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2009年6月24日 (水)

《理想郷シャンバラ》田中真知   宗教的危機の時代のイデオロギー

  Shambhala_x

      カルキ

  「・・・チベットの伝承は語ってます。
 今から二千五百年前、ブッダはカルカッタの近くのバンデン・ティエポンというところでシャンバラ最初の王ダワ・サンポ(スチャンドラ)にカーラチャクラ(時輪)の教えを説いたと・・・」(『理想郷シャンバラ』田中真知)
 
 オウム真理教や麻原彰晃にとって何だったのか詳びらかでないけれど、チベット仏教やボン教に興味なくても、一時人口に膾炙した《シャンバラ》。
 想像力溢れた旅人達にも"チャン(北)・シャンバラ"のマントラに魅せられてラサから北をあちこち巡り廻った者少なからずであったろう。筆者も関心だけは十分に持っていて、ダライ・ラマの亡命政府の在所のダラムサラを訪れた折、付属図書館に通って、さっぱりのチベット語書籍以外の英語表記の書籍をあれこれ確かめてみたものの、仲々これといったシャンバラ関係の書籍に巡り会えなかった。恐らくチベット文字で認められた書籍の中にこそ、ひっそりと秘密の扉が開かれていたのであろう。
 図書館のある一画の外れの寺院で、ハリウッド映画《アルタード・ステート》で使われた"チベット仏教音楽"と同じものが僧達によって誦され奏でられるのを偶々居合わせたイタリア人カップルとチャイまで供され寺院内で拝聴出来るチャンスを得られた事だけが唯一の僥倖であった。何しろ間近で生なので迫力が違った。あの音楽、少々じゃなく雰囲気あって素晴らしいのだが、CD捜してもてんで見つからず殆ど諦め状態。
 
 国内でもこれと云ってシャンバラ自体に言及した物ってそうそうなく、ニコライ・レーリッヒの《シャンバラへの道》は悪くないが、ちょっと違うし、結局、読物的な好奇心も満足させつつ入門書として且つ包括的にシャンバラについて書かれた唯一のものとして、かの田中真知の《理想郷シャンバラ》(学研)についてしまう。実にコンパクトに纏められた好書で、"ポケット・ムー"シリーズの一つとして、又国内のシャンバラ本としてはもう古典の領域に入っていると云っても過言ではない。

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       グルジエフ

 田中真知に依れば、シャンバラとは、中央アジアの何処かにある選ばれた者にのみ開かれた聖なる理想郷って処だが、中世インドで、イスラムの侵攻に危機感を抱いたヒンディー達が、それに対抗するために構築した思想・理論体系って話有名で、当時のインド仏教に於いても同様の顛末だったらしい。更にチベット仏教に於いても。要するにこの地上そのままではない不可視の世界、地底であったり遙かヒマラヤの山間ってのが、些かダラムサラのダライ・ラマ亡命政府とダブって、緊張した危機意識ってものをひしひしと感じさせる。
 田中は云う。西方で起こった野蛮なラ・ロの教え(イスラム教)、その信者達が数え切れないほど多数の仏教寺院を破壊し、野蛮で強引な方法で人々を支配し、勢力を拡大し、ついには西暦二十四世紀、シャンバラにその矛先を向けるようになる。二十五代目のシャンバラの王カルキ(ラウドチャクリン)が十二神の軍隊を率いて、ラ・ロ軍と凄まじい戦いを繰り広げ、結局勝利する。

 早い話、宗教戦争って処だけど、今現在も、世界はイスラム・キリスト教の元はユダヤ教の兄弟一神教が数的に圧倒していて、仏教なんて微々たる勢力に過ぎない。イスラムとキリスト教が、中国でもじりじりと浸透し続けているらしい。多神教のインドのヒンドゥーと併せて漸くナンボの仏教なのだ。一神教なんて、現実と彼等の歴史自体で破綻していると一蹴する筆者から観れば、正に現実世界の救いようの無さがその蒙昧性そのものと単純・簡単に理解できるので、しかし、では、仏教はといえば、ブッダから甚だ遠い乃至は無縁なところにあるとは多くの人達が指摘してきた通りでもあって、そもそも宗教が現実に一体何を為し得るのか、本当に人々を救えるのかなんて初歩的(基本的)な問いを立て直さなければならなくなってくる。

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 それに又、王だ、聖人だ、神だと絶対専制支配の全体主義国家そのままじゃ、ちょっと遠慮させて欲しい。物事の論理・筋道ってのは、水が上から下に流れるような理(ことわり)なんで、如何なに華々しい肩書きを軍人達のように肩や胸にこれ見よがしにキンキンラと飾り付けてみせた処で、所詮、もはや寄生虫の代名詞の感のある政治屋・官僚と寸分の違いもない。"聖人支配"と銘打った処で所詮それ以上のものではない。そこで老子の"小国寡民"、"限りなく支配せぬ王"の政治の原理と相俟って検討を要することになろう。今こそ、シャンバラは、自由と平等が親和的に遍(あまね)く構造化された理想郷=社会として捉え返し再構築すべき時だろう。

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      画家ニコライ・レーリッヒ

 オッセンドウスキーの「アガルタ」、ヒトラー=ナチと結びつくブルワー・リットンの「来るべき民族」やハウスホッファーの「ヴリル・パワー」、ミルチャ・エリアーデの「ホーニヒベルガー博士の秘密」、グルジエフの「サルムング教団」等様々な"ムー"らしい面白説話を網羅していて飽きない。旅行作家としてすっかり有名になってしまった田中真知、この本の初版からもうかれこれ二十五年、そろそろ本格的なシャンバラ物を書いて欲しいものだ。

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     徐松波

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