アメリカ南北戦争の確執《ロング・ライダーズ》
タランティーノの映画《キル・ビル》で悪役を演じていたデヴィッド・キャラダインが、先だってタイのバンコクのホテルの自室で変死したニュース、殺人事件かと暫くニュースを追っていると、病死あるいは事故死に落ち着いてしまった。セクシャルな死に様は、確かに《キル・ビル》での悪役のイメージそのまま。年齢考えたらもういい歳だったけど、嫌いな俳優ではなかっただけに残念。
ところが、その後今度は、《ブローバック・マウンテン》にも出演したランディー・クエイドが夫婦で、テキサスの片田舎のホテルで一万ドルの料金を不払いで警察に逮捕されたというニュースがあり、そこまで零落(おちぶ)れてしまったのかと驚いてしまったが、どうも行き違いのようで、クエイド自身が保釈金を払って釈放されたという。
相次いで続いた二人のゴシップ・ニュース、何故気になったかといえば、二人はウォルター・ヒル監督の異色西部劇《ロング・ライダーズ》に三家の兄弟同士で共演していたからだ。実際のジェームズ-ヤンガー・ギャングのそれぞれの兄弟に、俳優陣もそれぞれ実の兄弟が演じた異色作。当時は、新感覚西部劇ってふれこみで、伝説的アウト・ロー、ジェシー・ジェームズとその一党の物語。
デヴィド・キャラダインがヤンガー兄弟の長兄・コール・ヤンガーに扮し、例の長細い顔に長髪で決まっていて、単細胞な弟エド役のデニス・クェイドとすぐ袂を分かつクリル・ミラー役のランディー・クェイドも仲々渋い。
"ジェームズ-ヤンガー・ギャング"と呼ばれ、南北戦争(1861~1865年)後の南部ミズーリを中心に、銀行強盗・列車強盗・駅馬車強盗と暴れ廻った。元々南部軍のクァントリル奇襲部隊に所属し、北軍に対するゲリラ戦を展開してきた隊員達で、戦後も南北の確執が続き、北部の方では極悪非道なアウト・ロー集団、南部の方では義賊として見られていたらしい。
南北の確執というのは戦後になっても容易に解消されないものらしく、筆者もイエメンでそのとばっちりを受けてえらく迷惑を蒙ったけど、この映画は、そんな南部を舞台に淡々とまではいかないが、年代記的に構成し、ジェシー・ジェームズの最期まで追っている。さすがウォルター・ヒル、仲々面白く仕上がっている。
"ジェームズ-ヤンガー・ギャング"やその周辺のルーツは、結局南北戦争、南部と南軍のなかんずく伝説的ウィリアム・クァントリル大尉率いるクァントリル奇襲部隊にあるようで、大尉自身戦後も確執を引きづって生きたらしく遂に北軍に銃撃を受け死亡したらしい。
1866年2月13日、ミズーリ州リバティーのクレイ郡預貯金協会(Saving Assosiasion)が、ジェームズ-ヤンガー・ギャング達によって襲撃され、現金・債権等6万ドルも強奪された。これが、米国史上初の白昼の武装した銀行強盗事件となり、歴史に刻印され、何かでこの日が初の白昼の銀行強盗事件の記念日となっているような話を見た記憶がある。
映画では簡略化して、兄のフランク、ジェシー・ジェームズのジェームズ兄弟、コール、ジム、ボブ・ヤンガーのヤンガー兄弟、クリル、エド・ミラーのミラー兄弟が主人公だが、それに後年ジェシー・ジェームズを背後から殺害したので悪名高いボブ・フォードとチャーリーのフォード兄弟(映画では双子)は、一味に入ろうとして皆にシカとされてしまう場面以上の説明がない。実際には大部後に参加。
