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2014年8月16日 (土)

 ゴルムドから西寧への旅 1993

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 ( 西寧体育館の敷地内のテント小屋。一見カンフー的大道芸かと思いきや、実際は手品やブレークダンスの見物小屋。メイベル・チャン監督「北京ロック」中国題 : 北京楽興路を思い出す。)
 

八月にもかかわらず天候不順なチベットの麓の町ゴルムドから、青海省の省都・西寧(シーニン)に向かう。
 
 304次 客快 列車
 ゴルムド → 西寧
 8月14日 15:20発 → 17:35 着
 10車71座 ( 硬座 )
          71元 FEC
 
 列車は一時間遅れの4時20分に出発。
 シートはビニール張りの2×3。ぼくは二人掛け通路側。
 思ったほど混んではいなかった。
 通路を挟んだ反対側の席に、日本人が一人入ってきた。今日、敦煌からバスでやってきたという。ぼくも二日前に、柳園( 敦煌 )から中国の核実験場の噂のあった幻のロプノール脇やタリム盆地をボロ・バスにゆられながら新興の町ゴルムドにやってきたのだけど、景観はなかなかのものだった。何十キロにも及ぶかと思われた傾斜を延々とのぼって行く景色も凄かった。
 この列車の窓外にひろがる青海高原の景色もなかなか良い。
 その日本人がいる三人掛けのシートとその近辺に陣取った中国人の学生と思われる青年たちの食べている物( 買ったもの )が随分と豪勢で、中国では学生って特権階級的存在なのかと些か驚いてしまった。面白かったのは、その中の一人が、テーブルの上に彼らが置いたティッシューがあるにもかかわらず、通路の上で手洟( てばな )をかみ、その後自前のハンカチで拭っていたことだ。何やらその時の中国の置かれた位相ってものを明かしているようで興味深かった。それにしても、この列車、インドやパキスタンなみかそれ以上にやたら物売りが多く、後にも先にも中国の列車でこれほど物売りがひっきりなしに行ったり来たりしてるのを見たのはこの“ 304 ”次客快だけであった。これも《 改革開放 》の波ってやつだったのだろう。貧しかった者はまともな生活を、そこそこの生活だった者はも少し増しな余裕のある生活を目指して。

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 ( 敦煌→ゴルムドの間の景観 )

 
 翌朝、窓外に美麗な景色がつづいた。
 小さな湖の次に青海湖が現れた。
 思っていたよりもぼく好みの景観ですっかり気に入ってしまった。手前の草原の向こうに、黄土、そして碧い湖、更にそのむこうに砂礫の山々。

 西寧には11時半頃到着。
 駅の背後に巨大な礫山がドドッと立っていて、考えてみればこれは場所柄地理的にはむしろ当然なのだろうが、西寧では有名らしい北山(禅)寺=道観( 元々は仏教寺院 )のイメージからもっと中国風・山水画風の佇まいを勝手に想像していて面喰らった。
 オーソドックスな西寧賓館にチェック・イン。
 一楼=地階の四人部屋ドミトリー( 多人房 )。15元FEC。シャワーがなく、バス・タブで、ちゃんと湯は出た。カラーTVまで備わっていた。
 旧い建物で、広い庭にリンゴの木がいっぱい植わってて、赤や青の実がたわわになっていた。まだ早いのか実は小振りだった。中国のリンゴは日本のように品種改良の結晶のような代物と違ってプリミティブな本来の種に近く、実が堅く甜みが少ないのが多い。それはそれで喰えなくもない。

 この時季、海抜2200メートルの西寧は、天候は良くなく、肌寒い日も多い。
 地図に載っている八月の平均雨天日数が14・3で、月の半分が雨天。尤も、雨量はと言うと81・6ミリと少なく、せいぜいが降っても小雨か霧雨の類ってことになる。しかし、曇天続きであることには変わりない。

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 ( チベツト仏教寺院「タール寺」 クリック拡大 )


