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2012年3月 6日 (火)

旅先の陥穽 《ミッドナイト・エクスプレス》1978年

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 仮にも"旅行者ブログ"のはずが、今頃、もはや古典といっても過言ではないアラン・パーカー監督《ミッドナイト・エクスプレス》を採り上げるとはちょっとひんしゅく物かも知れない。
 '78年にリリースされたこの映画、舞台となったトルコは当然にしても、ネーデル‐ランドならぬドラッグ‐ランドの異名をとるドラッグ・フリーの聖地と目されてきたオランダでも上映にクレームがついたとか。原作者、ビリー・ヘイズ自身の意志とは相違して、脚本のオリバー・ストーンと監督のアラン・パーカーは、映画的メリハリをつけるために、トルコ(権力)を、とりわけ刑務所をかなりあしざまに悪者に仕立ててはいる。けれど、実際問題として、いずこの国・権力にあっても、権力とおよびその司法・警察‐刑務所なんて、そう極端な違いってありはしない。只、映画で描かれたトルコ・イスタンブールの刑務所って、日本や欧米の刑務所と較べて、随分とのんびりとしていて、開放的にすら思えてしまう。東南アジアの刑務所にも似た感じのものがあったのをTVで見たことがあって感心したことがあったが、その分、逆に危険と紙一重。けど、それも厳格なはずの日本や欧米も同様なのは周知の事柄。

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 1970年というと、正にヒッピー文化花盛りの頃で、バック・パッカーが世界(当時の共産圏を除いて)の辺境を巡っていた頃。アフガニスターン=イラン=トルコ=ギリシャって経路なのだろう。事件当時から40年以上過った今‐現在でも、我々バック・パッカーには、いつ何時陥入れられるか分かったものではない不気味な"罠"であることには変わりはない。
 成田空港で、カスタム職員が、客の荷物に勝手に、麻薬犬の訓練の一環と称して、大麻樹脂を仕込み、それが手違いとやらで、荷物の持ち主の客がそのまま荷物を持って行ってしまったという、幾重にもわたる明々白々の違法行為が発覚した事件は、まだ記憶に新しい。当然、例の如く、そんな客の荷物の中に、冗談でも麻薬や大麻を"仕込む"なんて行為自体、札付きの犯罪行為であるにも拘わらず、逮捕も立件もされないまま公然ともみ消されてしまった。 
 ところで、旅行者の知らない内に麻薬・大麻が仕込まれたりした事件って、成田空港カスタム職員大チョンボ事件以前に少なくなかったはず。カスタム当局が、乗客が知らぬ間に入れられていたと抗議・反論しても頑なに認めぬまま、立件し、有罪にし、投獄してきた。それ故に、断じて、カスタムのその何重にもわたる組織ぐるみの違法行為を見逃すことはできない。否、そもそも法的にもモラル的にも司法自体が見逃せないはずなのだが。その上、彼等が、客の荷物に麻薬などを特権を利用して勝手に"仕込んでいた"のが常習化しているのも見透けてしまって、この事件発覚の時点で、以前の嫌疑をかけられた"仕込み"事件そのものが、本当は再審にかけられて当然のはずが、すべて黙殺され、カスタム=権力のやりたい放題。"法治国家"とは名ばかりの、正に強権的ファシズム以外の何者でもなく、この映画での辺境の国トルコ(あるいは東南アジア他)なんかを優越感の上に胡座をかいて蔑視する意味って殆ど成り立たないってことだろう。勿論米国でも、他の国でも事情は変わらないのは自明で、オリバー・ストーンも、当然、トルコを特定して非難・攻撃しようなんて考え毛頭なかったろう。つまり、何処の国でも起こりえる事件であり、又そこから視えてくるのは、すべて権力の都合と思惑による恣意性であろう。
                  
