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2010年2月21日 (日)

清末義侠 《投名状》

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   数千万人(映画では七千万人)の犠牲者が出たという百五十年前の中国で燎原の火の如く拡がっていった《太平天国の乱》、日本では幕末の頃、上海に上陸した幕府の御用船千歳丸の乗組員だった高杉晋作等もリアル・タイムで、太平天国軍の蜂起に呼応して起ち上がった上海《小刀会》が潰え去って後の、太平天国軍と租界の欧米列強との戦いを眼の辺りにしただろう。
 教祖・洪秀全の夢に端を発した一応はキリスト教の至福千年王国実現運動らしく、教義的には洪秀全をイエス・キリストの弟として据え、欧米列強にすら認めるように迫ったらしい。傲岸・悪辣な欧米列強の侵略の一環たるアヘン戦争、アロー号事件等で清朝の疲弊・腐敗も極地に達し、民・百姓達が呻吟していた時代、唯一神の下での万民平等の旗印に虐げられた人々は一縷の甜い夢・希望を托したのであろう。

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 そんな太平天国軍と弾圧する清朝軍(後には欧米列強軍も)との死闘の最中、パン・チンユン将軍(ジェット・リー)率いる清朝軍が魁(クイ)将軍の裏切りに遭い、鶴川(ホーチュワン)の戦いで将軍一人を残して太平天国軍に殲滅されてしまった。そこから映画は始まる。
 一人よろよろと彷徨い倒れたところを行きづりの女・蓮生(徐静蕾)に助けられる。その元痩馬(一人前の芸妓にするため幼い内から買い取られ厳しい修練を積まされる娘達)の女の家で、介抱され、互いに惹き合うものがあったのか肉体関係までもってしまう。
 やがてそこを出、小さな集落で、匪賊の頭目アルフ趙ニ虎(アンディー・ラウ)とウーヤン姜午陽(金城武)に出遭い、三人で義兄弟の契りを結ぶ。捕らえられた通りすがりの商人三人をそれぞれが殺し血盟を交わした。罪もない商人を殺害するのにパン将軍は些か躊躇い、「俺の顔をよく覚えておけ。冥途で仇を討て」と伝え一気に首を掻き切った。

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 随分と抑えたベッドシーンの示唆程度のジェット・リーとシュー・ジンレイとの濡れ場は、頻(よ)くある付け足しみたいなおざなりさを排除していて違和感がなかったけど、この二人の関係が最期までずっと尾を曳いてゆく。時間の制約もあるのだろうが、サラッと流し過ぎたきらいはある。も少し掘り下げてればもっと盛りあがったはず。
 所詮総勢千人にも満たない小匪賊の故、パン将軍が謀られた魁将軍の配下の部隊にせっかく太平天国軍から略奪した食料も横取りされ、苦杯を舐めた頭目アルフに、パン将軍は清朝軍への参加を提案する。食料も手にはいるし村人達も飢えずに済む、と。乱世故その日の食物すら事欠くありさまでは他に選びようもなく、アルフはチェン大臣の緑軍に参加する腹を決める。
 大臣達の前で十日で舒城(シューチャン)を手に入れてみせると断言してみせたパン将軍達は、「山軍」の軍旗を貰い、チェン大臣の配下の部隊をも貰い受け、みごと舒城を下す。
 ここの戦闘場面、仲々巧くできていて面白い。最近のハリウッドの古代スペクタクル映画テクニックを彷彿とさせる。何よりも、やっぱしジェット・リーが最高に素晴らしい。これは、幾らハリウッドが機材的ハード的テクニックを行使しても及ば ない。金城武も騎馬じゃなく盾を翳して先頭をきって突っ走る歩兵の突撃隊長ってところで、敵の太平天国軍の指導者を手裏剣(短刀)で倒し、その首を掻き切って高々と掲げるシーンも悪くはない。
 この手裏剣、ウーヤンの実在のモデル張分祥は、アルフ(実際は曹二虎)の嫁を寝取って邪魔なアルフを屠った実際のモデル馬新貽(パン将軍)を恨み、暗殺を決意し、少林寺で修行した覚海寺の武僧・潮音大師に弟子入りし手裏剣術を習得して美事馬新貽を毒塗りの手裏剣で殺害した故事に倣ったのだろう。

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 膠着し長期戦に陥った蘇州城攻略では水と食料不足に山軍も太平天国軍双方すっかり疲弊してしまい、アルフが単身城内に忍び込み、太平天国軍の司令に遭って、太平天国軍の何人も傷つけないという条件の下に無血開城を勝ち取る。が、パン将軍、それに否を云い、ウーヤンすらパン将軍が正しいとアルフに迫る。正に義理と人情。義理=パン将軍、人情=アルフ、その間に立って板挟みのウーヤンの図式だけど、ウーヤン、パン将軍の貧窮に喘ぐ者達を救うという理念に傾倒しパン将軍に付く。約束を信じて武装解除し城内に群れた太平天国軍に対し、城壁から弓矢で一人残らず殺してしまう。これは太平天国軍八千人殲滅として有名な話らしい。

 南京(天京=太平天国の都)を陥落(史実的には、太平天国軍側の老若男女二十万人が虐殺されたらしい)させ、今や飛ぶ鳥を撃ち落とす勢いのパン将軍、両江総督にまで昇り詰めた。ところが、大臣達がアルフ抹殺を仄めかし、更にウーヤンにアルフの妻との密会現場を目撃されてしまう。万事休したパン将軍、アルフを騙して一人おびき出し殺害し、ウーヤンは義兄弟の契りの阻害物と決めつけて蓮生を刺し殺してしまう。そして、ついには、登城途中のパン将軍がウーヤンに刺殺される。パン将軍の方が腕が勝っていて悉くウーヤンの繰り出す短刀による攻撃をかわしていたが、突如背後から鉄砲で撃たれ、その寸秒後にウーヤンの短刀が襲ってきてパン将軍の身体に深く突き刺さる。何度も何度も銃弾とウーヤンの短刀がパン将軍の身体を貫いていき・・・
 ウーヤンこと張分祥、捕らえられて凌遅刑(時間をかけて手足をバラバラ切り刻まれる酷刑)に処されたようだ。但し、史実的には、 張分祥の馬新貽(パン将軍)暗殺の動機は必ずしもはっきりしてないらしく、大臣達やらの政治的な謀殺の可能性もあり、映画でも背後から撃ち込まれる銃弾がそれを暗示している。

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 京劇でも《刺馬案》の演目があるらしく、事件後直ぐに芝居にかかったというぐらいに当時の中国の人口に膾炙していたようだ。腐敗し疲弊し荒廃しきった西太后の清末って、事件・話題も多く映画の舞台・素材にはうってつけだけど、ジェット・リーが仲々決まっているし、アンディー・ラウも《墨攻》は全く詰まらなかったけど、この映画で結構見直してしまった。それにしても、あの軟派なはずのフルーツ・チャンがこんな"正宗"武侠映画を撮るとは、さすが映画監督ではある。

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   監督 陳可辛(ピーター・チャン)

 

 脚本  須蘭、秦天南、オーブリー・ラム

 撮影  アーサー・ウォン

  パン将軍 ジェット・リー

  アルフ   アンディー・ラウ

  ウーヤン  金城武

  蓮生    徐静蕾

  制作   中国電影集団、寰亜電影有限公司(2007年)

 

 

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