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2014年6月 8日 (日)

旅先の不可解 2

Isfahan_a

 イランの古都イスファハンは他のイランの町とは違ってどこかあか抜けのんびりとした雰囲気が気に入ってしまった。
 バザールが有名で、最近は小綺麗になったろうが、当時はまだイラン・イラク戦争が終わって数年、所々廃墟めいた場所すらあったくすんだ佇まいでそれなりの風情があった。女性もカラフルなチャドルを纏って買い物に余念がなかった。海抜1500メートル、四月下旬で天候悪く雨も降り肌寒い日もあった。
 イラン人好みなのかジンジャー風味のアイスクリームはお気に入りだった。マーデュという上にバナナのスライスやナッツの砕片がいっぱい載ったドロリとしたミルク・シェイク風の飲物もあった。エジプトにも似た飲み物があった記憶があるけど、見てると小さな子供連れの母親がマーデュ( 500IR )一杯だけを注文し子供たち皆に飲ませていたのが印象的だった。宿はバックパッカー御用達の《 アミール・カビール・ホテル 》(S=3000IR、W=5000IR)。中庭があって共同のホット・シャワー。他の日本人と二人でダブル・ルームを各3000IRでシェアー。


Isfahan_c


 繁華街のチャハール・バーグ通りにある《 ナグシェ・ジャハーン・ホテル 》の一階の奥にあるレストランで朝食、隣の《 ノバハル・レストラン 》で夕食と決まっていて、インドからつかず離れずに一緒だった日本人パッカーたちと夕食に《 ノバハル・レストラン 》に通った。
 その中に、関西の学生が居て、弁護士志望ということであった。
 その学生が、ある時、如何なる動機によるものか、“ 宿代を踏み倒して逃げてみたい ”と言い出した。
 ぼくら一同唖然としてしまった。 
 金がないからじゃなくて、どうもそのスリルを味わってみたい、ということらしかった。
 ぼくらはそんな浅はか且つ悪質な行為を諫めた。
 金がないというならまだしも、ちゃんと持っていて、こっそりリュック担いで逃げ出し踏み倒すというのは、何よりも旅行者と宿との信頼性を損なう裏切行為に違いない。おまけに、弁護士志望というのだから何をかいわんやだ。
 彼はぼくとは別の部屋だったけど、結局いつの間にかドロンし、宿のスタッフが気色ばんだ表情で、忽然と姿を消した彼のことを尋ねにきた。ぼくらは知らん顔を決め込むしかなかったけど、間違っても彼の踏み倒した部屋代を立て替えるってこともなかった。それは又ちょっと筋が違うってことだ。
 こっちでは一体そこら辺のシステムはどうなっているのか知る由もなかった。
 ひょっとしてそのスタッフが損失分を肩代わりさせられるって可能性もあった。現地のしがない雇われ人に過ぎない彼に、3000~5000IRは決して鼻歌気分で払える額のものではなかったはず。下手すると一日分かそれ以上の給料が飛びかねない。


Isfahan_b


 以前、隣国パキスタンのラワルピンディーというやけにだだっ広い馬車とスズキ( 軽トラの荷台に人を乗せる )のまき上げる砂塵モウモウたる雑然とした町の安宿に滞在していた時、支払いの段になって一日分不足を宿のまだ若いチーフがやってきて訴えてきたことがあった。けっこうアバウトな感じがしたため、念のため支払った分をノートに記していたのでその旨伝えると、スタッフの過誤というより誰かがくすねた可能性に思い至ってか、そんなイスラムの教えに背く背徳的行為なぞ考えられない、慚愧に堪えぬとばかりに苦渋の表情を浮かべ、殆ど泣き出さんばかりであった。
 
 それにしても、無いならともかく、ちゃんと有って払わないでドロンは、何としてもまずかろう。外人旅行者に対して友好的な人々であってみれば、罪深い、正に仁義に反した背信行為だろう。それに、彼は弁護士志望の割には、イスラム原理主義=イランという国の怖さに無頓着過ぎた。盗みは下手をすると手首を切り落とされかねない厳罰なのは、サウジだったか。不倫は地面に埋められたあげくの石打刑はイランの常識。そんな国で、もし宿のスタッフがポリスか何かに通報したとしたら事態は甚だ厄介なことになったろう。微々たる数の日本人旅行者なんか簡単に発見され逮捕されかねない。何日か拘留され踏み倒した宿代を払ってすめば御の字ってところ。
 おそらく宿側が泣き寝入りして収めてくれたのだろう。
 それにしても彼は一体いかなる動機・心持ちでそんな稚戯めいた挙にでたのだろう ?
 一番ありえそうなのは、ちょっと飽きてきた長旅の刺激剤として一抹のスリルを味わってみたかったってところなんだろう。チープ・スリルってフレーズ何処かで聞いたことがあったけど、不義理もさることながら、一歩間違えると、とんでもない事態に陥ったかも知れなかったわが日本人バックパッカー君ではあった。


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