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2010年1月10日 (日)

不可侵の惑星《ソラリス》 S・ソダーバーグ

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  だいぶ以前アンドレイ・タルコフスキーの《惑星ソラリス》を観た記憶があるのだけれど、これがやたら長ったらしい印象ばかりが残って内容の方は殆ど忘れてしまった。映画自体はそれなりに面白かったという記憶が残っている。
 2002年に今度は米国(二十世紀フォックス)で、監督スティーブン・ソダーバーグ、制作ジェームズ・キャメロンという売れっ子制作者達の手によって作られた。精神科医という設定の主演にジョージ・クルーニーは悪くはないだろう。低予算映画なのかと思えてしまう作りだけど、そんなにチャチさも感じないし、ひたすらメンタルな葛藤劇って趣きなので、違和感もなく、それなりに面白く観れた。

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 ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの《ソラリス :邦題ソラリスの陽の下に》(1961年)が原作で、原作は読んでないのでどっちが原作に忠実か分からないが、俗に謂う「宇宙人とのファースト・コンタクト」がテーマ。
 昨年末、その手の学者・研究者達が世界中で宇宙からのシグナルを獲ようと試み収穫ゼロだったらしい。所詮「科学」という括弧つきの制約・有限性に規定された試行、関係者もそれを了解しているのだろうが、地球外生命が果たして人類的科学と何処かで交わるような発信をしているのかどうか。それに、下世話では、神や神の生まれ変わりから宇宙人の類まで無数といっていいくらいに跳梁跋扈しているようだし、緻密なはずの科学の手の指の間から湯水のように滑り落ちていかねない。

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 月もそうだが火星も本格的な探査が始まるようだし、それも甚だいかがわしい目的のためでしかなくて、目一杯汚染し破壊し消尽し尽くした地球から他の惑星に乗り換え更に汚染・破壊と消尽を繰り返そうと企んでいるに過ぎない。
 ここで問題になるのは、果たして地球の生命=人類が、他の惑星に対して一体如何なる資格と権利の下に移住し汚染し破壊出来るのか、という、地球でも大概には同じ事=侵略を繰り返してきて悲惨と悪業をバベルの塔の如く堆積してきたのではなかったか。人類が手前勝手に、"住民"の姿が見えない=無料の空き地と決め込んでいるに過ぎない。例えば、米国やオーストラリアなんかを、原住民達がちゃんと生活していても、神から授かったあるいは導かれた聖なる土地・処女地とばかりに着服してきた恐るべき歴史。

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 ある日、精神医のクリスの自宅に、宇宙開発企業から使いが現れる。
 ハリウッド映画に頻(よ)くあるもうお決まりパターン、大抵は権力からだけど、この映画での設定は、NASAがその民間企業に権利を売り渡しているようで、その遙か遠い惑星ソラリスの軌道上を旋回する探査観測宇宙ステーションで何か致命的なトラブルが発生し、クリスを名指しで助けを求めてきたという。地球の企業側では、その宇宙ステーションで何が起こったのか皆目見当もつかないありさまで、クリスを指名したのがクリスの友人の乗組員ジバリアンであったのをビデオで確認し、早速ソラリスに向け旅立つ。

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 いつ頃の時代設定かはっきりしないけど、精神科医としてカウンセラーをしているクリスの住んでいる街の佇まいも人々も今現在と殆ど変わらず、僅かにクリスの部屋のテレビモニターがスマートな多重画面ってところぐらい。そこから、いきなり遙か彼方の惑星上空を旋回する宇宙ステーション「プロメテウス」に画面は替わる。
 スタニスワフ・レムの原作では如何なのか定かでないが、地球は他の惑星からの資源等で生産活動を続けているのか、《ブレード・ランナー》ほどには差し迫った逼迫情況にあるようには見えない。ニューヨークやロス、あるいは東京に住んでいて、突然直行便でチベットの秘境カイラスや南極へ飛び、一週間ほど過ごして、再び直行便で東京に戻ってきたみたいな、時差惚けと、カルチャー・ショックとはまた別種の感覚の乖離と反作用に似た戸惑いを覚えてしまう。これは面白い効果だ。

