《裁かるるジャンヌ・ダルク》 the Passion of Joan of Arc 1928
オルレアンの聖処女・ジャンヌ・ダルク。
大きな旗を持って鎧に身を固めたフランス娘の図は昔から頻く見掛けたものだが、比較的最近もミラ・ジョヴォヴィッチ主演のリュック・ベンソンのや、ちょっと古い処でイングリッド・バークマン主演のもの等結構数はある。日本人から見ると些か宗教色や愛国主義的な匂いが鼻につくが、それはそれで、当時のヨーロッパ中世、ひいては現在のヨーロッパを知る上で仲々に興味深い題材であろう。
この1928年制作の無声映画、白黒画面の持つ迫力を十二分に活かした傑作で、主人公のジャンヌや坊主達、英国兵士達等の顔や姿を大写しにし、総じて跪ずいたジャンヌの視点からなのか見上げた角度から撮られているようで、ジャンヌ自身だとイエス宜しく火刑の杭に縛り付けられた角度となってしまうのか、何とも形容しがたいほどの鬱勃たる迫力に八十分が短く感じられるぐらい。筆者が観たのは81分バージョンだったが白黒なので画面一杯のフルにしても遜色なく、ひたすら圧倒され続けた。110分バージョンもあるらしく、こっちがオリジナル版なのだろう。是非観てみたい。
当然声音はないが、1994年にリチャード・エイホーンがこの映画のために作ったオラトリオ曲が入っていて、一層ドラマティックに雰囲気を盛り立てている。
1430年5月にコンピエーニュで捕らえられ、占領軍たるイングランド軍に引き渡されてルーアンのブーヴルイユ城に監禁され、翌1431年2月に始まった"異端審問裁判"からこの映画は始まり、同年5月30日朝に"異端者"として教会から破門されイングランド軍に火刑に処されるまでが描かれている。
ジル・ド・レエ卿まで出てくるリュック・ベンソンの作品のようにそこに至る虚々実々の当時のフランス(イングランドも含めて)の政治的状況は、このデンマークの監督カール・テオドール・ドライヤーの映画では省かれ、専らジャンヌの火刑に至る過程をあたかもたった一日の出来事のように描出する。むしろ抽象と呼ぶべきぐらいにその単純化された映像と相俟って共時性すら覚えさせる。
それにしてもここでのジャンヌは何とも涙、涙に暮れ続ける。
山と積まれた薪に火の手が上がるまでは、恐怖に打ち震え、「神様!、神様!」と果てしなく叫び続けた故事に由来するのか。恰度、ナザレのイエスがゴルゴダの丘で磔刑になった折、呼べど叫べど一向に姿を現さぬ神の名を延々と呼び続けたのに似て。あるいは、イエスの母マリアの像の如く、悲しみと哀れみに満ちた涙を彷彿とさせるのか。
正に、一途に神へと収斂してゆく燃え上がる熱情のパッション(殉教)劇って処なんだろう。札付きの無神論者たる筆者ですら、思わずファルコネッティ演ずるジャンヌの嗚咽と涙に引き込まれてしまった。
私的には紅蓮の炎が首を垂れたジャンヌの身体から更に発火し燃え上がる最中、騒ぎ始めた群衆とイングランド軍の争闘劇のシーンも甚だ感心し舌を巻いてしまった。槍を尖塔に投げるシーンなんかも妙にリアル感がある。あの時代で、もうこんな迫力あるアクションが造れていたのかと感心してしまった。まあ、筆者が単に無知なだけかも知れないが。
因みに、この映画には、演劇家・シュールレアリスト詩人としても有名なアントナン・アルトーがジャンヌを庇う若い神父に扮していて、この映画の二年前アベル・ガンスの"ナポレオン"にも出演していた。
ジャンヌ・ダルク マリア・ファルコネッティ
ピエール・カウチョン司教 ユージン・シルバイン
判事 ミシェル・シモン
ニコラス・ロイセラー モーリス・シュッツ
ジャン・マシーユ アントナン・アルトー
監督 カール・テオドール・ドライヤー
脚本 カール・テオドール・ドライヤー
ジョセフ・デルテイル
撮影 ルドルフ・マテ
美術 ハーマン・ワーム
衣装 バレンティン・ヒューゴ
時代考証 ピエール・チャンピオン
制作 フランス 1928年
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