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2010年5月23日 (日)

《仁義なき戦い》  百花斉放・造反有理的ヤクザ世界

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  昏迷するタイや迷走しいよいよ末期的情況を呈し始めた民主党始めとする日本の政治などの情況を見るにつけ、改めて七十年代日本映画のある種の不滅の金字塔たる深作欣二監督作品《仁義なき戦い》の普遍性に想いを馳せてしまう。果てしない権力闘争と内部分裂。七十年代初期の連合赤軍リンチ殺人事件・浅間山荘事件等を経た閉塞し始めた時代情況の中から、当然現れるべき作品であったろう。映画的には、長ドス片手の高倉健・鶴田浩二主演の古色蒼然とした東映任侠映画の凋落、もっとリアリティーのある現代物=百花斉放・造反有理的ヤクザ世界という流れ。

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 この35年も前のシリーズ、レンタル・ビデオ屋でも人気があって、何時見ても借り出し中で空白のままって事も多い。今でも東映のドル箱なのだろう。只、それ以後それに匹敵するようなシリーズって仲々ないようで、改めてこの所謂"実録"片のオリジナルであり且つ頂点でもある広島ヤクザ抗争劇映画の普遍性が分かろうというものだ。
 
 この作品、発端はオリジナル原作者たる広島抗争事件で辛酸を舐めてきた美能幸三(今年三月に亡くなった)の手記との出遭いらしい。映画化に当たってのプロデューサーや脚本の笠原和夫の幾度にも渡る広島詣での苦労話は有名だけど、主演の菅原文太も週刊誌に連載され始めた飯干晃一の同名小説を読んで、自身で東映に映画化と出演を申し出ていたという。大ヒットし、1973年《仁義なき戦い》、《広島武闘篇》、《代理戦争》、1974年《頂上作戦》、《完結編》と二年で五本も制作。当時はまだ、文字通りのプログラム・ピクチャー時代で、基本的に二本立て興行。シネ・コンプレックスなんて未だ言葉もなかった頃で、それぞれの映画会社の系列館で上映されていた。

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 「昌三、今度お前が(ムショから)出てきた時にゃ、ワシの全財産呉れてやるけーの」

 この映画の面白さの一つは、今までの主人公=脇役=端役という確然としたスター・システムを打ち壊し、上はこのシリーズの顔たる菅原文太から下は殆ど世間には名も知られることもなかった川谷拓三や志賀勝等の大部屋俳優達が、渾然一体となって、それぞれ画面の隅から端っこに至るまで強烈な自己主張・演技に火花を散らす群像劇、集団劇にあるのだろう。監督の深作自身カメラマンの吉田に、「登場人物の全員にピントを合わせてほしい」と要求し、端役にもスター俳優達にすらも、「台詞(セリフ)じゃなくても出てろ、それで台詞のときにはもう一つ出ろ」と過剰なまでの自己表出を求め扇動したらしい。

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 敗戦=終戦の総括なき"戦後"、一切の伝統的あるいはもっともらしい建前が崩落し欺瞞と偽善でしかなったことを白日の下に晒け出され、例え束の間のものであっても、正に混沌、アナーキーとダイナミズムに満ち満ちた時代、仁義も任侠も焼け落ちた焼け跡に自然発生的に群生し始めた愚連隊・若きヤクザ達も、「自分達のやりたいことのできる」組織・世界の構築を目指して、俄然跳梁跋扈し始める。
 偶然古本屋の店頭の百円コーナーで見つけた《キネマ旬報 六二三号》(1974年1月)
の深作・文太・笠原達のディスカッション〈仁義なき戦い・頂上作戦のテーマは何か〉の中で、深作はこう云っている。
 「われわれ自身の、何といったらいいのか、生きざまのオリジンが、やっぱり終戦後に帰っていくことで見出すことが出来るという意味では、笠原さんも私自身もそうだと思いますね。そして、その戦後からずっと引きついできている、しんどさ、くやしさというものは、一庶民として又きわめて低賃金労働の映画人としてあきるほど味わってきているわけですし。それが、笠原さんの脚本家としてのオリジンになっているし、また、ぼくのオリジンにもなっていると思うんですよね」
 更に文太はこうも述べている。
 「企画の段階ではどうであったにしろ、ぼくはこの作品を作さん(深作欣二)が担当する必然性はあったと思いますね。それは『人斬り与太』『人斬り与太・狂犬三兄弟』と、いま田山(力哉)さんがいったように、いままでの東映任侠映画のパターンからはずれて、主人公が汚い部分を多分にもった人間として描かれている作品をいち早く撮ってきているということがある。だから『仁義なき戦い』が制作される時点で、東映の内部であの作品を撮れる人は、作さんしかいなかったということはハッキリいえます。」

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 敗戦直後、まだ焼け跡も生々しい広島・呉で、南方帰りの広能昌三は、ひょんな行きがかりから、呉を縄張りとする山守組の若い組員達と知り合い、日本刀を振り回す遊び人を拳銃で射殺する羽目に陥った。その廉で刑務所に。その刑務所で、広島の土井組の若頭・若杉寛と同房になり、義兄弟の盃を交わす。若杉が自殺の真似をして娑婆へ一足先に出、土井組・組長に保釈金を出して貰い仮出所する。
 山守組に身を落ち着け、若頭の坂井鉄也等と山守組を盛り立ててゆく。そんな中、山守組の賭場で、呉の長老・大久保の親戚・愚連隊上田組・組長上田透が因縁をつけ、広能と喧嘩となり、広能が小指を詰め上田が山守の舎弟となって手打ち。
 しかし、大久保の伝手で呉市会議会の政争に深入りし、土井組と反目。その政争=土井組潰しに利用するために、賭場で上田が因縁をつけたに違いないと、若頭・坂井は疑い、組長・山守を指弾する。以前から大久保には気をつけろと警告していたのに、と。土井組の若頭・若杉は義兄弟の広能達と揉めたくはなく、丸く収めようとするも、組長・土井の逆鱗に触れ、結局土井組に居られず、山守組に客分として籍を置くことに。若頭の坂井が不在の間、坂井に代わって組を取り仕切ることに。広能は山守の意を汲み土井組長を射殺。逃亡したが、山守と組員の槙原政吉の術中に嵌って、結局刑務所に舞い戻ってしまう。

