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2014年10月25日 (土)

大正テロリスト・中浜鉄( ギロチン社 )  2  

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 秋山清の生まれ育った小さな漁村・今津の隣村、柄杓田( 漁村 )のそれなりの名望家の息子として1898年(明治31年)に生まれた。秋山より六歳年上。
 只、中学は旧制・豊津中学とも豊浦中学ともいわれ、定かでない。豊津中学は北九州市外の南に位置する京都(みやこ)町、かたや秋山清著《 ニヒルとテロル 》に記されている豊浦中学は関門海峡を渡った対岸の下関市の城下町・長府。
 「豊」という文字で共通しているのでどちらかが読み間違いか誤植を鵜呑みにしたのだろうが、共に元は小倉藩、長州藩の藩校で、現在も高校として存在しているらしい。関門海峡を挟んで互いに長年にらみ合ってきた経緯もあって、何処でどう間違ってその二校が大正テロリスト・中浜鉄の在籍した中学として浮上したのか苦笑を禁じ得ない。おまけに、豊津って調べてみると、幕末の譜代・小倉藩«外様・長州藩の所謂《 長倉戦争 》で幕府軍の遁走もあって居城の小倉城まで焼いて山奥を敗走していった先で、やがて維新直後、正式に小倉藩庁を置いたのがその豊津ってことらしい。何とも因縁深い。


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 その上、小倉( 門司 )・長州がらみでもう一つ、これも関東大震災の余波の一つでもある大正12年(1923年)12月の摂政宮ヒロヒトを狙撃し失敗した《 虎ノ門事件 》のテロリスト難波大介の出自が長州藩周防( 現・光市 )の名家で帝国議会代議士の四男、当の中浜鉄も《 ギロチン社 》で病的と当時噂されていた大正天皇を避け、次期天皇の摂政宮・ヒロヒト暗殺を計画していたとされ死刑となった。関門海峡を挟んで、今度は、薩長が擁立した「天皇」を双方から狙い撃つべく、同じ《 関東大震災 虐殺 》=《 摂政宮・ヒロヒト暗殺 》なる論理と意志を抱懐しテロルを企図したって歴史の皮肉。
 因みに、小松隆二の《 ギロチン社のひとびと 》では、地元の豊国中学を中退となっていて、これも「豊」の字。


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  ( 《 黒パン 一輯 》 所載 )


 更にも一つ、これは政治的なものとは些か異なるけど、豊浦中学の後身、豊浦高校卒業生に俳優の細川俊之( 故人 )が居て、彼は吉田喜重・監督《 エロス+虐殺 》(1970年)で主演の大杉栄を演じていて、こじつける訳ではないが、やっぱり因縁めいて見えてしまう。因みに彼は、小倉生まれで、後下関に転居してたという。( 尤も、浜鉄が実際に通ったのが豊浦中学以外だったら意味はないけど )


 中浜鉄は、アナーキスト活動家であったが、同時に詩人でもあった。
 本名は富岡誓だけど、、ペンネームとして中浜鉄=中濱鐵を使っていた。この中浜ってのは、彼の慕っていた祖父が名乗っていた姓らしい。
 彼の《 俺は 》という詩集に彼の出自にかかわるような作品がある。
    

 印度邊にでもありそうな、 柄杓田という南國の寄名な 村の漁夫の伜だ


 明治三十年一月一日といえば、 勿体ないほど歯切れ のいゝ生年月日だが。


 眞實にこりかたまりし父母に 「誓」と符牒つけられしも俺。


 里兒に行ったり 養子にやられたり  三組も父母を変へて育った。


 別れて十年弟いとしも独楽廻し、 紙鳶( しえん=タコ )上げ、手を引き助け合いした。


 語り落つ、ふるさと訛りなつかし、 名告れば隣り村の男よ。


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   ( 《 黒パン 一輯 》 所載 )


