた者も多く、旅先で遭った旅行者の多くがこれを観ていた。
この紹介をしようとしようと愚図愚図している間に、英国人監督の手によるこの《スラムドッグ$ミリオネア》が現れてしまった。何しろハリウッド・ライクなのでやはり映画館の大きな画面じゃ見栄えがする。私的には、エンディング・クレジットのシーンが特に気に入っている。インドなら客の大半が出口に向かっていて極く一部の者しか観ないだろうが。
まだムンバイがボンベイと呼ばれていた頃、スラムに住むイスラム系の男の子二人が空港の滑走路で遊んでいる場面から始まるが、ポリスに追われるシーンなんてブラジル映画《シティー・オブ・ゴッド》の同様の場面を彷彿とさせる。《ボンベイ》では二人のヒンドゥーとイスラムの名をつけられた少年達が宗教的抗争に巻き込まれてしまう物語だが、この映画ではジャマールとサリームの兄弟とラティカというヒンドゥー教徒の襲撃時にはぐれた少女の三人が中心。
子供の乞食組織のボス・ママンに三人が騙され組織の一員として乞食稼業にいそしむようになるが、成長してゆくとラティカは娼婦にさせられそうになる。一度はママンの魔手から逃げ延びた二人であったがラティカを救いに戻り、ママン一味にばれ、逆に追いつめられてしまう。が、兄サリームはもう嘗ての無邪気な子供ではなく、ピストルを取り出し、ママンを射殺し、ラティカを助け出す。《サラーム・ボンベイ》では、主人公クリシュナ少年が組織のボス(ナナ・パーテカル)を階段で刺し殺すだけだが、ここではその兄のサリームがラティカに想いを寄せていたをジャマールをピストルで脅して追放しラティカを自分のものにしてしまう。ここは些か整合性に欠け破綻といってもいいくらいなのだが、そのままだと《サラーム・ボンベイ》の踏襲になりかねないと敢えて整合性を無視した取って付けたような筋を作った可能性も考えられる。
結局、ラティカに観て欲しくて、《クイズ・ミリオネア》Kaun Banega Crorepatiに出たのだった。 日本ではみのもんた司会のこのアメリカ渡りの番組、インドでも同じ時期放送されていて、この映画の中にも出てきた"アミターブ・バッチャン"が司会をしていた。後、アミターブが身体を壊してシャールーク・カーンに替わった。
亦、劇中にアミターブの映画のシーンがちょっと流れるが、《サラーム・ボンベイ》でも、当時アミターブと並んで売れていた女優シュリ・デヴィの映画のシーンが流れた。当然ダンス・シーンだった。映画館でそのシュリ・デヴィの映画のダンスシーンの時、クリシュナ達ストリート・チルドレンが前の方の安い席で立ち上がって一緒に踊りだし、直ぐ後ろの席の大人から映画が見えないだろとどやされる場面だ。
《サラーム・ボンベイ》、持ってるDVDはインド製だが、特典に、映画に出た子供達のその後の姿とインタビューが附いていた。クリシュナンは結婚し元気にやっていたが、最近《スラムドッグ$ミリオネア》のヒットで、彼が仕事もなくなり監督のミーラ・ナイールまでに泣きつき冷たく突き放されいよいよどん底に落ちてしまっていたのがこの映画のお陰で漸くあっちこっちから声がかかるようになったというニュースを見るにつけ、やはりスラムやストリート・チルドレンから這い上がって生きていくってのが少々じゃないくらいに大変なのが改めて分からされてしまった。
勿論逆に欧米に連れられていき(これも一種の養子の類だろう)高等教育まで受けた幸せそうにしていた出演少年も居て、こっちはミリオネアとまでは行かないが映画がラッキーを誘ってくれたという訳だ。この特典ビデオを観て、この《スラムドッグ$ミリオネア》を着想したのではないかと想われるくらいだ。
この《スラムドッグ$ミリオネア》、確かに大画面のハリウッド・ライクで面白いが、でもやっぱり 本物のストリート・チルドレンの出演した《サラーム・ボンベイ》が好い。主演のクリシュナンを演じたシャフィーク・サイード自身も《スラムドッグ$ミリオネア》を褒めながらも自身の主演した《サラーム・ボンベイ》の方がもっと面白いと自慢していた。《サラーム・ボンベイ》でネパールから連れてこられた十五歳くらいの若い娼婦、何とも形容しがたい美しさに見惚れた者も多く評判であったが、衣装はラティカと殆ど同じだった。ボンベイじゃ処女娼婦は皆あんな出で立ちなのかもしれないけど。
司会役のアニール・カプール仲々どうに入っていた。シュリ・デヴィなんかとコンビでメガ・ヒットなんか連発していたアミターブに次ぐスーパー・スターだけど、この所シリアスなものが多くなってきていて時代の流れをつくづく思い知らさせられた。"悪役"振りも悪くない。
監督 ダニー・ボイル
脚本 サイモン・ビューフォイ
撮影 アンソニー・ドッド・マントル
音楽 A.R.ラフマーン
制作 CELADOR FILMs (英国) 2008作品
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