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    「山守さん、坂井も悪いが、あんたも悪い!」

 事の成り行きで山守組から土井組に身を置いていた神原精一、広能を隠れ家からおびき出した件で、若杉に報復殺害される。若杉も、隠れ家を山守・槇原の裏切り・密告により、警察に包囲され射殺されてしまう。やがて、恩赦で仮出所した広能、早速山守に呼ばれ、今や飛ぶ鳥を撃ち落とす勢いの、若頭・坂井の殺害を求められる。焼け跡で共に戦った仲間達が互いに殺し合い次々に死んでいっていた。若杉が生きていたら、もう山守の処には戻る気のなかった広能であったが、一応は承諾する。坂井のホテルの部屋を急襲するが多勢に無勢。
ふがいない山守に見切りをつけた坂井、別に組を作るつもりで、広能にも参加を求める。広能が上に居てもいい、嘗て焼け跡でそう想って結集した如く、もう一度、自分達のやりたいことをやれる組織を作ろう、と。坂井は広能を帰し、車で途中下車したおもちゃ屋で、山守の意を受けた組員達に射殺される。  
 ずらり呉の組関係者達が居並ぶ坂井の葬儀に、突然広能が姿を現し、誰もが驚きと敵意に満ちた眼差しで睨め付ける前で、一人坂井の遺影に寂しく語りかける。そして、懐から取り出した拳銃で、坂井や死んでいった仲間達を死に追いやった連中=来賓客の香典に銃弾を撃ち込み、颯爽とその場から去って行く。(了)

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      「昌三、コンナ(おまえ)の考えている事は、理想よ」

 広島ヤクザ抗争と銘打っているものの、広能も山守組も広島市の隣の呉市が本拠地で、広島の土井組、後のシリーズでは、村岡組との絡みで広島へ進出する運びとなったのだけど、やはり小港湾都市・呉よりも広島の方が遙かに利潤も大きく、広島進出の口実を狙ってもいたのであろう。三作目《代理戦争》では、神戸の広域組織・明石組(実際は山口組)まで出てくる。実は、この作品がシリーズ化される以前の最初の企画の際、脚本家の笠原和夫が広島抗争を扱おうとすると不可避的に山口組に触れなくてはならず、その根回しやら何やらのしんどさを厭(いと)って呉だけで済むこの作品一作だけで終わらせようと考えていたらしい。が、ヒットしそうな感触を得、東映が即シリーズ化を決定。本来は主演の文太は広能昌三じゃなくて、松方弘樹演じた坂井鉄也を演る予定であったのを、坂井は死んでしまうので、広能に変更にしたようだ。

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    「山守さん、弾はまだ入っとるがーよ」

 菅原文太の広能、主人公というより、むしろ狂言廻しって感じだが、狂言廻しとは又些か違った役 どころで、このシリーズで唯一カッコ好く演じている(後のシリーズで出てくる小林旭の役どころは謂わば敵役だが、文太に張り合う様にカッコつけている)。
 脚本家・笠原と揉め、ひょっとして菅原文太は最初の一作目のこの作品だけしか出演しなかった可能性もあったらしい。幾ら群像劇といっても、山守の金子信雄、槇原の田中邦衛が頑張ってみせても、あの広能昌三=菅原文太があの細身・長身のクールなキャラクターで一本ピンと筋を通しているからこそ他の出演者も生きていたし、シリーズを代表する顔ともなり得た。この作品だけの出演だとしたら、果たして後のシリーズ如何のくらいヒットしたか分かったものではない。

監督 深作欽二
脚本  笠原和夫
原作  飯干晃一(手記・美能幸三)
企画  俊藤浩滋 、日下部五朗
撮影  吉田貞次
美術  鈴木孝俊
音楽  津島利章
疑闘  上野隆三
  
広能昌三  菅原文太
坂井鉄也  松方弘樹
神原精一  川地民夫
槙原政吉  田中邦衛
山方新一  高宮敬二
新開宇市  三上真一郎
矢野修司  曽根晴美
有田俊雄  渡瀬恒彦
上田透   伊吹吾郎
岩見益夫  野口貴史
山守義雄  金子信雄
山守利香(山守の妻)木村俊恵
土居清   名和宏
若杉寛   梅宮辰夫
国広鈴江(若杉の妻)中村英子
大久保憲一 内田朝雄
江波亮一  川谷拓三
横川信夫  志賀勝
ナレーター 小池朝雄
制作  東映 1973年

 [続編]
山城新吾  北大路欣也  千葉真一  成田三樹夫  梶芽衣子
前田吟   小松方正     加藤嘉   室田日出夫
小林旭   加藤武    丹波哲郎  山本麟一   汐路章
黒沢年男  中原早苗   夏八木勲  小倉一郎   小林稔侍
桜木健一  宍戸錠    山田吾一  織本順吉   天津敏
                 

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