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2009年5月 9日 (土)

《 餃子 》 蠱惑と陶酔の禁断の霊薬

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  ホラー・オムニバス《 三更2之一 》のフルーツ・チャン監督《 餃子 》のロング・バージョン版。 恐怖映画的要素は可成り薄いけど、昼下がりの陽光の下の些か不気味な映画って処で、悪くはない小品だ。
 最近、タイで上映されたらしい歌手でもあるマイ・チャランプラー主演の《チュアット・コーン・チム》という、マイが自らの内に潜んでいた魔性にすっかり目覚め血塗られた妖女全開のホラー映画らしく是非観てみたい一作だが、これは屋台のクォッティヨー(タイの米麺)屋の女主人にマイが扮し、癪に障った連中を次から次へと屠って、自分の店のクォッティヨーの具にしてしまうという仲々凄惨な代物のようで、クォッティヨーというとスープの出汁かルーク・チン(肉団子)しか思い浮かばないが、そのルーク・チンの"チン"って中国を意味し、思わず「やっぱりな」と頷かされてしまう説得力がある。
 勿論タイには《 シーウィー 》という中国南部からの移民労働者のホラーも有名で、これは子供達の内蔵を己の病んだ胸の生薬として確保する物だったけど、中国には伝統的に若返り、回春、不死等という人間の煩悩に発した欲望の追求が徹底されていて、シーウィーも単にそのレシピに忠実だったに過ぎない。人並みのレベルの生活が出来ていればともかく、何しろ貧し過ぎた。それ故、農家の連中が近くの川で魚を釣るように、生薬の素材=子供を釣ったのだろう。子供こそいい迷惑だが、何しろ生まれてきたのがそんな社会だった。

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 陳果(フルーツ・チャン)のこの映画はスプラッター的なえぐさは希薄。むしろ耽美的な赴きすら窺え、画像も好い。中年の域に差し掛かり始めた有名なテレビ女優(李太々)が、旦那・老李が若い女と浮気するのも自分の若さが、瑞々しい肌が失われたことに起因するものと決めつけ、自分の容色の衰えが全ての不幸の元凶とばかり、中国の深圳からやって来たメイという怪しげなもぐりの回春餃子屋のアパートの一室に通うことになる。

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 実は、メイの若返りの餃子とは、女の胎盤を素材にしていたのだった。それ故に香港の怪しげなアパートの一室だったのであろう。ある日若い十五歳の娘を連れて母親が現れ、メイに堕胎を頼み込む。妊娠五ヶ月ぐらいだと堕胎は難しく、違法でもあるので断るが、尚も母親は必死に縋りつく。仕方なく、何の設備もある訳もなく、陶製の洗面台の上に跨らせて寝かせ、施術し、無事堕胎し終えはするが、路上で大量の血を流して死んでしまう。
 その娘の堕胎児をも李太々の餃子の材料として供する。
 偶然その赤く染まった胎児を見てしまって動顛した李太々だが、やはり、己が美貌を取り戻すためと、食し続ける。そのかいあってか肌もぴんと張りつるつると滑らかな若い肌に戻ってきた。張り切って昔の同窓会に思い切って出席したが、周囲のクラスメート達が急に顔を顰め鼻をひくひくさせ始めた。何か魚のような生臭い臭気が漂っていると騒ぎ始め、李太々はそれが自分の身体から漂い出ているのが分かり、慌ててその場から逃げ去ってしまう。
 自宅からメイに抗議の電話をするがかわされてしまう。恰度帰宅していた旦那の老李が会話を盗み聞きし、「人喰い」という言葉に驚き早速メイの処に確かめにいく。メイは、しかし、昔から中国では普通の習慣で、若返りや回春の効用を説き、老李も同じテーブルで餃子を食べることに。食べる傍でメイが老李を挑発し、老李は猛り狂ったようにメイにむしゃぶりつく。激しく絡まる二人であったが、ふと、老李がメイの頭越しに壁に掲げられたくすんだポスターに視線を向けた次の瞬間、ハタと動きが止まってしまった。文化大革命の頃の映画ポスターの端にメイの書き込みがしてあった。単純計算でも、もうメイは六十歳以上になってしまう。尋ねると餃子を食べつづけたお陰という。

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 李太々、医者に言っても大した事ではないと薬をくれるだけ、やはり、メイの餃子に頼るしかないとメイを尋ねるが、恰度違法堕胎手術がらみなのだろう警察が家宅捜索中で、深圳にメイが帰ってしまったのを悟り、悲嘆に暮れるが諦めるしかない。
 もうメイが居なくなったのなら、と李太々は、折から妊娠中の旦那・老李の愛人を呼び出し、金を渡す。堕胎を承知させるためであった。そして若い愛人と共に医者に赴き、中絶手術を受けさせる。引きずり出された堕胎児を李太々は、記念に飾っておくのと云って持ち帰る・・・・厨房のまな板の上に、その赤々とした老李の子供だったはずの堕胎児を載せ、すっかり餃子料理の用意も整って、大きく肉切り包丁を振り上げた。

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 雰囲気はホラーというよりもむしろ料理映画で、ミリアム・ヨンの肌から、バイ・リンの如何にも中国女って感じの服装から、餃子から実に微細な粒子を感じさせる鮮やかなクリストファー・ドイルの映像が映えている。これはやはり中年域に達したミリアム・ヨンとバイ・リンの肌に合わせたのであろうか。
 金髪ならぬ白髪に決めたレオン・カーファイに呆れてしまったが、フランス映画《ラ・マン》の時と較べると隔世の感がある。彼が、劇中、東南アジア名物にすら思える胎児の入った半ふ化茹卵を好んで食べるのも面白い。あれは回春やら精力増強の効能が唱われているのだろうか。プノンペンでよく見掛けたが、あれだけは食べようなんて気も起きなかった。
 東南アジアは人間の救いようのない底なしの業・性が見え透いた、これ見よがしな欲望博覧会の観すら呈している。勿論、香港も中国南部もその域に含まれている。

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 李太々       ミリアム・ヨン
 メイ(餃子屋)    バイ・リン
 李先生       レオン・カーファイ
 コニー(老李の愛人) メメ・ティエン
 ケイト(女学生)   ミキ・ヨン

 監督 フルーツ・チャン
 脚本 李碧華
 撮影 クリストファー・ドイル
  音楽 陳光栄
 制作 香港 2004年

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