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2009年8月24日 (月)

グル・ダットの《 バーズ 》BAAZ 1953年

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   1964年に39歳で亡くなった50~60年代のインド映画黄金期の立役者・伝説的インド映画監督グル・ダットの監督三作目の作品。"BAAZ"とは、ヒンディー語で"鷹"を意味するらしい。グル・ダット、メインで出ていても、実際にはタイトル通り女優・ギータ・バリ演ずるニシャン(バーズ)が主演。これまた、伝説的コメディアンらしいジョニー・ウォーカーも占師としてグル・ダットに絡む。

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  ヒロインのギータ・バリ、美形というより男勝りの愛らしい娘って感じの女優で、四十年代から六十年代まで活躍したらしい。北インド出身のジョニー・ウォーカーは、工場労働者家庭に生まれ、苛烈な労働環境だったのか幾人もの兄弟が若死にし、ボンベイに移り、そんな境遇から抜け出そうとバスの車掌になる。そういえば、南インド映画の雄・ラジーニカントも以前はバスの車掌だったはず。グル・ダットにウィスキーの商標だった"ジョニー・ウォーカー"の名を授けられたという。二人は名コンビだったようで、ダットが自殺してからはすっかり消沈してしてしまい、殆ど画面には登場しなくなったとのこと。

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 十六世紀というと、タイ映画"スリヨ・タイ"の時代でもあり、黒田長政や和冦の跋扈した時代でもある。ポルトガルが、ブラジルにアフリカからの奴隷を引き連れ、サトウキビ栽培のプランテーションを展開していった時節でもある。"大航海時代"と西欧では云うらしいけど、アジアやアフリカ・南北アメリカ大陸の人々にとっては、地元の圧政と新参の更なる圧制者の到来で甚だ迷惑な受難の時代であった。       
  植民地支配に抗すると云うと、以前に紹介したボリウッド映画"バガット・シン"みたいなプロパガンダ臭紛々たる愛国映画風に思われがちだけど、これはあくまで基本はラブ・ロマンスであって、殆ど海洋活劇物に近い。(沖の帆船が何とも可愛らしく笑わせてくれる) 英国支配はつい最近の出来事なので"反英"的なテーマや背景は珍しくないけど、"反ポルトガル"は珍しい。

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 そんな十六世紀、アラビア海に面した南インド・バラバル地方を舞台にした、奴隷船で暴動を起こし乗っ取り、ポルトガル支配に反旗を翻し、領主をも巻き込んだ、蜂起した叛徒とその女首領"バーズ(鷹)"=ニシャンの、藩主の王子とニシャンの恋を主軸にした物語。
 映画はのっけからポルトガル兵達の住民達に対する悪辣・狼藉から始まる。
 植民地化された国とは何処でもそんなもの。基本が治外法権。それをあれこれと正当化するためにもっともらしい粉飾を擬するのが常套。狼藉ポルトガル兵をニシャン達がやっつけているのを聞きつけたポルトガル兵の援軍が現れ、ニシャンが窮地に立たされてしまう。と、そこへ、馬に乗ったラヴィと名乗る実は藩主の王子が助け出す。二人は忽ち惹かれ会う。

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 ところが、ニシャンの父親が友人のイスラム商人を匿った事から植民地軍に逮捕されてしまう。ニシャンは藩主の皇后の処に赴き、父親の免罪を願い出るが、そんな力は自分にはないのだと断られてしまう。やむなく友達と連れだって、将軍の居所に侵入し、弓矢を構え、父親達の釈放を求めようとするが、逆に捕らえられ、父親達と一緒に、奴隷船に売られてしまう。沖合に出ると、ニシャンの父親やイスラム商人達は海中に放り込まれあえなく海の藻屑と化してしまった。怒ったニシャンは、奴隷達に奮起を促すべく唄い始める。叛旗の唄ってところなのだろう。ステレオ・タイプではあっても、ニシャンのギータ・バリの男勝りの魅力全開とばかり、囚われ悲嘆と諦念そして呪詛の念に悶々としていた奴隷達の魂を揺さぶり奮い立たせる場面悪くはない。忽ち、奴隷達の叛乱が始まり、奴隷船一味は、船長共々海中に叩き落とされてしまう。叛乱に参加した元々インド人だった奴隷船の隊長だけは生き残り、ニシャンの片腕としてニシャンを補佐することとなる。