 最後の「隣の村の男」って、恐らく秋山清のことではなかろうか。小さな漁村であっても、隣村の秋山清が生まれ育った今津ほど貧くもなかったらしい柄杓田の、それなりに裕福だった中浜の実家は、中浜によれば漁船を何隻も持っている大きな家だったようだ。 中浜自身も子供の頃から見覚えしてその中で育った故に漁師仕事をこなたらしい。又、郵便局を営んでいたという話しも定説。只、その真偽はともかく、中学の頃、家の財政事情に問題が生じたためか中途退学したと中浜自身が語ったという説もあってその辺は明瞭ではない。
 里子・養子に幾度も出されたとあるが、戦前は社会全体がまだ総じて経済的に不安定だったこともあってか、頻(よ)くあったことらしい。家族的紐帯が戦後より強かった( らしい )時代にあって不思議に思えるが、“ 居候 ”と併せて社会的な一種の相互扶助的な処世的術ってところだろう。


 中浜が捕らえられ獄中にある時、同志たちが彼の書いたものを発行してくれた《 祖国と自由 獄月號号 黒パン( 第一輯 )》( 文明批評社 )、77ページの活版刷の小冊子だけど、その中の《 新過去帳覺書 ( 其一 ) 大杉と刺客 》なる小説は当時の空気をよく伝えていて面白く気に入っている。
 あらすじは、大杉栄の生命を狙って福田狂二( 文中、E )の放った刺客・平岩巌( 文中、G )の暗躍とそれを阻止しようとする浜鉄の駆け引き。
 この福田狂二ってあまりよく知らないけど、当時はそれなりに名の知れた社会主義者だった( 昭和初期頃から戦後は右翼としてならしたらしい )らしく、大杉が甘粕たち軍部に殺害された時、マルクス主義者の堺利彦や政治家の吉野作造と共に彼も殺害リストに載っていたという。どういう経緯で福田が大杉の生命を狙うようになったかぼくは知らない。あくまで創作小説で、現実をそのまま活字化したノンフィクションではなかったような指摘を以前何処かで読んだ記憶がある。


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 「 それは、一九二二年八月末日午前九時前後の大阪天王寺公園に於ける公会堂を中心とした四邊の情景である。」
 と文中にあるように、もし成功すれば初めて全国的な労働組合の連合体が結成されることになる《 全国労働組合大会》で、その組織を自由自治・連合的なものにするのか、それとも中央集権的なものにするのか、いわゆるアナ・ボル論争、つまりアナーキスト=マルクス主義者(ボルシェヴィキ)の熾烈な戦いが展開される歴史的エポック。
 当時の新聞にも『 労働組合全国大会は愈愈今三十日午前十時から大阪天王寺公会堂で開催される、之に参加する全国各労働団体は六十有余に及ぶ筈である 警戒頗る厳重 』( 神戸新聞1922・9・30大正11年 )なる見出しが躍っている。又、この福田狂二も曾根崎署に監視下におかれているとある。
 中浜の作品中じゃ八月とあるが、勘違いというより、フィクションであることを示唆しているのだろう。尤も、大会自体は夜八時半頃、警察によって中止・解散させられたようで不成立。


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   ( 岸壁側から見た柄杓田漁村 )
     

 「 三本目のエヤシツプに火を点じた時である。『 T君! Gが至急是非合ひたがつてゐるのですが一寸来てくれませんか? 』
   今まで独りだとばか思つてノウノウしてゐた僕は突然、耳朶で覚えのあるこの澄み切った声を受けたので軽く驚いて振り返ると其処には兼ねて見知り越しの丈高いがN紅顔に微笑を湛えてゐるが緊張した態度で突つてゐる。余りに退屈してゐた際なので僕はこの偶然の変化を快く迎へ軽く大きく点首いて早や無意識に腰を浮かす。」

 
  ゐ=い。点首=點首=うなづく。T=中浜鉄。G=平岩巌。
  エヤシップ=エア・シップ( 明治末発売の高級タバコらしい。最初50本入り缶で発売。後、10本入り紙箱も発売。記憶違いでなけりゃこのエア・シップの空缶を使って古田たちが爆弾を作って爆破させたはず。 )

 
 「 恰も遠くかのインタアナシヨナルに於ける所謂マルクス派とバクウニン派との論拠にその動因が介在して居るのかの如く見受けられた。
   自由連合派に属する自由労働者同盟の補欠代表として応援組合員達と共に我等の旗の下にゐた僕は、余りの喧騒と無為に倦怠を覚重( おぼ )え群れを離れて独り西門近くの樹蔭のベンチに憩つてゐたのである。
  『 何処だね? N君!』
  『 直ぐ其処です 』
  『 G、独りかね 』
  『 否え・・・』
  Nが明かに当惑顔だつたので僕はそれ以上問ふのを止める。二人は並んで黙々と歩を運ぶ。
  新世界は昨夜の歓楽の疲労から未だ目醒めてゐない。道行く人は極く稀れである。而も二人は無意識に四辺に気を配ることを忘れない。僕は会場のことも自分が今歩いてることも全く打ち忘れて解し兼ねるが興味あるGのこの突然の面会希望に対して考へ続けてゐる。」


