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2012年9月 1日 (土)

 《 カハーニィ KAHAANI 》 ドルガー・プジャは鮮血にまみれて

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 最近はYOU TUBEで、インドの映画を観れるようになって、さすがに日本語の字幕こそついてないものの、英語の字幕はついていることも多く、インド映画なんて観る機会も殆どない我々にとって大変便利にはなった。何しろインドは北のボリウッドから南の様々な系列の映画会社がひしめいていて少々の数ではなく、捜せばかなりのメッケ物も見つかる可能性も高い。
 この《 カハーニィ KAHAANI 》(物語)も、そんな中で偶然発見したもので、カルカッタ(現在はコルカタ)の町並みがしっかりと撮られ、もう十年以上も前に幾度も行ったり来たりした嘗てのカルカッタの町の記憶と随分と相違して一様に小綺麗になり夜も明るくなってしまっているのには驚いてしまった。ナレーションをアミターブ・バッチャンがやっていて、低目のゆったりとした声色が決まっている。

 主演のヴィディヤ・バーラン、若くはないけどそれなりにチャーミング、けど何処かで見た覚えがあるなーと思っていたら、バッチャン主演のなかなか雰囲気のあった《 エクラヴィヤ 》(2007年)でサイーフ・アリ・カーンの相手役を演っていた女優だった。《 エクラヴィヤ 》では淑やかな娘役だったが、この《 カハーニィ》じゃサリーを着たまま、オートマチック拳銃で、自分の旦那を死に至らしめ自分をも殺そうとした一味の男に、阿修羅輩を片っ端から血祭りに上げる女神ドルガーのごとく、全弾射ちこむ復讐の羅刹女と化した未亡人役も悪くはない。
 部分部分は皆定番を踏襲しているけど、その構成とデティールで、結構観させられてしまう。 何しろ背景の舞台であるカルカッタの町並と、カルカッタの守護神らしい気丈な女神ドルガーの祭りまで取り込まれていて雰囲気に溢れている。(劇中でも地下鉄の行き先にも出てくる"カーリー"でなくて好かったろう。カーリー女神だと血塗れの酸鼻を極めたものになりかねない)。

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 インドで《オーム真理教・地下鉄サリン事件》(1995年)が如何に流布し解釈されたのか定かじゃないけれど、この作品の冒頭に、カルカッタの"カーリー・ガート"方面行きの疾走する満員の地下鉄車両の中で、ガラス瓶に仕掛けられた毒ガスによって乗客達が多数殺害されてしまうシーンがある。
 その事件に、インドの情報局当局の一部が関わっていたという設定で、確かにインドでは、イスラム⇔ヒンドゥー、インド⇔パキスタンという対立から派生した"やらせ"事件も喧伝されて久しいが、あるいは、日本でのサリン事件にそんな噂(ともかく余りに胡散臭い事件なので、今だにどんな仮説も成り立ちえよう)もインドでは流布していたのかも知れない。

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 ドルガー祭りの最中、カルカッタ国際空港(以前はダムダム空港と呼ばれていたのが、現在は"チャンドラ・ボース"に変わったらしい。正式にはもっと長ったらしいようだが)に、七ヶ月の妊婦ヴィディヤが一人降り立った。カルカッタの国立データ・センターに向かったきり消息を絶った旦那を捜しにやってきたのだった。早速、カーリー女神を祀った寺院で有名な"カーリー・ガート"の警察に赴き、そこの若造警官ラナ・シンハに助けてもらう。データ・センターを尋ねても、彼女の旦那のデータがなく、そこの担当者に、旦那がそのデータ・センターを退職したミラン・ダムジという男に似ていると告げる。ところが、その担当者が、殺害されてしまう。ボブ・ビスワスという保険の外交を隠れ蓑に殺人を請け負っている男の犯行だった。
 その内、デリーの情報局からカーンという捜査員が派遣されてくる。ダムジも情報局のメンバーで、例の地下鉄毒ガス事件の下手人だとカーンに教えられる。ディヴィヤを殺害しようとして現れた殺し屋ボブが警官ラナに追跡されあげく車に轢かれしまい、ボブの携帯からカーンの上司のバスカランが浮かび上がってくる。次第に包囲網が狭まり、とうとう、ダムジ本人が、ディヴィヤの前に現れる。拳銃で射殺しようとして、逆に彼女が髪に挿していた"かんざし"で首と足を刺され、ほうほうの態で這って逃げだす。しかし、ディヴィヤは、彼が落としていったオートマチック拳銃を拾って跡を追い、マガジン(弾倉)をカチャリと拳銃のグリップに差し込む。血塗れになって恐怖の眼差しでディヴィヤを見上げるダムジにおもむろに銃口を向け、何度も、何度も引き金を引き続けた。
 銃声を聞きつけカーンとラナが走り寄ってきたが、既にディヴィヤの影すらなかった。ラナは、すべてディヴィヤが仕組んだものだと悟り、苦笑する。カーンもラナも、彼女の旦那の復讐に利用されただけだと。
 事件を情報局当局の一部が関与していた疑いをもっていたバスカランの元上司バジパイ大佐が彼女を手助けしてくれていたのだが、実は、彼女の旦那は、地下鉄毒ガス事件の際、首謀者ダムジ達の作戦を阻止しようとして果たさず死んでしまったのだった。

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 タイトルの"カハーニィ"は"物語"って意味だが、日本語でも英語でも同じで、ヒンディー語でも、"虚構"って意味も含まれている。最初から女主人公ディヴィヤが作り上げた虚構の"物語"に沿って映画的現実としての物語が展開されてゆく。些かこじつけると世間(勿論映画の中でのインド)で喧伝されたカルカッタ"地下鉄毒ガス事件"も、当局(一部という、末端の部分から上層部までを含む可能性のある曖昧なものであるが)が関与していたのを隠蔽した欺瞞に満ちた"物語"ってことにもなる。
 実際にインドで地下鉄毒ガス事件なんて起きてはないだろうが、有名なのはボパールで、米国化学企業"ユニオン・カーバイド"が起こした何万人とも、何十万人ともいわれる死者と被害者を出した事件だろう。おまけに、そのユニオン・カーバイド社の社長だったか会長だったか忘れたが、事件後米国に逃げ帰り、未だに逃亡中らしい。後そのユニオン・カーバイドを傘下においた米国大企業"ダウ・ケミカル"社も、前者と同様、悪質を絵に描いたような存在らしい。勿論米国政府は知らん顔。"9.11"なんかで、よくもまあヌケヌケと、あたかも世界の不幸のように騒ぎ立てれたものだ。おまけに、当時(勿論現在も引き継がれているのだろうが)のインドの権力も、米国の圧力に屈し懐柔されてしまったようで、今度の東北大震災・津波東電原発爆発事件と同等かそれ以上の人的被害も何のその、結局当局によって、貧民窟の住民の生命なんて取るに足らぬ、たいしたことのない"物語"として重い鉛の蓋をされてしまったようだ。
 この映画、今年の春にインドで封切られた作品で、早々と来月"福岡アジア・フォーカス"で上映されるらしい。


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