 郊外には有名なチベット仏教寺院タール( 塔爾 )寺があるけど、市内じゃ長江路から下って西大街→東大街→東関街へと向うと東関清真大寺イスラム・モスクがあり、この辺りはイスラム系住民が多いようで、薄い黒のベールをかぶった女性の姿も多々見られる。男は定番白い縁なしのまん丸帽。
 長江路から西大街に《 人民劇院 》があって京劇の看板が立っていたので夕方六時頃再訪すると、玄関の隙間から、京劇じゃなく派手なモダーンな衣裳の踊子たちが横一列になってダンスの練習をしていた。訳が分からず、そこを後にして通りの向かいにある《 人民電影 》に赴く。普通の映画館と二軒のビデオ映画館で構成されていて、一楼のビデオ映画館の方に入った。( 1・5元 )。香港映画の三本立てで、三本ともそれぞれ別々のシリーズ物のようだった。
 二本目がジェット・リー主演の《 笑傲江湖 東方不敗 》だった。
 普通のプロジェクターの割には随分と大きな建物で、日本の小さな映画館より広かった。只、所詮プロジェクターなので解像度が低く、画面も小さいので、うしろの方で観ていたぼくには、中国語の字幕がもう一つ判然とせず見づらかったし、館内は禁煙じゃなくてもうもうと紫煙白煙が漂っていて、長時間長居はできず退散。
 ジェット・リーと台湾女優ブリジット・リンの共演なかなかのもので、長崎・平戸すら出てきて、そこで日本の民謡をすらジェット・リーが唄って見せたり怪しげな日本語を駆使したりのはちゃめちゃな異国情緒溢れた、一種のロード・ムービーともいえなくもなく、この映画ぼくの好きな映画の一つとなった。ここがこの映画の初見の地であったのを今頃思い出した。
 館を出たのが九時過ぎで、西大街の夜の通りはネオンで輝いていた。回族( イスラム系民族 )の屋台がひしめき、大半がタレをつけたカバーブの店だったけど、何処も客で賑わっていた。深夜遅くまで営っているようだった。さすが青海省の省都だけのことはあった。当時60万人だった人口が20年後の現在では200万人と急増著しい。

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  (先のとんがった桃。日本ではまずお目にかかれない。ぼくにとっては正に孫悟空以来の中国神話世界の象徴。でも、桃太郎なんかじゃやはり同じ先のとんがった桃が描かれていて、日本でも昔はとんがっていたのだろうか。 )

 
 翌日の早朝、同室の日本人蘭州に発つ。
 朝食代わりに、東大街を途中から南に下る莫家街にある《 新業小吃 》のあんまん( 豆沙包子 )を一籠( 5個=1・5元 )食べる。適度の甘さでうまい。ここは甘味屋で、
ぜんざい( 紅豆羹 )0.8元、今では日本でも有名になった湯元1.3元( 白ごまや何かの入った餡 )なんかがある。
 水井巷で先の尖った桃を買う。4個=1・2元。西遊記の挿絵に出てくるような奴で、日本じゃまずお目にかかれない種類なので頻(よ)く食べた。味は日本の桃と変わらない。

 夕方、朝から降っていた雨があがったので、夕食後、南大街から南山路を西側へ南川河方面に向かい《 南禅寺 》を訪れた。
 少し高台にある泥煉瓦造りの寺院。
 かつての僧院らしき建物には民間人が入り民家として使われているようだった。建物はかなり朽ちた感じで装飾が独特なカラフルさのチベット系寺院。明代に創建され、清代に現在の形の粗景が作られたという。本堂らしき建物には真新しい黄金の仏陀像や観音像が安置してあり、信者たちが線香をあげ、燈明に火を点じたりしていた。そこの住職らしき坊主が茶色の法衣=袈裟をまとって経をあげていた。了(おわ)ってその法衣を脱ぐと、その下は何と青い工人服であった。ふと見ると、もう一人、ぼくを本堂に呼び寄せた若い方の坊主がいつの間にやら黒い法衣をまとい、長椅子に坐って流行の電子ゲームに興じていた。
 それにしてもここからの景観は良く、少し晴れた空の下、西寧の街の周囲の黄色の山々がずらり見渡せた。

 部屋の三つ空いていたベッドに皆真新しいリュックが置いてあった。ドイツ系の青年たちで、面白いことに、坊主頭、普通の短髪、長髪の絵に描いたような髪型の三人組だった。

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 ( 北山寺の新築か改築された堂の屋根の上。黒装束の道士の姿も。 クリック拡大 )


 八月十九日。
 今日も天候良く、前々から登ってみようと思って悪天候のためなかなか実行できなかった《 北山寺 》へ向かう。 北山の山頂近くに建てられた青海省で一番古い寺院で、北魏の頃創建されたという。
 天然断層の断崖を東西に抉って桟道回廊が伸び、洞壁に華麗な装飾や仏像群が網羅され《 西平莫高窟 》とも呼ばれているらしい。後代、道教寺院=道観となって今日に至っているようだけど、文化大革命の頃に破損でもしたのだろうか、ぼくが訪れた時は、真新しい( あるいは再建か大幅修復であろうか )堂が多く、ちょうどある堂の棟上げ式のようなものが催されていた。頭髪を頭頂で丸め大きな簪( かんざし )を一本真横に刺した、この道観の主宰者と覚しき黒衣をまとった長身の顎髭の中年男が、屋根の上から、真下に待っている信者や観光客、大工たちにアメやピーナッツを投げていた。その後、更にその上にある建物の門からも、今度は紙幣も含めて撒( ま )きはじめた。昨今は殆ど見られなくなったようだが以前の日本と同様の棟上げ式の光景は微笑ましいものであった。

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 ( 土産物屋の居間 祖先を祀った棚 調度やレイアウトが気に入って撮らさせて貰った。親爺さんは渋ったけど、嫁さんが愛想良く許してくれた。 クリック拡大 )


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