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2009年8月15日 (土)

《メモリー》 ポスト・タイバブル的メランコリア

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  今年六月、タイの映画雑誌《スター》の主催する"スター・エンターテイメント・アワード"で、マイ・チャルンプラが《メモリー》で"主演女優賞"を貰い、相手役のアナンダ・エヴァリンハムも他の作品で"主演男優賞"を貰った。因みに《フェーン・チャン》で可愛い女の子役をやっていたフォーカス・チラクン、蒼井そらも出演した《夏休み ハートはドキドキ!》で助演女優賞を獲得。
 アナンダ・エヴァリンハム、超モテモテ振りは未だに陰りを見せてないようだけど、この数年の間に一体何本主演映画を撮ったのだろう。外国育ちでタイ語も満足に読めないという。タイの若者達にとってはそっちの方がカッコ好いのだろうか。
 双子のサイコ・ホラー《アローン》のマーシャーに触発されたのか、《スリヨタイ》で夫王を毒殺し愛人を後釜に据えた毒婦シュリスダチャンを演じてすっかり自身の魔性に目覚めて以来なのか、マイもこの《メモリー》では、心を病んだ魔性を秘めた女を好演している。但し、魔性はあくまで"秘め"られじくじくと洩れ燻り続けるばかりで、次作のとうとう権力すらが苦虫を噛み潰してクレームまでつけた札付きスプラッター・ホラー《ミート・グラインダー》で正に血塗れ全開。

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 チェンマイの病院で異常犯罪者専門の精神科医をしていたクリット(アナンダ・エヴァリンハム)、すっかり疲れ果て、鬱々とした日々を送っていた。見かねた友人の警察官が、彼にある患者を紹介した。一人の小さな少女で、母親に連れられてやってきた。 その少女は黙りこくるばかり。やがて、何かに怯えるように逃げ出してしまった。母親のオーンにも罵られてしまう。
 クリットはこのままにしておくのも忍びなく、少女の屋敷を訪れる。瀟洒な佇まいの屋敷であった。少女は自分の部屋のベッドの上に居て、クリットはクレヨンとスケッチ・ブックを渡す。少女は興味を示し、早速絵を描き始める。出来上がった絵は、自分の家の外に母娘の二人が手を取り合って散歩している光景が描かれていた。頻(よ)くある子供の絵でしかなかった。ふと見ると、描かれている家の中に、彼女自身であろう少女が一人窓から外を覗いていた。すると、その親娘は?

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 クリットは再び少女の屋敷を訪れた。
 しかし、それは少女の病状を診るためだけでなく、母親のオーンに遭うためでもあった。クリットは彼女の艶やかな魅力に魅せられていた。リビング・ルームで彼女と間近な距離で向かい合った時、思わずクリットは彼女の唇を奪いそうになった。彼女の方もむしろそれを待っていたかのように応じようとした次の刹那、クリットの視界の端に少女の影が覗け、慌ててクリットは顔を遠のけてしまった。
 後日訪れると、オーンは挑発的なぞろりとしたガウンで対応し、互いに欲望と現実の混交し錯綜した一時に浸り、クリットが少女の部屋に入るや否や少女に彼がプレゼントした熊の人形を投げ返されてしまう。そこで、クリットは鞄からメトロノームを取り出し、ベッドの上で動かしてみせる。そっぽを向いていた少女もその珍しい音に早速興味を示し、催眠状態に陥れられ、心の内に押し秘められた記憶を語り始める。 ふと闖入してきたある少年の死であった。

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 オーンにその事を問い詰めようとすると、彼女は激高しクリットの背後の壁に物を投げつけた。クリットが帰った後、オーンは少女の両頬を握りなじり怒る。泣きながらベッドの背後で怯え打ち震える少女、怒気を吐き出し正気に戻り始め少女の怯え泣く姿に、自身の救いようのない所行に慚愧の念を覚え、自らも泣き出しながら少女を抱きしめる。典型的な、DV的連鎖症候群って奴だった。オーンも前夫に散々な暴力を受けてきて精神の平行を失ってしまっていたのだ。

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 再びやって来たクリット、薬物を入れた飲み物を飲ませられ、その場で苦悶し始めるとオーンは少女を連れ屋敷から逃げ出した。自分の口に手を入れ胃の中の物を吐き出し携帯で連絡し、辛うじて一命を取り留めた。やがて、友人の警官からオーン母娘二人の居場所が分かったと連絡があり、二人で件の高層ビルへ向かう。途中警官が、お前は彼女が好きなのか、と問われる。一人で行った方が間違いないだろうと、クリット一人がエレベーターに乗り込む。と、上階のエレベーターの出口で少女を抱いたオーンと鉢合わせし、クリットは、誰も君達母娘を悪く思っちゃいない、二人の面倒を見させてくれと言い聞かせ、オーンもクリットの真摯な気持ちに歩み寄ろうとしたまさにその時、クリットの友人が現れ、オーンは逃げた。そして屋上に上り、必死でクリットが宥めようとしたのももはや伝わらず、オーンは少女を抱きかかえたまま飛び降りてしまう。

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 いつもの生活に戻ったクリックの病棟に一人の少年がベッドに蹲っていた。その少年こそオーンの身体の上に乗っていたので無事であった少女であり、少女は実は少年であったのだ。男に対して底なしの不信と憎悪を抱いていたオーンが女として育てたのであった。

 家長や夫の長年の暴力によって性格に歪みが生じ、それが今度は自分の子供や他者に対してその深奥に蓄積された暴力性が噴出し、次から次へと連鎖的に拡がって行く症候群。日本でも、自分の娘と娘の友人の豪憲君の殺害犯とされる畠山鈴香もその典型のようで、これは又、社会=世界自体の暴力性との相関性としても見られるべき代物。
 オーンも被害者なら畠山鈴香も被害者に過ぎない。
 ボリウッド(インド)映画でもDVをテーマにした映画稀に見掛けるけど、ハリウッド・ホラーなんかでは枚挙に暇がないくらい。それにしても、特別派手なシーンも殆どなく、登場人物も少ないのにも拘わらず、それなりに見れてしまう監督トルポン・トゥンカムハンの手腕は大したもの。マイもアナンダも子役も悪くない。タイ・ホラーもとうとうここまで来てしまったんだなー。

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 マイ・チャルンプラ
 アナンダ・エヴゥリンハム
 パルジー・ケムサワット
 エカラット・クリッガエン
 
 監督 トルポン・トゥンカムハン
 脚本 トルポン・トゥンカムハン
    カルン・ホントン
    オサティー・ウラランクル
 撮影 ウィナイ・パトボムボーン
 音楽 ブルーノ・ブルヤーノ
 制作 タイ映画 2008年作品

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 マイの魔性全開ホラー「ミート・グラインダー」 

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