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2009年6月17日 (水)

廃れゆく町 三河線・吉浜

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   過疎化が喧伝され始めてもう久しく、特定大都市以外の地方の町の路地の裏々隅々まで及んでいる。日本は狭かったはずが、列島中、一歩入ると朽ちた空屋・廃屋が燻すみ連なり、やがてミニ駐車場となり、あるいは中小のマンションがポツリと建ったり。 
 お陰で、ある日突然在ったものが無くなっているのに気付き、その向こうに長年不可視だったあれこれが忽然とその姿を露わし、あああそこはこうなっていたのかと思わず感心してしまう事しきり。
 大部以前、近辺の町並みを記録のために撮っておこうと思いつきはしたがそのまんま愚図愚図している間に事態は思いの外早く進行し来たり、カメラに収めても収めても切りのないくらいに変容している。嘗て雲南の省都・昆明の居並んでいた今はない旧市街ほどに情緒溢れた佇まいという訳ではないけれど、そんな大袈裟なものではない列島のかそけき陋屋の佇まいでも"消息"あるいは"留念"として何篇か残しておく事にしよう。

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 名古屋のJR刈谷駅から名鉄・三河線に乗り換え、三河湾に続く細長い衣浦港沿いに南下してゆくと吉浜という小さな駅がある。幾年も前、所用で赴くこととなったのだが、途中の景観も工業地帯のそれで殺風景なことこの上ない。殆ど無人駅に近い小さな駅舎を出ると、町中って感じでもなければ、田園地帯が前に拡がっているというのでもないアスファルトのミニ・ロータリーだけの何とも中途半端な、しかし、午前の陽光が眩しく照り返るばかりの眠りこけてしまいそうな閑散として静かな佇まい。

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 その道を少し進むともう二時代前くらいの褪せた旧いマンションなんかが建っていて、線路と平行に走った人影のない道路を歩いてゆくと、突如妙に高い建物が聳えていた。
 見ると《紫峰人形美術館》とあった。
 周囲の雰囲気からして余りにも唐突過ぎて、何なんだろうと思わず小首を傾げてしまった。説明書きに吉浜人形の文字があった。元々無知とは云え余り聞いたこともない名で、この三河・尾張近辺では有名なのであろうと一人納得し、人形の美術館てのも未経験だし一つ入ってみようと一階の人形販売店兼茶店でチケットを買った。端の階段に向かうと、従業員のおばさんが壁のスイッチをあれこれ押し、早速チャンチャラと階段の上から三味線なんかの和楽器の音曲が聞こえ始めた。
 何と、そこはフロアいっぱいに着物姿の人形が氾濫していて、それが整然と機械仕掛けで曲に合わせて動き続けるパノラマ世界。その大仕掛けなのには眼を瞠るものがあった。他に誰が居る訳でもないたった一人の客の前で、艶やかな着物の無数の人形達が一斉に踊りさんざめくさまは、反復される所詮機械的な動作と相俟って、何ともシュールなものであった。

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 線路を越えると海沿いの工場地帯、引き返し民家が連なった方へ歩いて行くと、やがて嘗ての商店街らしき趣きが漂い始め、ふと前方を見遣ると、右に「仲平饅頭」の看板のある小さな旧い商店があった。ガラス戸をレールに沿って引くと、土間になっていて、直ぐ左に二、三段のガラス棚があり、何種類かの饅頭と羊羹が並べてあった。傍の椅子に老爺が一人坐っていた。奥は商家らしくあがり縁になっていて、嘗ては茶葉屋も営っていたらしく大きな茶筒が何個も置いてあった。奥の柱に掛かった大きな時計や帳場の台まで置いてあって、古の姿をそのまま留めているのは、単に老爺達が今尚"生活"し続けているということなのか、それとも流行の趣味的ディスプレーなのだろうか。
 早速、仄暗いつげ義春の世界にでも紛れ込んでしまった錯覚でも起こしそうだった。
 雲南省は古の都・大理の、小さな回族の饅頭屋のガラス棚には、も少し品数も多く且つ淡い紅色が艶めいていたけど、店の佇まいに似て、仲平饅頭は素朴な味が悪くはなかった。
 一歩路地を入ると早速淀んだ廃屋の屍が横たわり、色褪せ埃に泥んだシャッターが降りたままの店も少なくない、嘗てはそれなりに繁華な駅前に至る商店街だったのだろうが、昼尚閑散として、殆ど無人の赴きすらあって、これはいよいよ、明るい陽光の下の猟奇・怪奇小説の舞台そのもの、昏いつげのおどろおどろしい思念の跋扈する境界そのもの。

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