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2009年7月 4日 (土)

アメリカン・ロードムービー《地獄の逃避行》Badlands

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  この映画、ロード・ムービーの金字塔の一つらしく、派手さはなくむしろ淡々としてキット&ホーリー二人の破滅的青春の軌跡を描いている。これは1958年に実際に米国で起きた殺人行をモデルにしていて、米国中部という場所が、如何にもって感じで、仲々に雰囲気をもうそれだけで醸し出している。
 モデルの二人、チャールズ・スタークウェザーとキャリル・アン・フューゲートの二人が最初に出遭ったのは、事件の二年前、チャールズ十八歳、キャリル十三歳。十三歳の中一娘を見初めた訳だが、すっかり気に入って、学校を辞め、キャリルの学校の近くの職場で働き始めたという。映画では主人公は、映画俳優ジェームス・ディーン似の設定だけど、実際にチャールズ・スタークウェザーも似ていてディーンに心酔していたらしい。この辺りは、この映画へのオマージュ作とか云われているトニー・スコットの《トゥルー・ロマンス》で主人公クラレンスが幻影(それとも霊)を視るプレスリーと相似。

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 映画では、のっけからキットは清掃車(ゴミ・トラ)に乗っかって家々の前のゴミを回収してゆく。尤も、すぐクビになってしまう。低賃金労働をばかり次々と乗り換えて行っているイメージ。昨今の日本でも否応なしにそんな不確かな状態に陥れられた青年達で溢れている。否、中年も高年も女性も。
 ホーリーは十五歳設定で控えめで目立たない学生。シシー・スペイクス、この翌年ブライアン・デ・パルマ監督《キャリー》で地味娘の極みみたいな役をやって大当たり。
但し、モデルのキャリル・フューゲートは少しふっくらした愛らしい風貌の娘で、監督のテレンス・マリックが作ったのだろう。確かに、彼女のモノローグを聞くにつけ、そっちの方が雰囲気は出る。米国中部の小さな町で、母親と死に別れ父親と二人の生活、何の変化もない人生を悶々として送ってきたという処だろうが、リンカーンは一応州都で人口今では二十数万人。大学町らしい。映画ではもっと本当に小さな町って設定で、十五歳のホーリーの閉塞し鬱屈した存在性ってものが際立ってくる。現在ではもう記号と云っていいくらいに定式化され、容易に了解出来てしまう。
 早い話、ホーリーは誰か白馬に乗った王子様、あるいは呂樂監督《十三の桐》の中国・四川の女子高生、風子みたいに駱駝に乗った王子様を待望していたという訳だ。

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 そこに現れたのが、希代の殺人犯。
 と、云っても最初からではなく、彼女と付き合い始めた頃には普通の冴えないけどジェームス・ディーンに似たカッコ好い青年であった。父親に内緒で付き合っていたのが、とうとうばれてしまう。そこで、キット、父親に直談判するがにべもなく撥ねつけられ、とうとう強行手段に出る。ホーリーの家に向かいホーリーを無理矢理連れ出そうと謀んだ。が、留守で、キットは忍び込み、ホーリーの衣服を彼女の鞄に押し込んで待っていると、ホーリーと父親が戻ってくる。腰から取り出したピストルをこれ見よがしにホーリーを連れに来た旨伝えると、父親は怒り、警察を呼ぶと電話に向かう。慌てて階段を降り止めようとする以前に引き金を引いてしまう。父親は床の上にくの字に倒れ、ホーリーが慌てて走り寄るも次第に弱ってゆき力尽き死んでゆく。二人は、しかし、暫くその家に居続け、家に火を放ち、車で逃げ去ってゆく。
 後は、次から次へと果てしなく行く先々でピストルとライフルで射殺していき、隣のワイオミングで逮捕される。

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 米国中部・中西部の果てしなく荒涼とした景色が好い。
ロード・ムービーの由縁だが、正に逃避行で、映画では、最初に何処かの森に隠れ、樹上に木を組み合わせた隠れ家を造って自然生活を堪能する。後のランボーを彷彿とさせるような仕掛けや隠れ穴なんかを作り、バンダナを額に巻いてエクササイズも欠かさず、やがて現れた三人組の追っ手も、キットに返り討ちにされてしまう。
 この映画で一番印象に残ったのは、キットが以前勤めていた清掃車の仕事仲間ケートーの荒野の一軒家を訪ねて行き、《俺達に明日はない》でもあった屋外に長テーブルを出して食事するシーンもさることながら、スペイン金貨が出たという地所の向こうにケートーが二人を連れて行く途中、スコップを持ってくると急いで家に戻り始めたのを、警察に通報するつもりと勘ぐって、キットがケートーを追いかけながらライフルで撃ち抜くシーン。果たして本当にケートーは警察に密告しようとしたのか如何か。画面の感じではやはり通報に走った感が強いのだけど、この俳優、何処か哀愁めいたものを漂わせた中年の大男で、それが何ともやるせない。腹を撃ち抜かれたまま、陋屋の自分の家に駆け込みベッドの上に横になる。二人も何事もなかったかのように入ってきて、ホーリーが次第に衰弱して行くケートーの話し相手になる。ホーリーの父親の時もホーリーが傍に付き添ったが、画面では直ぐに死んでしまう。看板描きというウォーレン・オーツには珍しい役だったが、しかし、この映画よりテレビで活躍してたらしいラモン・ビエリ、仲々好い味を出していた。

