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2012年12月 8日 (土)

《 捜査官X 》'武侠'=骨肉的江湖

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 最初から期待してなかった《 秋瑾 〜競雄女侠 》、コマーシャル性ってことでか安手の清末武侠片かと見間違うくらいに変容していて、「秋風秋雨、人を愁殺す」なんて詩境的雰囲気微塵もない単なるアクション物でしかなかった。もう一つの、予告編観てちょっと新機軸なのかなと期待した金城武が清末ならぬ初期民国捜査官を演っている《 捜査官X 》、オリジナル・タイトル《 武侠 》、こっちもそんな先入観をサラリとかわされ、あげく立ち現れたのがギンギンの民国"幇"的故事片のドニー・イェンはじめ最期にはあの悪名高い(その割には坊ちゃん坊ちゃんした風貌の)ジミー・ウォン御大までもが激烈カンフー・バトル全開。それにしてもドニー・イェンのアクション指導なかなかのもので、久し振りに骨のある武侠片を見せて貰ったって感じだ。

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 そもそもこの邦題《 捜査官X 》って、どう考えても金城武を主演に据えた未だ清末的残滓色濃い民国初期を時代背景にした"探偵物"って感じだった。中国の辺境・雲南のとある少数民族の村に紛れ込んだ二人のお尋ね者が、押し入った先で偶々居合わせた紙漉職人リュウ・ジンシー(ドニー・イェン)に抱きつかれ結果的に倒されてしまうという椿事が起き、我らが捜査官・徐百九シュウ・バイジュウ(金城武)が颯爽と現れる。パナマ帽にまん丸銀縁眼鏡、くすんだ長衣に斜にかけた布鞄の中には幾種類もの針灸針を常に隠し持つ。
 件の偶然に偶然が重なった椿事的強殺犯退治事件も経絡秘孔的知識を援用し快刀乱麻に解いてゆく。椿事が偶然ではなく絶妙なまでに計算され尽くした詐術的偽装殺人であることを解き明かし、平凡な紙漉職人だったはずのリュウ・ジンシーの隠された真相に肉薄してゆく。

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 実は彼は十年近く前、荊州の方からやって来た異郷人で、今の女房のアユー(タン・ウェイ)と出遭って一緒になったのであった。徐百九の無神経なまでの執拗な尋問にも、リュウ・ジンシーは平然として対応するばかり。やがて、生家の父親に命令されある男を殺害し、恩赦で十年の刑期で出獄したばかりであったと父親や生家に対する嫌悪の念も露わに告白してみせた。 しかし、後に明らかになったその実態は戦慄すべきものであった。遙か昔西夏王国80万人が屠られた民族的怨念を雪ぐべく、冷酷無惨な大量殺戮を宗とする秘密組織(幇)" 七十二地刹 "の、リュウ・ジンシーはその教主の長子タン・ロンであった。そんな罪業を厭い、組織から逃れるため身分を偽って辺境の寒村に身を潜めたのだった。我らが捜査官・徐百九の杓子定規な頑なさを通り越した偏執狂的なまでの拘りが、" 七十二地刹 "一党に、やがて、リュウ・ジンシーの潜伏先を知らしめてしまう。村の祭祀の日、突如、謎の男女二人組が姿を現し、リュウ・ジンシーに詰め寄る。

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  この双刀の女殺戮者は怖い。これにタイ女の血でも混じった日にはアジアに敵なし。正に東方不敗。  

 「お前はタン・ロンだろ?」
 リュウ・ジンシーは殴られても蹴られても首を横に振る。業を煮やした女(教主の妻)は短剣で村の長老の首を抉り、更に別の村民を斬り殺そうとするや、もうこれまでとリュウ・ジンシー、とうとう正体を現してしまう。死闘の末二人組を葬るが、一味によって村のあっこちに火が放たれ住民たちの殆どは城砦に避難。徐百九、彼のために一計を案じるが失敗し、リュウ・ジンシー自らの片腕を刀で切り落とし、兄や仲間に決別の証とする。が、アユーや子供たちの待つ家に、彼の父である" 七十二地刹 "の教主(ジミー・ウオン)が既に待ち構えていた。そこで最期の死闘が展開され、徐百九も針で教主のツボを狙い、それが功を奏したのか首に刺した針先に雷が落ち即死してしまう。その時怒り狂った教主の凶手にかかって徐百九、一命を取り留めたのか否なのか・・・リュウ・ジンシーとアユーの一家の普段の朝の光景が流れる。やっぱりオリジナルのタイトル通り"武侠"片って訳で、ドニー・イエンが主演なのだろう。

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 まさか《 捜査官X 》をシリーズ化するんじゃないんだろうが、余りにも金城武演ずる捜査官・徐百九のキャラクターがこれ見よがしに作られていて、ついそんな憶測までしてしまう。
"民国初期"ってのがミソで、それまで余りスクリーンでお目にかかることのなかった時代設定なのでつい興味をもって観ることになったのだけど、"辛亥革命100年記念"ってことで中国圏で当時を背景にした作品があれこれ作られることとなった成り行きの産物なのか。辛亥革命自体とはちょっと外れた、しかし、中国のもう一つ根深いところでの時代的風景(フィクションではあるが)として興味の尽きない作品ではある。
 西夏国といえば、同年に作られたジェット・リー&ツイ・ハークの古装武侠片《龍門飛甲》にも西夏王宮が出てくる。単なる偶然なのだろうか。

ドニー・イェン
金城武
タン・ウェイ
ジミー・ウォング
クララ・ウェイ
リー・シャオラン

監督 ピーター・チャン(陳可辛)
脚本 オーブリー・ラム
撮影 ジェイク・ポロック
美術  イー・チュンマン
音楽 チャン・クォンウィン、ピーター・カム、
    チャッチャイ・ポンプラパーパン
アクション監督 ドニー・イェン
主題歌 「迷走江湖」
     作詞・作曲・唄 ドウ・ウェイ
制作 香港・中国合作(2011年)

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