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2013年4月20日 (土)

花嫁は棺の上にのって 『A.M 3 ルアン・ホー・コン・ターイ』

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 元々日本では殆ど観る機会のないタイ映画、昨今はYOUTUBEもそうだが、タイ映画関係のブログ・サイトも増え、結構精力的に展開している人たちも増えて、我々丘に登った浦島太郎たちにとって遥か彼方となってしまった竜宮の情報のあれこれを得易くなってありがたい。後はもう一歩踏み込んだタイの文化に関するサイトなんかが出てきてくれれば御の字。
 そんな中でチェックしてみたのが、この2012年の3D映画《"ティー・サーム" 3A.M   》。三話オムニバスのホラー映画で、嘗てアジアン・ホラー・オムニバス《 スリー 》のシリーズが有名だったけど、各国を代表したものであってそれなりにちゃんとしたレベルのばかりだった。しかしながら、この3D映画《 ティー・サーム 3 A.M 》は、いかにも"タイ風"に、"サバーイ・サバーイ"精神的産物といわんばかのお手軽オムニバス。けれど、タイ国内では結構ヒットしたという。3D映画って、"サバーイ"スピリットのタイ人にとって待ちに待った玩弄物の極みのようで、次から次へと量産しているようだ。確かに、内容よりも、その視覚的こけおどしに酔って(そんなレベルの作品にまだお目にかかったことはないが)いればいいだけだから、正にチーパーな悦楽の玉手箱。それでも、やがてそんな小手先のこけおどしにも飽きてくるのもはっきりしているし、今度はきっぱり" 三次元映像 "って展開なのだろう。" びっくり飛び出し映像 "って、遥か'60年代頃流行っていたって話しだけど、すぐ廃れてしまって精々がiMaxあたりで趣味的に細々と生き延びていたに過ぎないようだ。

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 最初誰だか分からなかったものの、何処かでその面影に見覚えがあって誰だろうとクレジットを確かめてみたら、あの前思春期恋愛映画《 フェーン・チャン 》(2003年)少女ノイナー役のフォーカス・チラクンではないか。後年、このブログでも紹介したタイ版怪異母性本能映画《 ゴースト・マザー 》(2007年)に出演していた頃の彼女の風貌とも随分と変化してしまってすっかり大人の女の風貌になっていたのが懐かしかった最初の第一話《 ケート・サヨーン 》はカツラ屋に持ち込まれた死人の髪の怪異譚だけど駄作。タイには日本同様、駄作ホラーはてんこ盛り。
 最後の第三話《 オーバー・タイム 》も、今じゃタイ映画の中堅の働き盛りってポジションのチャクリット・イェナムとレイ・マクドナルドの二人が出ていて、ターター・ヤングの青春映画《 オー・ネガティブ 》以来のコンビ。が、タイ=バンコクのトレンディーなオフィスってこんなのかと勉強にはなったものの、せわしなくどんでん返しが続くドタバタ物で殆ど駄作。アイデアは悪くないけど、余りにも造りが杜撰過ぎ。
 結局このオムニバスは総じて粗悪。只、第二話の《 ルアン・ホー・コン・ターイ 》The Corpse Bride (中国タイトル"陰陽棺" これは、白黒二つの棺桶が並べられているのと道教的な怪異的ニュアンスを付与するためからだろう。)は、何しろ題材が死んだ花嫁と花婿が並んで棺に入った新婚家庭=屋敷での怪奇事件というのが如何にもタイ風味って感じで興味を惹いた。
 ルアン・ホーで「花嫁のための家」という意味らしく、コン・ターイが「死人、屍体」なので" 屍者の花嫁屋敷 "ってところだろうが、定番の訳語があるのかも知れない。
 病院から派遣された屍体の番人役の青年がその死んだ花嫁に恋をするって話で、即物的にいえば" 屍姦 "。随分と好事家的な猟奇物になってしまうところを、純白の棺に収まった花嫁チェリー役のカーンクラウ・ドゥアイシヤンクラウ(グレース)のスマートな肢体を美麗に映し、エロティシズムを醸し出したエロスとタナトスの供宴!、とまではいかないものの、その匂りぐらいは妖しく漂って、それなりの恋愛怪異譚にはなっている。

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 一緒に病院からやってきた遺体保存処理専門の年配のナースが些か不気味さをこれ見よがしに漂わせ、やがて彼トニー一人を残して自分の車で帰って行く。トニーは病院よりも遙かに金になるこの屍体の番人役を買って出たのだったが、なりゆきで花嫁チェリーの棺を開ける羽目に陥ってしまう。それがそもそもの災厄のはじまりで、その中に納められていた美麗な若い女の姿にすっかり魅了されてしまう。彼女のベッドの脇の小机から見つかったビデオ・ディスクとデジカメに残されていた映像に暗澹としてしまう。花嫁チェリーが新夫にロープで手足を縛られ虐待されている光景がそこにあったからだ。甜い眠りから今にも目覚めむっくりと起き出してしまいそうな生気に溢れた美しい肢体の、この花嫁に。一体なんてことをこの悪辣な新夫はしていたんだと、怒りすら覚え、早速一緒に並んでいた二つの棺を離し、新夫の収まった黒い棺を、黄金の仏像を安置した部屋に運び込み、聖糸でグルグル巻きにして、新夫の霊を中に封じ込めた。
 そして青年 は、チェリーの艶めかしい裸体を洗い清め、愛撫した。ところが、封じ込めていたはずの新夫の棺の蓋が開けっ放されていて、眼前に、その新夫の在りし日の姿がありありと映し出され、実は、新夫は花嫁チェリーを虐待ではなく、助けようとしていたのが分かってしまう。花嫁が、何らかの理由で自傷行為に走りかねず、やむなく手足を縛っていたに過ぎなかった。と、新夫がそのロープを外してやった次の刹那、一振りで花嫁は新夫の喉を掻き切り、更に自身の白い喉元を深々と抉って果ててしまった。
 青年がふと気づくと白い棺の中に納められていて、泣けど叫べど花嫁チェリーの乗った蓋はびくともしなかった。・・・
 怪異譚としては危ういエロスとタナトスのもつれ合いを耽美的に描き出そうとして面白く
もあるのだけど、これこそ嘗てアジアン・ホラー・オムニバス《 スリー 》中の《 餃子 》が長編でも撮られていたように、つまらない作品作るより、もっと濃密にちゃんと撮って欲しい作品だ。もったいない。

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監督 キーラティ・ナークインタノン
チェリー カーンクラオ・ドゥアイシアンクラオ(グレース)
青年  トニー・ラークケーン
新夫   ピーター・ナイト
製作   ファイブ・スター (タイ)2012年

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