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 彼、ビリー・ヘイズはイスタンブールからハシシの樹脂を計2キロ銀紙に包んで身体に巻き付け、空港のカスタムは何とか通過できたのが、折からのハイジャック事件の連発で厳戒中であったのが災いし、タラップを前にしてあえなく逮捕。普段ならヘロイン等のケミカル=麻薬とは一線を画したネイチャー・ドラッグということでたいしたことはなかったらしのが、丁度米大統領ニクソンが"麻薬"関係で麻薬供給国を非難している最中、早速ヤリ玉にあげられたトルコ政府がもっけの幸いと、自国が"麻薬"に対して厳しく対応しているってポーズをみせる格好の生贄にしてしまった。確かに運が悪かった。しかし、ベトナムや東南アジアで麻薬がらみの利権も噂されていたらしい悪玉ニクソンなんかに、トルコもあげつらわれたくなかったろうが、それ以上にビリー・ヘイズもよりによってそんな自国の悪徳大統領の吐いた唾をモロに被るはめになってしまって、元は自身が起こした軽率な出来心からとはいえ、とんだ災厄ではあった。
 最初は4年の刑だったのが、父親や弁護士の言うことを聞いて何とか事もなく務めてきて後53日という時になって、突如トルコ政府の都合と論理で裁判のやり直しという不法な遣り口によって、30年という目眩むような長期刑に陥入れられてしまう。さすがのビリーも堪忍袋の緒が切れ、仲間とともに旧い漆喰壁を破って脱獄"ミッドナイト・エクスプレス"を決心する。が、後一歩というところで発覚。密告した現地人リフキの隠し金をマックスとともに燃やして報復したら、今度は逆にリフキに元弁護士のマックスが可愛がっていた猫を殺され、あげく看守長ハミドゥに苛烈な暴力を受けすっかり精神的にマックスは去勢されてしまう。絶望と憤怒、それがリフキへの殺意へと収斂し爆発。殆ど狂気のうちにビリーはリフキを殺害してしまう。そして、精神病棟へ。
 ところが、ある日、遙々米国から恋人のスーザンが面会に来て、自力脱出をほのめかし、100ドル札が何枚も隠されたアルバムを渡す。看守長にその何枚かをワイロとして差し出し、病院へ入れてくれと頼み込む。が、看守長は誰も居ない自室に連れて行き、何と強姦しようと企む。その一瞬の隙をついてビリーは看守長を突き飛ばす。不意をつかれ看守長は背後に弾き飛び、壁に設えられた衣服掛けの出っ張りにズボリと後頭部の根本まで突刺さって事切れてしまう。看守長の制服を纏い、憑かれたように長い刑務所の側道をトボトボと下り続け、重い扉を開き、気も遠くなるような果てしない幽閉からようやく娑婆へ・・・

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 最近は定かでないが、ちょっと前までは、旅行者に行き先まで、なにがしかの荷物を運んで貰うという即席宅急便業が流行っていて、普通のちゃんとした業者のものならともかく、中には"危ない"代物を運ばされる可能性も十分に考えられるので、大抵の旅行者は警戒して係わることもなかった。それでも何といっても"資金"がものを言う海外の旅先であってみれば、"やばそう"な悪い予感を覚えながらも、つい手が出てしまったりもするのだろう。
 そういえば、リョサの小説《悪い娘の悪戯》の中でも、ヒロインが怪しげな日本人フクダに"危ない"荷物を世界のあっちこっちに運ぶ仕事をやらされるエピソードがあった。こっちは専業化したもので、いわゆる"運び屋"に過ぎないが。更に、映画《恋する惑星》(王家衛監督)で金髪のブリジット・リンがまだ返還前の香港・九龍にある重慶大厦でインド人達を使ってヘロインを運ばせるコミカルなシーンが思い出される。
 傍目にコミカルというと、、旅先でのある光景が眼に浮かんできた。傍目にはコミカルなのが、当事者二人は冷や汗ものだった一幕。バンコク→カラチ→テヘランの飛行機で一緒になったバンコクでイスラム料理屋で働いていたイラン人のA氏、トランジットのパキスタン・カラチでタクシーでくすんだカラチの市街を見物して、さてテヘラン行きの搭乗に相成ったカスタム前で、何をトチ狂ったのか、いきなり僕の手に分厚い札束のぎっしり詰まった封筒を押しつけてきた。おそらく彼が長年バンコクで働いてせっせと貯めた米ドルなのだろう。驚いて何事かと氏の方を見遣ると、
「預かってくれ!!」
と強張った表情で呟いた。
 しかし、煌々とした明るいカスタム・カウンターの前、視るとカスタムの係官も周りの同じ便のイラン人達も半ば呆れて何事かと眼を皿のようにして僕ら二人の方を見ているではないか。万事休す!! 衆目の真っ直中で、そんな大金を僕に渡すのも、そんな分厚い札束を受け取るのも晴天の霹靂的愚挙の極み。時間は空港に着く前に十分過ぎるほどあったのに、カスタムを前にして突然思い至ったのだろうか・・・と、飛行機の中で親しくしていたイラン人達が慌てて駈け寄ってきて、A氏に
「何をしてる! 別に問題ないんだ!」
とばかり呆れ半分納得させ始めた。A氏の勘違いに過ぎなかったらしい。で、呆れて首を振る係官の前を問題なく通過できたという次第。見れば他の出稼ぎイラン人達もそれぞれポケットに札束を収めていた。後になれば笑い話で済ませられるが、その時ばかりは、一瞬間であったにしろ、受け取るべきか、断るべきか全く窮してしまった。実際には、まじまじと注がれる係官の視線を意識しつつやんわりとかわしたのであったが。勿論テヘランでは氏の実家にやっかいになった。それにしても、旅先では、ホント、予想もしない事態に襲われるもの。只、大抵はそれが細く微妙な迂回路一本で辛うじて"事件"に至らぬまま済んでいるに過ぎない。

 
 

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