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2014年3月15日 (土)

平成末の因果応報的死霊譚 『 クロユリ団地 』

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 米国版《 リング 》がそれなりに面白くてオリジナルの日本版の方も観てみたらアレレ ? 物だったその同じ中田秀夫の監督作品である《 クロユリ団地 》、元AKBの前田敦子主演ってことで注目を集め結構ヒットしたらしい。共演の成宮寛貴の効果もあったのかも知れない。でも、クレジットみたら〝 企画・秋元康 〟とあって、前田敦子の卒業ってあくまでAKB48のって限定つきだったことの方に驚いてしまった。
 《 呪怨 2 》の酒井法子と同様可もなく不可もなくの別段特筆するようなものは見られなかった前田敦子の演技ではあるが、独特のキャラクター・雰囲気をもっているので、女優としては有利なのだろう。秋元康と切れたところからが本当の勝負ってとこじゃなかろうか。事務所的にはともかく。


 以前紹介した《 呪怨 2 》の時よりはこの《 クロユリ団地 》、勿論監督は異なるものの、若干技術的に進歩の跡が見られたけど、十年もの時の経過を経ていて、勿論かけた資金が違うからってこともあるだろうけど、ハリウッドとの距離は相変わらずで縮まっているようには思えない。
 ストーリー的には月並み過ぎて呆れるくらいだ。
 そもそもホラーってそんなものだし、問題はそれを監督・制作側がどんな風に、異空間・恐怖世界を作り出すことができるかってことだけど、今流行の、びっくり仰天 !! 実は主人公自身が病んでいたのです、ってもはや擦り切れかかった定番を踏襲しつつも、それでも何とか観れるようには作れていた。只、これも昨今の常套と化したきらいもあるラストが今ひとつ判然としない、続編の《 クロユリ団地 2 》があってこそ成り立つような仕様になっている。


 とある公営の四階建ての団地に、明日香( 前田敦子 )とその家族が入ってきて、引っ越しの真っ最中。ハリウッドだとその前の、遠く離れた新住宅に引っ越す直前のシーンから始まるのが定石。いきなり新居での家族団らんの一時から始まるのだけど、早速同じ階の向かいの部屋に引っ越しの挨拶代わりの菓子折を明日香が持って行く運びとなる。何でわたしなの、と憮然として訪れるが、人の気配はあるのに呼んでもドアをノックしても住民は姿を現さず、仕方なく、ドアのノブに菓子折の入った紙袋を提げて戻ってしまう。
 その後、団地の中庭の砂場で幼い男児ミノルが一人遊んでいるのに遭遇。普通なら、気にもせず通り過ぎるはずが、何故か明日香は男児の傍へ寄って話しかける。独りぼっちで遊んで寂しくないのって心理だったようだ。しかし、これがやがて遺品整理屋の笹原忍( 成宮寛貴 )をも巻き込む一大因果応報的死霊譚に発展する機縁であった。


 実は、この団地は、以前かくれんぼ中に潜り込んだ大型のゴミ箱に閉じこめられてしまい、あげく誤って焼却場で焼かれてしまった少年・ミノルの、恨鬼と化した死霊に祟られ、次から次へと住民たちが無惨な死をとげていた、いわくつきの場所であったのだ。

 今やこの国で団地といえば、かつてのハイソで華やかな夢をはぐくむイメージはなく、専ら自民党半世紀支配の賜物、自転車操業にも似た限りなく強権的強制&サギを繰り返しつづけていよいよ見せかけだけになってゆく《 年金 》の先細りと相補に、過疎化し凋落してゆくばかりのもう目前に迫った姥捨山。孤独死、廃残死の底なしに昏い滲(しみ)ばかりが、年々一層色濃く、矩形のコンクリートを覆い尽くしつづける正に平成末的シンボル。
 そこに、夢=未来・再生の原動力のはずが、ひたすら恨みばかり残して扼殺されてゆく子供たち=少年の、理不尽・不条理な死=地獄の業火に焼き殺されてゆく恐怖と叫び、憎悪と怒り、そして底なしの恨みが、住民たちを凄惨な死の淵へと引きずり込んでゆく。
 恨みを残して死んでいって冤魂と化した死霊=少年に、同じく交通事故で家族全員を失ってしまった明日香は、亡くなった自分の弟を重ね合わせ、接近していった。少年が呼び寄せたのか、明日香のトラウマ的産物なのか不確かなまま、その明日香のトラウマ=意識の隙間を衝き分け入ってきて、彼女すらも死の淵に引きずり込もうとする少年ミノル。


 少女の頃、明日香がおねだりして家族みんなで赴いたバス遊行の途次、不慮の事故が起き、彼女一人が生き残った。もし、彼女がおねだりしさえしなかったら・・・そんな呵責の念=トラウマが、もはやこの世に存在しない家族を、件の団地の402号室に、ありありと幻視( 過去の記憶の断片とリアルタイムな現実が混淆した )してみせたのが、冒頭の引っ越し直後のシーンであった。

 監督の田中は、2008年のスウェーデン映画《 ぼくのエリ 200歳の少女 》の主人公の吸血鬼エリと少年オスカーとの悲恋に触発されこの作品を作った旨明らかにしているようだけど、女の霊が恋する男と逢瀬を重ねていたのが他人に正体がばれ、魔除けの札を貼って近寄れなくしたのを恨み、他人を金で釣って札を剥がさせ、件の情人をとり殺してしまう日本や中国にも昔からある《 牡丹灯籠 》にも相似している。
 心臓発作によってかミノルに呪殺されたのか苦しみもがいて壁に深いひっかき傷を残して死んでいった明日香が菓子折を置いていった401号室の独居老人の死霊は、明日香を助けようとしていたのか。あるいは何らかの機縁によってひょっとして恨鬼と化してしまった少年の霊の方を呪詛の淵から助け出そうとしたのか。
 老人の遺品整理にやってきた笹原忍の前にも少年ミノルの死霊は現れ、明日香の居る402号室に入ろうとしてドアを開けさせず邪魔をする笹原忍の面前に現れた彼の起こした事故で植物人間になってしまった彼の恋人の生霊も、彼のトラウマの間隙を衝いてミノルが幻視させたものだろうし、終いには焼却場らしきコンクリートの矩形の中に彼を引き摺り込んでしまう。呪詛の炎に包まれ笹原忍は泣き叫ぶが、現実的事象なのか幻視なのか定かではない。
 しかし、ここで、エリとオスカーに対応するとすると、401号室の独居老人でも遺品整理屋の笹原忍でもなく、結局、性別・資質は逆倒しているけれど、吸血鬼エリに照応した少年ミノルしか居ない。確かに、明日香は無傷なままで、結界を破った後、明日香との永劫の遊戯を手中にしたのかも知れない。
 けど、〝 悲恋 〟だとすると、砂場で出遭った少年と成人女じゃちょっと筋が通らない。と、少年ミノルが事故死した時まで遡って、明日香がそのかくれんぼ仲間の一人、それもミノルと仲の良かった少女だったという推論が整合性をもつ。だとすれば、当時明日香の一家は402号室に住んでいた可能性も高くなる。すると、真ん前の401号室の独居老人って如何なる存在だったのか・・・やがて、《 クロユリ団地 2 》が公開されれば明らかになるのだろうが。

 確かにこの映画、映画それ自体よりも、あれこれ斟酌し想像力を逞しくしたりする方がはるかに面白いし、有意義に違いない。


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