昔の西部劇といえば、ゲーリー・クーパーやジョン・ウェインなんかが、腰のごっついガンベルト、シャツの上にチョッキ(ベスト)がいいとこだったのが、長いロング・コートに腰には長い銃身のリボルバー・ピストルを吊したロング・ライダー達。町中をこれ見よがしに走ってみせる初期の自動車。ワイルドな開拓史的熱血世界に射してきた近代の影って趣きなのだが、実際には時代的には殆ど同じはずで、ウォルター・ヒルが些か冷めた情緒に造型しているに過ぎない。
映画はのっけから銀行強盗の場面から始まる。
初めて参加したのかエド・ミラー(デニス・クエイド)が一人興奮し苛立ち、ジェシー達にさんざん諫められながらも、とうとう銀行員を射殺してしまい、忽ち狭い銀行の中は弾丸飛び交う修羅場と化してしまう。ジェシーまで被弾し、逃げ延びた先でジェシーに罵られ実兄のクリル(ランディー・クエイド)にすら見限られて強盗団から追放されてしまう。別れ際、ヤンガー兄弟の長兄コール・ヤンガー(デヴィッド・キャラダイン)に「俺達ヤンガー兄弟の事を口外すると生命がないぞ」と釘を刺される。若きデニス・クエイド、様になっていたけど、先で一味に意趣返しでもしでかす伏線かと穿っていると、何かの嫌疑で牢に放り込まれ、ピンカートン探偵社か保安官が一味の情報を釈放を餌にエドに迫るが、喋ると一味の血族の誰かに殺されしまうと拒絶する。
彼等ジェームズ-ヤンガー・ギャングは南部を舞台に暴れ廻っていて、彼等の家族・血族も多く、更に当時の銀行や鉄道って住民の大半がそうであった農民達にとって、悪どく儲けて肥え太った悪の権化、あるいは"近代"という北部の象徴の様な疎ましい存在であったらしく、そんな連中を襲う彼等はむしろ義賊として見られ、逃亡先で匿われたり、食料や水を提供してくれたりし、ピンカートンや当局には非協力的であった。保安官達も、形だけの追跡はしても深追いはせず、専らピンカートン社の連中が追撃の任を帯びていた。(このピンカートン探偵社、次第に巨大化し、悪名ととも軍隊並みの勢力を誇るようになって、州によっては違法化されてしまったりしたらしい。現在も、北欧の警備会社に併合されて存在しているという)
銀行・列車・駅馬車強盗と、皆アウト・ロー西部劇の定番。
そして、紅一点の"女"の存在。
ジェシー・ジェームズはとっくに結婚していて、他のメンバーもそれを羨むように女を作ったり一緒になったりしたのだが、この映画で一番光っているデヴィッド・キャラダイン扮するコール・ヤンガーの相手が、ベレ・スターという太腿のガーターにデリンジャー銃を隠した男勝りの娼館の女将。パメラ・リードが好演していたが、実は彼女にはサム・スターというインディアンの旦那がいた。ある日たまたま鉢合わせし、ベレがコールを挑発し、大きなナイフを振りかざして決闘となり、最後にはコールのボーイー・ナイフがサムの太腿にグサリと刺さって了わる。史実にはないフィクションだろう。
ベレ・スター
ところが、この女性、映画にもなった西部史における伝説的な男勝りの"アウトロー・クィーン"で、南部の富豪の家に生まれた令嬢だったのが、南北戦争で次第に零落していってとうとう日々の糧を得るためにチェロキー・インデイアン=サム・スターと夫婦になって、インディアン居留区で生活することに。そのサムが保安官との銃撃戦で殺されると、居留区に留まるためにサムの血縁の一回り年下の男と一緒になり、死の数年前からは、男を何人も取っかえ引っかえするようになり、ある日待ち伏せに遭ってショット・ガンで殺害されてしまう。犯人は未だに明らかになってないらしい。
しかし、ベレを巡ってサム・スターと決闘した男っているのだろうか?
