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2010年5月30日 (日)

《ヒットマン・ファイル》 カッティヤ将軍殺害犯は誰か?

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  何か都合が悪くなってくると、もうそれしかないように軍部クーデターでなし崩しにしてしまうのが、タイの定番、お決まりになって久しいけれど、さすがに今回のタクシン派UDDと軍部=アピシット政権との角逐、争闘は、これまでのあれかこれかの横並び的対立・軋轢と本質を異にし、いよいよタイも貧・富の階級闘争の様相を呈し始めた。新聞によると、タクシン派が口にした"階級闘争"に、タイ王室が不快感を顕わにしているらしい。

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           カッティヤ将軍 

  UDDやタクシン派の多くはタイの東北部、所謂イサーンの人々ということで、日本の東北(戦後はそれほど皆が皆貧農って訳でもないだろうが)同様、貧しい農民達という。そもそも、イサーンの住民達って、ラオ系、クメール系が大半で、ベトナム北部あたり(以前は、中国南部周辺が定説だったのが、言語学的にベトナム北部が有力となっているらしい)から南下してきた所謂"タイ族"の覇王、それも十八世紀末からのチャクリー王朝の国王に拘る理由がないし、いわんや忠誠なんて何の事やらってのが本当のところだろう。
 おまけに、賢王のはずのプミンポン、年齢のせいなのか、あるいは長年の矛盾・軋轢がどうにも煮詰まってしまってもはや国王という特殊性が機能する限界を超えてしまっているからなのか、プレム枢密院議長(プミンポン国王の信任篤い)=クーデター軍政(ソンティ)=アピシットの図式から見えてくるプミンポンのポジション、つまり"中立"の立場を逸脱したすこぶる政治的な行為、それがUDD=アピシット政権の一連の騒乱・90人近くの死者と多くの負傷者を結果してしまい、完全な失策・失政となった。
 イラク・シリア・トルコ・イランのクルドに限らず、タイでも、東北部(イサーン)はじめ、現在でも燻り続けているイスラム系が主流を占める南部、あるいはひょっとして北部すらも、"分離独立"の狼煙(のろし)を挙げかねないってところだろう。問題の所在は、もう、単なる"タクシン復権"を踏み越えてしまっているってことだ。

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 そんな中、騒乱の最中、タクシン派の武闘派と云われたカッティヤ将軍が、よりによって記者のインタビュー中に、それもたった一発の銃弾で狙撃=暗殺されてしまった、もうこれ以上ないくらいの政治的パフォーマンス。確か、以前タクシンも狙われたとか騒いでいたはずで、これには筆者も唖然としてしまった。これじゃ丸でタイ・アクション映画そのものじゃないか、と。軍の中の精鋭にさせたかも知れないし、先を考えて民間人の殺し屋を雇い、軍・警の中に紛らわせた可能性すら考えられる。てっきりUDD・タクシン派が報復に訴えるのかと固唾を呑んで見守っていたけど、結局それはなかった。(少なくとも今現在のところは)

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 この2000年のタイ映画《ヒットマン・ファイル》は、軍部と警察そしてマフィアの相関図さながらのタイ権力の裏面を背景に、元山岳ゲリラの殺し屋タンタイ(チャチャイ・プレンパニット)と当時反共特殊部隊員でタンタイ等と血で血を争ったイット(サランユ・ワンクラチャン)との因縁の相克劇。
 その場その場の都合でどうにでも動く権力、実働部隊としての軍・警察そしてマフィアまで駆使し、あるいは不都合となると当の実働部隊すら処分し闇に葬ってしまうのが何処でも常道。この映画では、その権力が殺し屋をすら利用し、やがて使用済みとして抹殺してしまう。正にカッティヤ将軍狙撃=暗殺の図であろう。アピシットも仲々やるもんだ。勿論実際には軍部が仕組んだのであろうし、その背後に一体誰が隠れているのかを、この映画を観ながらあれこれと詮索・推理するのも悪くはない。だからといって、タイの構図がそのまま、日本や米国あるいは他の国に通用するかは別の話。

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 この映画の見所は、やはり例の学生革命="血の日曜日"以降に山岳部に逃れ共産党ゲリラと合同した学生運動家や市民達の中の一人、タンタイが、やがて他の学生革命グループと同様、共産党主導のゲリラ活動に幻滅し、街に戻り、日々の糧を得るため殺し屋になり、次々と冷酷な殺人に手を染めてゆくのと平行して、山岳共産ゲリラ達を殲滅するためのタイ権力側の特殊部隊の一員としてタンタイ達と死闘・暗闘を繰り広げてきたイットが、山から降り、権力サイドのヒットマン・チームの一員として、殺害を繰り返し続け、やがて宿敵タンタイと一騎打ちまで追いつめて行くところであろうか。
 追いつめられ負傷はしたものの、今度は権力サイドに雇われ、麻薬絡みの大物マフィヤを殺害する。当然のように、口封じのため、権力サイドに自動小銃で抹殺されてしまう。同時に、イットも、イットの上司も。
 "生きるための音楽"=《カラワン》のメンバー、ウィラサク・スントンシーの《カラワン楽団の冒険》(晶文社)に彼自身が入っていった山岳ゲリラの生活の事をあれこれ記しているけど、逆の権力側の、イットの属する特殊部隊、犯罪者や囚人なんかも含んで構成された黒服の反共特殊部隊の事かと思ったけど、灰青色のベレー帽に戦闘服なので違うのかも知れない。因みに当時の山岳ゲリラ=タイ共産に、今回の騒乱の起因ともなった軍部クーデター直後の政権スラユット元陸軍司令官の父親(パヨーム=チュラーノン中佐1980年没)が加わっていたらしい。父子で戦っていたという話だ。

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 肉体派女優、タックことボンコット・コンマライ、冒頭標的を撃つシューティング・シーンがあるんだが、只そのシーンだけで、後はタンタイに殺害の仕事の書類と金を渡すクラブの大人しいママ役ばかり。最期は、イットに枕を押しつけられ射殺されてしまう。
物足りないタック起用だけど、確かに彼女が拳銃片手に活躍してしまうと、権力犯罪的なリアリティーが確実に褪せてしまい、迫力も消えてしまう。
 比較的淡々と描かれていて、ドラマチックさは希薄だけど、悪くはなく、結構好きなタイ・アクション映画の一つだ。

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タンタイ   チャチャイ・プレンパニット
リーマン   ニルット・シリチャンヤ
バーム    タニット・ジットニクン
チャット   サンティスック・プロムシリ
イット   サランユ・ワンクラチャン
チャバー   ボンコット・コンマライ
       ピティサック・ヤオワナーノン
       ソムポップ・ベンジャーティクン 

監督   サナームジット・バンサパン
脚本   サナンジット・バンサパン   
音楽   チャーティチャーイ・ポンプラパーパン
制作   マンポン 2004年(タイ)

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