アベノミクス的惨澹にも春爛漫
廃墟にも春爛漫・・・この象徴的なコントラストに、すぐに想起されたのが梶井基次郎の、世相が次第に閉鎖的になりはじめた昭和初期1928年( 昭和3年 )の作品《 桜の樹の下には 》。
「 桜の樹の下には屍体が埋まっている!
( ・・・・・・ )
いったいどんな樹の花でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。
( ・・・・・・ )
おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。
馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の根は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚(あつ)めて、その液体を吸っている。 」
「 春三月 縊り残され 花に舞う 」
大正時代を代表する社会主義者・無政府主義者の大杉栄の有名な一句。
明治四十四年( 1911年 )1月24・25日、《 大逆事件 》で幸徳秋水等12名が死刑に処され、所謂“ 冬の時代 ”が始まった同年3月24日、神楽坂倶楽部において、事件当時獄中にあって冤罪を免れた大杉栄や堺利彦たちが集って《 同志茶話会 》が開かれた。その席上で大杉が読んだ苦渋の一擲(いってき)。
中国(清)の義和団事件の際、欧米列強に互した当時の日本軍が、中国の馬蹄銀を着服したことを、幸徳秋水が当時の有名紙《 萬朝報 》で告発したいわゆる《 馬蹄銀事件 》で、時の長州閥権力の巨魁・山県有朋等に逆恨みされ、それが伏線となって《 大逆事件 》をでっち上げられたともいわれている。
“ 清廉潔白な日本軍 ”って当時の明治政府が造り出した偶像的イメージの虚偽を幸徳が暴いてみせたのだけど、昨今、似たような官民あげての翼賛的フレーズのあれこれ氾濫したこの列島にあって、百年の時代をこえて尚も、権力の悪辣と恣意に対する一つの警鐘となっている。
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