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2010年6月 5日 (土)

《イザベラ》伊莎貝拉  1999年マカオ返還故事

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  香港にも行ったこともないけど、マカオも未踏で、タイのペン・エーク監督、浅野忠信主演《インヴジブル・ウェーブ》でほんのちょっとだけマカオの街並みが垣間見えたぐらい。マカオというと"ギャンブル"の町ってイメージしかなく、香港に較べて今一つ印象が薄い。ザビエルのイエズス会がアジアに跋扈した頃、長崎との交易で国際港として繁栄を極めていたらしいが、徳川幕府が鎖国令を出して後、次第に凋落していったという。人口50万で人口密度も高い植民地都市だったのが、1999年に中国に返還され、中国の特別区ではあるけど人口の95パーセントが中国人の一都市に落ち着いてしまったようだ。因みに、現在のマカオの住民一人当たりの購買力は日本より勝っているという。

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 もろマカオの1999年の中国への返還期を舞台にしたこの2006年の作品《イザベラ》で、マカオの大体の雰囲気は分かったものの、この手の映画は可成り切り抜かれて構成されてしまうので、例えば、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)の彼の故郷たる山西省汾陽市の埃っぽい雑然とした典型的な中国の地方都市をこれ見よがしにぐらいに丸ごと呈示してみせるのと相違し、見えない部分ってのが気にかかってしまう。
  監督のパン・ホーチョンの美意識なのか、あるいは撮影のチャーリー・ラムのものなのか、独特の落ち着いた色調が仲々好い。ペン・エークやフランス=ベトナムのトラン(チャン)・アン・ユンに似た感じ。劇場では観てないが、DVDとYOU TUBEで観た。しかし、YOU TUBEの小さなウィンドウで街並みは些かしんどい。最近はYOU TUBEでも、高品質画面のも出始め、画面もそれなりに大きく、それだと背景の街並みも何とか"観"れるようになったけど。

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 タケシの作品にも頻(よ)くあるけど、"遊び"があっちこっち頻繁に挿入されていて、むしろコミカルな仕様と云えなくもない。小肥りした坊主頭の停職中のヤサグレ刑事役のチャップマン・トーのキャラクターも影響しているだろう。部屋代溜めて追い出された娘ヤンのズックの後ろを踏み潰した素足履きには香港=マカオでもそういう風潮・風俗ってあるのかと感心しつつ、実際は17歳の女子高生だったイザベラ・リョン、"マカイエンサ"と呼ばれる中国=ポルトガルのハーフ、スラリとした伸びやかな肢体の可成りの美形で、このアンバラスがよりコミカルに見せているに違いない。

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 返還前のマカオは文字通り香港と並ぶマフィア=犯罪の巣窟だったようで、社会主義=人民中国に返還される直前にはポルトガルの世間体もあってか、粛正やら色々あったようだ。香港とは又一味違ったマカオの返還時の一つのエピソードってところだろうか。
 タイトルを、娘ヤンの飼っていて、家賃滞納で部屋を追い出された折、逃げだして行方不明になり、ある少女に拾われて飼われ、名も"ドンドン"と変えられてしまった飼い犬"イザベラ"にしたのは、父親知らずに母親の手で育てられてきて、その母親も死んで天涯孤独の独り身になったヤンの運命ともどもに、中国への返還=帰属を前にした、マカオの人々の孤独と不安の心象風景、その点描ってところなのか。

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 物語は、1999年返還の直前のマカオ、汚職で停職中の刑事スンは、先の見えない日々を女や博打、酒にうつつを抜かしていた。そんなある日、飲み屋で、見慣れない若い娘が現れ、一晩ベッドを伴にすることに。ところが、その娘ヤン、実はスンの若い頃、恋人エラに産ませた実の娘だと告げ、スンは呆然。それ以降、家賃滞納で部屋を追い出され行くところもなくなったヤンと一緒に父娘の生活を余儀なくされてしまう。
 その内次第に互いの心もうち解け、親密な普通の親子関係になってゆくが、嘗ての恋人エラが、スンの後に付き合っていた男の処に赴いて確かめてみると、何とヤンはスンの娘じゃなくて、その男との娘であったのだ。男は今更名のり出る気もなく、スンはヤンにそのことは告げず、今まで通りの関係を続ける。
 結局、裁判を避けるためのバンコクへの国外逃亡を断念し、潔く裁判を受け、数年で出れるはずと、ヤンの運転するスクーターの後ろに乗って裁判所へ向かう・・・

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 三回ほど、唐突に画面に現れる必ず何かを無心に口いっぱいに頬張りながら、その食べ物の注釈じみた講釈をする何処かで見たことのある厳つい顔・・・"香港人も香港も大嫌い"な香港映画悪役男アンソニー・ウォン。この映画の雰囲気にちょっと唐突なカットが面白い。手法的にはもはや陳腐なのだろうが、しかしアンソニー・ウォンのキャラクター故に効果的。ともかく、中国人って貪欲なくらいに食べることが好きのようで、そのパワーたるや世界を、とりわけ唯我独尊的に世界を搾取し奢侈に耽ってきた西側先進国を震え上がらせたくらいだが、スンやヤンのように取り澄ました食べ方じゃなく、スンのボス役のアンソニー・ウォン、しゃにむに掻っ喰らい続ける。このシーンを観た白人達や名誉白人達が、十何億ものそんな蚕が一斉にひたすらガツガツと世界中の食物を蚕食してゆくような脅威を覚えてしまいかねない。

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セン(刑事) チャップマン・トー
ヤン(娘)  イザベラ・リョン
センの上役  アンソニー・ウォン

監督  パン・ホーチョン(彭浩翔)
脚本  パン・ホーチョン、キーラン・パン、
    デレク・ツァン、ジミー・ワン
撮影  チャーリー・ラム
音楽  ピーター・カム
制作  不是兄弟有限公司   2006年(香港) 

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