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 宇宙ステーション"プロメテウス"の窓からその表面のあっちこっちでプラズマ状の放電が走る蒼白い惑星が間近に覗けていて、未だその惑星自体には着陸出来ずにいて、専ら資源探査を目的とした観測活動を続けていたらしい。
 到着すると、人影は見えず、早速寝袋に包まれた二体の屍体を見つける。一つは、彼を呼んだジバリアンであった。暫くあっちこっちに血痕の付着した船内を捜すと、乗組員スノーと医者のゴードンの二人だけが生存者だと分かる。が、人影は他にもあった。最初は小さな少年、スノーに云わせると、自殺したジバリアンの地球に居る息子らしい。クリスは困惑し眩暈すら覚えてしまう。と、今度はとっくに同じ街で自殺したはずの妻レイアが現れた。彼のベッドの中にちゃんとした肉体と声を持って。

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 スノーやゴードン達は、彼等を「客」と呼んだ。
 どうも、彼等は、眼下に佇む惑星ソラリスが仕掛けた、あるいは寄こした人間達の意識・記憶に有る人物をコピーしたクローンの類のようであった。クリスは愛妻レイアが自殺するに至った理由、レイアが身籠もった二人の間の子を勝手に堕胎したことをクリスが怒り突き放した己の軽挙を心底悔やんでいて、プロメテウスのベッドの上でその夢を見てしまっていた。それをソラリスに読まれたらしい。

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 悩んだ末、クリスはレイアを騙してポッドの中に閉じこめ、プロメテウスから切り離し宇宙に放った。呆然としてポッドの窓からクリスの方を見詰めながら遠ざかってゆくレイア。クリスは二度、レイアの生命を奪ってしまった。悲痛と悔恨に沈んだクリスであったが、驚いた事に、再びクリスのベッドにレイアが現れた。そうやって、プロメテウスの乗組員や救助に向かったはずの警備部隊員達も自ずから生命を絶っていったようだ。

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 やがて、当のレイア自身も自分の記憶や感覚の不合理や不具合を覚え始め、とうとうクリスやゴードン達に真実を告げられ、クリスが微睡んだ隙に、ゴードンの開発した装置で消滅してしまう。更にスノーの本物の屍体が見つかり、部屋にいるスノーは実は"客"だったことが判明。二人は追求しようとするが、スノーは「そんな暇はないはず」と云う。ゴードンがレイアに使った装置がパワーを消費してしまい、この宇宙ステーションがどんどんと惑星ソラリスに引き寄せられている、と。二人は慌てて、宇宙服に身を滑らせロケットに乗り込み一刻も早くこのプロメテウスから脱出し地球に戻ろうとした。が、クリスは、発射しようとするロケットから出て、プロメテウスに戻ってしまう。コピーであってもレイアと共に居る方を選んだのであった。
 やがて、地球の自分の部屋に居るクリス。包丁で自分の指を傷つけてしまうが忽ちに癒えてしまう。"客"達の生態であった。と、そこへレイアが現れる。クリスの思惑通り、レイアと再び伴に生きるれるようになったのだったが・・・

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 ソラリスがそんな装置を備えているのか、惑星ソラリス自体の自然にそんな機能が備わっているのか、人間の意識・記憶からコピー人間が作られる。人間に限定されたものであれ「意識の実体化」って処であろうが、「物象化」という観点から見ると別段そう奇異なものではない。要はリアリティーの問題だろう。コピーやクローンなんてもう人類が日常化しつつある昨今、やがて嫌でも人類が直面する局面でもあろう。
   

 クリス   ジョージ・クルーニー
 レイア   ナターシャ・マケルホーン
 スノー   ジェレミー・デイビス
 ゴードン  ビオラ・テ゜イピス
 ジバリアン ウルリッヒ・トゥクール

 監督 スティーブン・ソダーバーグ
 制作 ジェームズ・キャメロン
 脚本 スティーブン・ソダーバーグ
 撮影 スティーブン・ソダーバーグ
 音楽 クリス・マルチネス
 美術 スティーブ・アーノルド
        キース・P・カニングハム
 制作 二十世紀フォックス(2002年)

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