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 映画の中で時折流れてくるマリンバ(木琴)の調べ、後年作られた《トゥルー・ロマンス》の主題曲と相似で、確かに、この音楽は《トゥルー・ロマンス》がオマージュというのも頷ける。この楽天的な調べは、暗さ殺伐さから救っていもいる。

 実際も裁判で争われたらしいけど、ホーリーが一体何処までキットの殺戮に関与していたか、曖昧。モデルがそうだったから、監督のテレンス・マリックも独自な決定的見解を示すこともなく、とは云え、画面では可成りホーリーは距離を取っているように描かれてはいる。ワイオミングの荒野で警察のヘリコプターが姿をみせた時、ホーリーはもうキットと一緒に逃亡を続けることを厳として拒否した。まだ十五歳のホーリーはさすがに飽き疲れたのだろう。キットも一人で逃げはしたがすっかり気力が萎えていた。ホーリーと一緒であってのスリリングな逃避行だったにちがいない。

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 映画ではホーリーの父親一人が殺されたようになっているが、実際は、彼女の家を訪れたが留守で、居合わせた彼女の母親や継父と口論になり射殺し、やがて戻ってきたキャリル・フューゲートと一緒だった彼女のたった二歳の妹すら扼殺したという。このキャリルの妹まで殺害したってのがよく分からない。おまけに、父母の方は射殺だが、この妹の方は可成り残虐に殺害していて、父母の屍体を見て取り乱したのを黙らせようとしたのかも知れないが・・・。

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 又、画面では、偶々やってきた高校生カップル、ジェンセン&キャロルが、キットにハリケーン用の待避壕に押し込まれ施錠され、キット思い出したように、退避壕の隙間から二発ピストル(リヴォルバー)を発射し逃げるシーン。直ぐに通報されちゃーとばかり軽く殆ど威嚇かともかく一発ぶち込んでおこうと云わんばかりの仕草であった。
 が、実際、男の方の被害者、ジェンセンは、頭に六発もぶち込まれていたらしい。六発といえば、回転式拳銃だと全弾ということになる。何か余程気に入らないことでもあったのだろうか。それに、裁判になってからか、スタークウェザーは、ジェンセン殺害は認めたものの、連れの娘キャロル殺害に関して、キャロルを殺害したのはキャリルだと申し立てしたらしい。勿論キャリルは否定したらしいが。
 スタークウェザーは1959年一月にネブラスカで電気椅子刑に処され、キャリル・フューゲートも投獄され、1976年に仮保釈。

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 気むずかしいオヤジが似合うオーツ。翌年ペキンパーの「ガルシアの首」に主演

 スタークウェザー、両親は大工やウェイトレスなんかをしていて、特に父親は穏健な人物だったらしいが、スタークウェザー自身、極度の近眼と言語障害を患っていたという。学校でも色々いじめられたりしていて、後年ジムに通うようになって体力が付いてくると、今度は逆になってしまったようだ。可成りコンプレックスと社会に対する憎悪の念は強かったのだろう。
 尤も、写真見る限り、少年時はともかく、ジェームズ・ディーンには余り似てると思わないがそれなりの容貌だし、米国だけに限らないけど社会の底なしの歪みが、彼をして"アメリカン・スプリー・キラー"(連続殺人犯)にまで仕立てあげてしまったのだろう。 只、米国政府・権力関係は置くとして、米国内の凶悪殺人犯って、様々なスプラッター映画でも分かるように、少々じゃなく、このスタークウェザーなんて、たった十一人殺しでしかなく、嘗ては十一の星で燦然と輝いていたのが、最近じゃ凋落の一途って訳で、一体これから先、何処まで落ちて行くのだろうなんて惨憺たるベトナム戦争以来の米国の大量殺人史ではある。

 キット        マーティン・シーン
 ホーリー       シシー・スペイクス
 ホーリーの父親    ウォーレン・オーツ
 ケートー(清掃夫仲間) ラモン・ビエリ

 監督 テレンス・マリック
 脚本 テレンス・マリック
 撮影 ブライアン・プロビン
    ステヴァン・ラーナー
    ターク・フジモト
 美術 ジャック・フィスク
 音楽 ジェームズ・テイラー
    ジョージ・アリソン・ティプトン
 制作 ワーナーブラザース 1973年(米国)

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 キャリル・フューゲートとスタークウェザー

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  キャリル・フューゲート

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