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   ( 川沿いの民家。漁師の家なのか、塀に漁網らしきものが干してある。小さな川だけど、ハゼの群れや少し大きめの鯉? らしき魚影も覗けていた。)


 「公園から三町足らず、新世界のとあるカフエーのコツク部屋のドアを排してNは僕を導き入れる。家人は未だ寝ているらしい僅かに女の子らしい声が僕等に応じたヾけ ──
  『 だアれ? 』
 『 僕だ 』
 Nが答へる。聞き覚えてるとみえる。
 『 あら、さう ── 』
 直ぐ又もとの静寂に帰る。開業してゐない店の内部はかなりに広いが雑然として此の種の営業の昨夜の有様が鋭く僕の頭を射る。
 閉ざされている窓硝子には線と緋の燃ゆるカアテンが下ろされてゐる。午近い真夏の光線が反射し交差し烈しい興奮の色を挑発してゐる。
 血を吸つた大理石の四角なテエブルの上には宛れも幾つかの円籐椅子が踊り出しさうに逆立ちしてゐる。昨夜から籠もつてゐる飲食物の悪臭が部屋一杯に漂漲( みなぎ )つてゐる。
 而もそんなことには夙(と)つくに惚れ切つてゐるのかのやうに中央のテエブルを囲んで五人の若者が腰を下ろしてゐる。
 それにしても未だ店を開けないのに良くこんな所を見つけて借りたものだ。彼等の大胆さと押しの強さには何時もながら感心させられる。一勢に僕に振り向けた彼等の面上には先刻まで冷然と黙想してゐた沈痛な影がアリ々々と読まれる。
 Eはゐない。Gを中心に左にはHとI右の二人は全く見知らぬ初めての顔である。
  『 やあ 良く来てくれたね、如何かと思つてゐた、待つてゐたのだ、久し振りだね。』 Gはやをら起ち上がつて何時もの如く愛想のいヽ笑顔で僕を迎へたが何故だか不安の色が蒼白くその両眼の底に漂つて射るのを僕は見遁がさない。HもIも平常の冗舌も似ず微かに僕に笑みかけたに過ぎない。初対面の二人の青年は緊張した態度を些しも崩もない。Gと僕とが対向に陣取る様にNが椅子を運んでくれる。」


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 ( 漁協の倉庫がずらり建ち並んでいる。漁具(浮き)にタールを塗ったりしている建物もあった。)


 「 『 何だい ! 僕に要( よう )つていふのは ? 』
 Gは明らかに触れて貰ひ度(た)くないものに触れられたやうに一寸顰めの面をしたが直ぐ打つつけるやうに言ひ放つ ──
  『 君の熱心さは僕も充分知つてゐる。然し、君等が余り主義に忠実になる為めに今日の大会も打つ毀( こわ )しになりはしないかね ? それについて君に相談してみたかつたのさ。余ツ程考へた挙句のことだ。みんなは反対らしいかつたが僕は如何しても君にだけ逢つて打ち明けて見たいのだ。それで来て貰つたわけさ。』
  『 僕の主義主張なんてのが河童の屁みたいなもの位のことは君が一番良く知つてる筈じやないか。それで如何したつてえんだい? 』
 彼等の十二の目は同時に憂ち合ふ。一瞬空中に興奮の波が渦巻く。殊更らに落着きを見せたGが悲痛な声を搾る ──
  『 T ! 君今、僕等は如何しても生かして置けぬ奴を一匹持つているのだ ! 』
  『 それと僕と関係あるといふのか ? 』     
『 有ると云へば有るし、無いと云へば無いようなものだ。』
  『 なアんだ、拙らない。人の生命に係ることをそんな不明瞭な意識で話して貰ひ度くない。僕はそんな曖昧な言葉を聞かされる為に呼ばれたのかい ? 嫌に僕にからんで来る癖に君は少しも打ち明けやうとはしない、僕はもう沢山だ。これ以上聞き度きないやうな気がする。』
 彼等の心裡は動揺めいてゐる。彼等はGと僕とを忙はしく見較べることを続ける。やがてGは四辺を見廻して一息深吸ひ込んでそれを吐き出すやうに直ぐ鋭く低く強い言葉を流す ──
  『 君にはもう判つてる。敵手は大杉の奴だ ! 』
 これは面白くなつて来る。会場なんか如何なつてもかまわないといふ気になつて僕は更めて彼等を見廻す。先刻までGと僕とを等分に凝視めてゐた憎悪に燃ゆる十の目は、今度は十二に増へて僕の鼻ツ柱を睨みつめてゐる。返事次第に依つては君とても同じく容赦はせぬといふ鬼気を含んでゐる。ぼくは話に言ふともなく静かに尋ねる ──  
  『 一体、何奴だい ? 』
『 簡単明さ ! 彼奴( あいつ )が可厭( いや )にバクウニン気取つて振舞つてゐるからさ !』
 今まで黙まりこくつてゐたHが初めて独声を吐き出す。
  『 ほうするとマルクスやエンゲルス気取つてゐる連中も蠢いてる訳になるね ? 』  」