その本当のところは定かでないけど、むしろジェームズ-ヤンガー・ギャングの一員、ディック・リィディルがボブ・フォードの妹マーサ・ボルトンを巡ってジェシー・ジェームズの従兄弟ウッド・ハイトを殺害した事件をサム・スターとコール・ヤンガーにこじつけ作り出したのではないか。
ジェシー・ジェームズ
更に、画面では娼館の女将のベレ・スター、実際には生きんが為にインディアンと一緒になり居留地住まいする程のおよそ豊かさとは無縁の生活。むしろ、彼女の娘パール・スターが、彼女こそ生きんが為に娼婦に身をやつし、早速頭角を現して自分の店(娼館)を第一次大戦までアーカンサス州に何軒も経営するほどになったらしい史実からの着想だろう。ともかく、この辺、史実・脚色合わせて様々な家族・兄弟が入り乱れてややこしい。
コール・ヤンガー
ジェームズ-ヤンガー・ギャングの最後がやはりこの映画のハイライトで、米国では有名らしい1886年9月7日の南部ミズーリからかなり遠いカナダ国境近くの北部ミネソタ州ノースフィールドにあったファースト・ナショナル・バンク襲撃。
彼等のモットーから随分と逸脱した場所を選んだもので、映画ではコール・ヤンガーが難色を示し「ミズーリにもまだ銀行は沢山ある」と諫めるのも聴かず、ジェームズ兄弟主導で進められる。これも、実はピンカートンが仕組んだ罠だったのか、途中で察知されたのか、すっかりノースフィールドの町は、待ち伏せ体勢に入っていて、知らぬは南部のギャング団だけ。
クリル・ミラー(遺体)
ボブ・ヤンガー
これに参加したのは、ジェームズ兄弟、ヤンガー兄弟、クレル・ミラーそして新参のチャーリー・ピッツ、ビリー・チャドウェル。
キャッシャーににしか金がなく、金庫はタイム・ロックされていて時間が来ないと開かず、嵌められたことが分かり、対応した銀行員はその場で射殺される。外へ出て逃げようとすると、すかさず通りの両側から猛射撃が始まり、一味は通りの外に逃げようとするもののバリケードされていて出れず、ある建物の広いガラス窓から馬ごと突っ込み反対側から外に逃げ出す。スローモーションのその場面は仲々好くて、サム・ペキンパーを想わせる。結局散々銃弾を浴びさせられ、命からがら町から逃げ仰せる。
それでも、新参の二人とクレル・ミラーが死に、ヤンガー兄弟も被弾し倒れ逮捕され、ジェームズ兄弟だけが逃げ切れたに過ぎない。因みに、今でもノースフィールドの町ではその日を記念して、ジェシー・ジェームズ粉砕記念日として催し物を行っているという。
ボブ・フォード
逃げ延びたジェシー・ジェームズ、ジェームズ・ギャングとしてその後も強盗を繰り返していたのが、知事やピンカートンの策謀に乗ったフォード兄弟が自分達の罪の赦免とジェシーの懸賞金と引き替えに、ジェシー殺害を実行する。
生き残った兄のフランク・ジェームズももうこれまでと悟ったのか、知事の下に現れ、ジェシーの葬儀の実行と引き替えに自首する。ジェームズ-ヤンガー・ギャングの完全な消滅の日であった。映画はそこで終わるが、そのフランクや以前に逮捕されたコール・ヤンガーは十年以上過って出所し、バァッファロー・ビル主催の"ワイルドウェスト・ショー"に参加したり、コールは自叙伝まで出版したりして余生を全うしたらしい。
フォード兄弟の兄チャーリー・フォードはその後自殺し、ボブ・フォードの方は1892年、エドワード・オークレーにショット・ガンで射殺された。
監督 ウォルター・ヒル
脚本 スティシー・キーチ、ジェームズ・キーチ、
ビル・ブライデン、スティーブン・F・スミス
撮影 リック・ウエイト
音楽 ライ・クーダー
コール・ヤンガー デヴィッド・キャラダイン
ジム・ヤンガー キース・キャラダイン
ボブ・ヤンガー ロバート・キヤラダイン
ジェシー・ジェームズ ジェームズ・キーチ
フランク・ジェームズ ステーシー・キーチ
エド・ミラー デニス・クエイド
クレル・ミラー ランディ・クエイド
チャーリー・フォード クリストファー・ゲスト
ボブ・フォード ニコラス・ゲスト
ベレ・スター パメラ・リード
制作 ユナイテッド・アーチスト 1980年
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