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 そこに偶然にも、ラヴィ、すなわち藩主の王子を乗せたポルトガル船が現れ、ニシャン、否、もはや"バーズ"率いる反乱船に攻撃を受け、占拠され、バーズによって身分を隠したままのラヴィや宮廷占師(占星術師)達は危うく一命を取り留め、雑役夫として働くはめに。ニシャン、再びラヴィに対する想いが再燃する。
 やがて、元の町近くに戻り、洞窟に隠れ、機を窺ってポルトガル軍を攻撃し、追い払ってしまう。晴れて、ニシャン、ラヴィと一緒になれるのであろうか・・・。

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 筆者の観たヤシュ・ラジュ・フィルムのDVD、白黒の画像そんなに悪くはないが、傷が少なくない。有名俳優の映画でも、保管はこんなものなのであろう。
 グル・ダット、別に美男って訳ではないが、ラジーニカントをナイーブにしたって感じは、やはり生まれ育った環境の差なのであろうか。この映画では、自身がメガホン取っ手いるからか、専らニシャン役のギータ・バリの引き立て役。
 冒頭の、ベトナムのと似た菅笠被ったニシャン達娘達だけの、クリケットに似た遊びは笑わせるけど、あの頃既にそんな遊びが、本当にあったのだろうか。グル・ダットの創作か。あの菅笠、《ディル・セ》でも、イントロの"チャイヤ"に出てくる列車の乗客達が被っていたのと似ている。インドでそんな姿見たことなかったが、実際には特定の場所では今尚使われているのだろう。この映画の舞台は南、"チャイヤ"は北と随分と離れているが。

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 グル・ダットは本名を、ヴァサント・クマール・シヴァシャンカル・パドゥコーンというブラフミンの家系の、カルナタカ州生まれで、後カルカッタ付近に引っ越したらしい。やがてグル・ダットと改名した。ダットという名字はベンガルのものらしい。学生時代をベンガルで送ったせいか、ベンガル文化に影響を強く受けているとも評されている。
 グル・ダットは俳優になる以前は駆け落ちしたり、親に姪を押しつけられたり、そして俳優になると、当時有名だったプレイバック・シンガー、ギータ・ロイと一緒になる。家族の強い反対を押し退けてまでして漕ぎ着けた結婚であったのが、しかし、以前から只ならぬ仲だった女優・ワヒーダ・レーマンが距離を置くようになってしまいギータとも疎遠になって行き、元々酒と睡眠薬が常態化していたダット、一層溺れ始め、1964年10月10日、酒と睡眠の薬過剰摂取で帰らぬ人となった。

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 嫁さんのギータ・ロイも、ワヒーダ・レーマンの事なんかも関係したのか、飲酒に耽るようになり、ダットの死後、8年後に、41歳の若さで肝硬変で亡くなってしまった。先年亡くなったラータ・マンゲーシュカルの全盛の頃のライバルであったのだろう。因みに、ギータ、この《 バーズ 》でも、ニシャンをラヴィが助けた後の'Zara saamne aa'を唄っている。

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   歌姫・ギータ・ロイ 

               
 ニシャン(バーズ鷹) ギータ・バリ
 ラヴィ(王子)       グル・ダット
 宮廷占師        ジョニー・ウォーカー
 ロシータ         クルディプ・カウル
 ニシャの友人    ヤショドラ・カッジュー

 監督  グル・ダット
 脚本  ラルチャンド・ビスミル
             グル・ダット
 撮影  V.K.マーティー
 音楽  O.P.ナヤール
 制作  (インド)1953年

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