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  ( バス停前の民家の石垣。ここから柄杓田漁港までゆっくり下ってゆくことになる。)

  「 Wが階段を上ると又バタバタと影の如く彼の後を追ふ可厭な足音が聞こえてくる。
 二分、三分、五分、僕の周囲にも犬が附いたり離れたりする。然し、いくら四ツ足でも便所の臭い石段の上には僕の様に永く突つ立つてゐる熱心さがない。彼等は遠見を張つてゐる。
 軽装した大杉が裕々とした足調で下りて来る直ぐ後からバタバタバタバタバタバタ。最後の階段でそれ等の音が止まる。
 両人は臭い石段の上で股を拡げたまヽ私( ひそ )やかに話し続ける ──
  『 聞いた。面黒いね。やらせて見やうぢゃないか? 其奴( そいつ )等に ──』
  『 うん ! もうやる意志はないね。然し逢ふかい? 』」 
『 逢はなきや如何するつていつてるんだい? まあ抛(ほ)つといてやらして見るん ! ね。』
『 如何も斯うもないさ。もう気抜けしてるらしいが、まあ、気を附けてゐるがいヽ。』
『 此方はこれから面白くなるんだから外すわけには行かんさ。抛つとくより仕方ないね。』
『 それでは何時会ふ? 』
  『 どうせ東京に帰つてからのこつさ。多分今晩帰ることになるだらう。』


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 ( 静かな漁村の密集した民家の露地裏。昼尚森閑として強い陽射しがシュールですらある。)

 Wは大杉栄の主催する《 労働運動社 》の構成員・和田久太郎。大杉と共にこの大会のために来阪していた。浜鉄に福田狂二に指嗾( しそう )されて平岩巌が大杉殺害を企んでいたが撤回し大杉と一度会いたい旨伝えられた和田が大杉に伝えに向かって後の会場のトイレでの一コマ。アンモニア臭漂う男子用小便器の上に跨ったままの展開、ふとトイレの外を窺うと尾行たちの姿がチラチラと蠢いている様はユーモラスですらある。
 ここでは省いたが、平岩の配下の血気盛んな青年たち、中にはポケットにブローニング拳銃すら隠し持ちじっと浜鉄に狙いをつける者すら居て、そのやりとりはスリリング。如何にも映画好きな浜鉄らしい演出というのか、それとも実際にそんな状況であったのか。浜鉄たち自身、大企業の幹部のところにリャク( 運動費用捻出のために、企業から様々な口実の下に金品を脅し取る略奪行為 )に赴く際には上着のポケットにブローニングの一丁くらい隠し持って、場合にはこれ見よがしに翳してみせたりしたようだ。後日、再び大阪の地を踏んだ浜鉄は、そのリャクで逮捕されてしまった。甘粕たちに虐殺された大杉たちや主義者たち、朝鮮・中国人たちの仇をとるための資金獲得の一環として謀ったのであったが。
 大杉の言葉として『 面黒いね 』とあるけど、これは無論「 面白いね 」の些か稚戯めいたアナーキスト的ボキャブラリーで、アナーキスト=黒旗って訳で、面“黒”って訳。
尤も、これは一種の遊び言葉として、主義に関係なく使われることも戦後はあるようだ。


