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2013年8月11日 (日)

  幻視する聖処女  ジャンヌ・ダルク

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 ( ルーアンの処刑台前のジャンヌ  クリック拡大)

 カール・テオドール・ドライヤー監督の《 裁かるるジャンヌ 》(1928年)は、侵略者英国軍に囚われてから、焚刑(火あぶり)に処されるまでの、正にイエス・キリストがゴルゴダの丘で十字架上で磔刑に処されたのと同様の、文字通りの受難劇=パッションそのものだったが、このリュック・ベンソン監督の《 ジャンヌ・ダルク 》は、スペクタクルを全面に押し出したエンターテイメント性の強い作品になっている。
 オルレアンの聖処女=ジャンヌ・ダルクが、生地ルーアン地方のドンレミでの少女時代に体験した奇蹟から、王太子シャルル( シャルル七世 )に謁見し啓示( 実際には、大天使ミカエルの声ってことになってるらしい )の内容を伝え、フランス軍を率いて、英国軍に占拠されていたオルレアンを奪回した。ところが、尚も英国をフランスから完全に追い出そうと戦争続行を唱えるジャンヌを、そのお陰で戴冠できたシャルルが裏切り、英国軍の手に落ちたジャンヌは"異端裁判"にかけられてしまい、ついには異端=魔女(史実的には、魔女・背教者・異端者・偶像崇拝者・涜神者等々の英国軍の傀儡=司教ピエール・コーション一派の教会側のつけたい放題の罪状だったらしい)として火刑に処されてしまう。体良く、ジャンヌは、シャルル七世たちに利用された聖処女=救国の英雄に過ぎなかったという訳だ。

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 幻視という些かシュールな事象を、ダスティー・ホフマン演じる黒衣の幻影はじめ、ジョン・ブアマンの《 エクスカリバー 》(1981年)を彷彿とさせるイマジネーティヴな場面ともども、余り凝った映像表現に淫することなく、スムーズに処されていて、結構面白く作られている。現代風のスペクタクルって面で、"戦の女神"でもあったジャンヌ役に、鋭い眼差しのミラ・ジョボヴィッチは、うってつけだったろう。甲冑姿もよく似合ってる。


 ぼくが一番気に入っている場面は、冒頭の、生地ドンレミ村の田園地帯を、信仰心篤く幸せに満ちた少女ジャンヌが、溢れる喜びにかられるように駈け巡るシークエンス。
 野原を走り、小川を突っ切り、とある草地に倒れ込み仰向けになって、白雲が流れ晴れ渡った大空を見上げる。と、突如、何か意識に変容でも起こったように、雲の流れが信じられないくらいに速くなり、教会の鐘の音が鳴り響き、見慣れぬ少年の横顔が過(よ)ぎる。そして、彼女の名を呼ぶ声が・・・ふと、気づくと、すぐ傍らに、銀色に輝く長剣が一振り転がっていた。
 それが所謂ジャンヌ・ダルクの奇蹟の一瞬なのだろう。
 そして、その雰囲気は、ジョン・ブアマンの《 エクスカリバー 》にも似て、中世の神秘的説話に満ちた《 アーサー王物語 》にまで連なってゆく。
 《 アーサー王物語 》は、英国内に留まるものでなくて、ドーバー海峡を越え、フランスにも及んでいる。かの円卓の騎士の一人ランスロットも、出自はフランスという。その、いかにもいわくありげな、神秘の剣エクスカリバーかと見まがうような撮り方が好い。( ランスロットだと秘剣アロンダイトらしい )

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 シャルル七世と敵対していたブルゴーニュ派捕らわれ、英国軍に売り渡されて、ルーアンのル・ヴルイユ城砦の塔に幽閉されたジャンヌ、その仄暗い牢獄で不意に現れたダスティー・ホフマン演じる黒衣の男を幻視するようになる。専ら、ジャンヌの矛盾を追及する心優しい審問官の如く。
 件の長剣も問われ、ジャンヌは神意=奇蹟として、正にジャンヌの傍らに"現れ"たのだと了解してきたのが、黒衣の男は、戦闘中に弾かれ飛んできたものから、騎士が途中で放り捨てたものまで、あらゆる可能な由来を映像化してみせる。様々な考えられる無数の可能性の中から、お前( ジャンヌ )がそれ「 神意=奇蹟という由来 」を選んだに過ぎないのじゃないか、と。ジャンヌは、唯だ、絶句するしかなかった。

 やがて、処刑直前、牢内に再び黒衣の男が現れる。
 映画の中で、ジャンヌが求めてもその機会を与えられなかった、信仰心篤いジャンヌの日々の糧ともいえる" 懺悔 "を、最後に彼が執り行ってくれた。ジャンヌの告白が済むと厳かに彼が囁いた。
 
 「心の準備は出来たか」
 
 「はい」
 
 「よろしい」
 
 背後に回り、ジャンヌの頭に優しく掌を置く。

 「汝の罪を許す」
  
 そして、一人昂然と、ジャンヌは、英国兵や群衆が待ちかまえる、蒔きを山と積み上げた焚刑場へと歩み始める・・・

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 ジャンヌを焼いた灰は、セーヌ川に流されたという。偶像化=英雄化を恐れて、英国軍が謀ったものらしい。
 異民族支配からの祖国解放・救国の英雄=奇蹟の聖処女ってところで、西欧史に燦然と輝いているジャンヌ・ダルクだけど、それは比較的最近、近代国家が成立する頃の19世紀に入ってから"愛国の英雄"として再評価されてからのことらしい。それも、それぞれの政治的立場に則ってその偶像化=シンボル化されたものとして。
 洋の東西を問わず、歴史の舞台にのぼった女傑って少なくはなく、総じて悲劇のヒロインであることも多い。それが一層、暗い歴史の間で紅蓮の焔を燃え上がらせ、神秘的寓意的な意匠をほどこされ、数多の説話・伝説を生み出してゆく。


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