光溢れる廃墟群( 平成末的静謐 ): 門司港
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小さな山々と海岸線の間の狭い平地に蝟集してできた眠くなるような小都市=門司港と決めつけていたら、思いもしなかった無惨に暫し唖然として言葉を失ってしまった。
そしてそれが行く場所、行く場所、続々と連なっているのを眼の当たりにし、ある種の諦念とともに、余りに青々と拡がった空の下、遙か遠い郷愁・憧憬の念をすら覚えてしまった。
以前は連なる民家の中にポツン、ポツンと点在としての廃屋・廃墟だったはずが、気がつくと、ずらり佇む廃墟群の只中に、ポツリと、両の眼を凝らしてでないと見分けがつかない曖昧さの辛うじてまだ住民の息吹が窺える棲処(すみか)が伏在するといったいよいよ深化してゆく末期資本主義的景観が拡がっていた。勿論現在的には未だある特定の地域だけど、やがてそれが街中の奥まった場所や山裾・丘陵などの生活に不便な界隈から、全面的な地方的景観へと結末してゆく底なしの予兆すら覚えさせる。一極集中、つまり地方収奪の論理的帰結。最近じゃそれを逆読みして《 アベノミクス 》と呼ぶらしい。
そんなあるちょっと高台の斜面に蝟集したずらり並んだ朽ち果てた廃墟群の只中、急峻な石段の上にしゃがみ込んでいると、脇の狭く仄暗い細路から一人の少年が現れた。脇にサッカー・ボールを抱え。てっきり廃墟ばかりと思い込んでいた陋屋の連なりの奥に、そういえば生活の痕跡が窺えられないこともない落魄した民家が一軒昼尚薄く陰った細路の奥に佇んでいた。すっかり人気の失せた一角、思わず人を惑わす魑魅魍魎の類かと決めつけたくなった。いまだあの世へ昇れず迷い続ける亡霊の類か・・・軽やかな足どりで、僕の傍を、トン、トンと長い石段を下っていった。
一昔前なら、こんな薄がりには紅い毬の少女と相場が決まっていたのが、女性上位といわれる時代になって久しく少女的怨念も希薄化したのかサッカー・ボールを小脇に抱えた少年へと変貌しまったようだ。
否、寒空のはずが、燦々とそそぐ陽光にすべてが明るく透明に照らし出され、両側にそそり建つ民家も明々と板壁のくすみの一つ一つを暴かれ、頭上には青々とした空が澄み渡っていた。対称的に細路や建物の陰が一層陰ってしまう。そんな束の間の小春日和の最中の出来事であった。
連綿と続いてきた人々の営み。
それが結果、抜けるような青空の下の閑寂の廃墟群。
その仄暗い細路から現れ出た少年すらその影の希薄さに猜疑の眼が向けられてしまう。
すぐ向こうに海峡を渡る巨大な鉄橋が望めるまた別の高台・・・一本の道路を中心に、一昔前の作りの大抵広さまちまちの庭が備わった邸宅って趣きの家々がのんびりと両側に連なっていた。が、一歩その家の前に到ると、そのほとんどが空屋。あっちこっち朽ち始め、背後の藪から伸びてきた蔦類が縦横に絡まり、庭先の雑草や植木の枝が鬱蒼と繁茂するばかり。真冬の青空の下、すべてを蔽い尽くさんとその触手を伸ばし続ける植物群の緑がまばゆく映え、シュールなくらいに静謐さに包まれていた。対岸の町の奥まった一角の朽ち落ちた残骸・廃墟群が呈していたものとは又些か相違した別様の佇まい。
透明な大気と陽光に照らし出された無惨。
こんな無惨の只中でサッカーボールを手にした少年は、少年・少女たちはどうやって生きていくことになるのだろう。
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