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  「 僕は今、彼( 大杉栄 )を中心として巻き起こされた往事の生々しい血みどろの種々の形相を、此の独房の灰色の壁に面して繰り拡げ、ジツと凝視めてゐる。
  彼の愛嬌ある吃音と笑声。
  彼の底深い不屈の眼光に接してゐる。
 果然 ! フイルムは大映しに化ける ──
  彼の運動上の女房役で、此の早春、市ヶ谷の獄舎に吐血して彼の跡を追ふた源次朗村木が、何時も変わらぬ力強い沈黙と限りない優情とをその青白い双頬に浮かべて現れる。
  又、村木と殆んど日を前後して、巣鴨の獄裡に自ら縊つた僕の旅友、酒友、詩友であつた謙太郎後藤の前後数回に渉る入獄の所産、牢人色の歪んだ顔面に物凄く黒い笑みが漂ふ。
  スクリーンは廻る───
  その不屈の信念に於て、その至烈な熱情に於て、革命的権化とも見られた僕の誓友、平兵衛高尾が社会戦線に斃れた刹那の尊い閃光が今鋭く僕の頭を射る。
  最後に無限の悲哀と法悦とを抱いて、軽井沢へ死の旅に上る前日、虚無の消極を嘆きその積極を羨み、遂に僕と袂を別つた永遠の知己、武郎有島の深切懇篤な愛の泉が今、滾々と僕の胸に満ち沸り迸る。
  何といふ沈痛な快感だ ! 
  何といふ深刻な舞踏だ ! 
  彼等は決して死人ではゐない ! 
  彼等は決して亡びはしない !  
  今尚、遠地近地に活躍してゐる ! 
  今後は愈々深く力闘することであらう ! 
  噫 ! 
  大杉は決して亡んではゐないのだ ! 
         
                 三年前の今月今夜を追想して
                      ── 一九二五八三一 ── 」

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 奇しくも関門海峡の片側、門司の本州・四国側、周防灘に面した二つの小さな漁村に、それなりに有名なアナーキストが二人生まれ育ったってのは、何か因縁めいて面白い。それも隣合った漁村。秋山は直接行動というより言論・文芸方面で活躍し、中浜鉄は直接行動・テロリズムで勇名を馳せ、且つ言論・文芸方面でもそれなりに名を残した。おまけに遠戚関係ってのが笑わせる。
 門司といえば小倉藩の地領、幕藩体制よりもっと以前は、むしろ門司氏の地領(=企救半島全体)の内に小倉城近辺までが含まれていたので逆って訳だけど、幕藩三百年譜代下にあってはやはり封建主義的保守であったろう。対岸の長州は維新派の急先鋒であってみても実質は負けず劣らずの封建主義的保守。それは明治維新政府を一目見れば明らか。方便としての天皇をいつの間にか新しい四民平等社会の上に恭しく戴いたままの札付き封建主義体制の再生産。

 田野浦なら長州軍に焼き払われ強奪されて恨み骨髄ってのも端的に過ぎるけど、ちょっと離れた今津・柄杓田じゃ焼き討ちにあって殆ど焼失って話し余り聞かないので、何処から反骨の、あるいは反権力的な心性を醸成することとなったのであろうか。尤もこの二つの漁村がそんな精神や感性に満ちているって訳では毛頭ない。実際は保守的で閉鎖的なこの国の何処にでもある普通の共同体でしかなかろう。
 それでも、この辺り、平家の落人の集落なんか点々としていそうで、その流れで反中央的な血脈ってものもありえるのかも知れない。そう考えてくると、話としては確かに面白くなってくるけれど。柄杓田に関しては、源平合戦の頃の瀬戸内の海賊・塩飽水軍の落人という説もあるらしい。

 尚、《 大杉と刺客 》、大正時代の文章なので当時の雰囲気を毀さないように現代仮名づかいは極力避けたが、オリジナルは縦書きで、使われているリフレイン記号の横書き用が見つからず、現在のワープロ・ソフトで使用されている記号で間に合わせる他なかったのは残念。“い=ゐ”や“う=ふ”は問題ないと思ったのでそのままにしておいた。

《 祖国と自由 獄月號号 黒パン( 第一輯 )》( 文明批評社 )
                          大正14年12月20日発行

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