大正・昭和モノクロ的青春残酷物語 : 放浪記(1962年)

これまで観ようと思ってなかなか観れなかった監督・成瀬巳喜男&高峰秀子の《 放浪記 》(林芙美子・原作)、ようやくyou tubeで観れた。
成瀬・高峰コンビといえば、同じ林芙美子の《 稲妻 》(1952年)や《 浮雲 》(1955年)が有名だしボクも気に入った作品だけど、他にもまだ林芙美子原作の《妻》(1953年)、《晩菊》(1954年)等があるようだ。成瀬+林芙美子に《 めし 》もあるが、これは主演が先だって亡くなった原節子。
この《 放浪記 》、てっきりこの成瀬の作品だけと思ってたら、既に戦前の1935年にPCLで監督・木村荘十二と夏川静江のコンビで作られていて、戦後1954年にも監督・久松静児と角梨枝子のコンビの東映作品があったという。


モノクロの成瀬世界・・・観はじめてすぐに気づいたのは、主演の高峰秀子、随分と役を作ってて、顔の造作って云っていいくらいに表情を作ってるってことだった。よく作者の林芙美子にクレームをつけられなかったものだと感心してしまった。尤も、この頃芙美子はとっくに他界していたけど。
恐らく、整った風貌のままの高峰じゃ、幾ら演じたところで、芙美子の居直ったような破天荒さを出せないと案じての造作だったのだろう。
けれど、美貌の高峰の、両眉の下がった竹久夢二の描く女たちにも似た気怠さを漂わせた造作ってニュアンスもあったとしても、観客達は、生理的と云ってもいいくらいの感覚的な違和感を覚えてしまったに違いない。何よりも観客は、美貌のヒロイン=高峰秀子、あるいはいつもの高峰を観たかったのだろうから。
で、案の定、当時、それが故にか、余り興行成績は芳しくなかったようだ。
無論、興行成績と作品の質・魅力は別なのは言を待たないが。
森光子の劇場版《 放浪記 》の方は超ロング・ラン作品で有名で、昨年その後を受けての仲間由紀恵の舞台《 放浪記 》の方は、どうも高峰と同様、美貌女優ってところで、評判今ひとつだったらしい。まだ若い仲間由紀恵のすらりとしたあの肢体と容貌で、森光子と同様なそのままの演出と役作りしてたんじゃ、確かに懸隔があり過ぎて、違和感ハンパ無いって奴だろう。
つまり、高峰が、スクリーン上で極端に作った芙美子じゃなく、普段のままの高峰の相貌で演じたとしても、やっぱし、観客は、違和感を覚えてしまったに違いない。
勿論、作者・林芙美子の実貌に拘る必要もない。けど、《 放浪記 》の面白さ・魅力って作者・林芙美子のキャラクターと不可分なのだからってところでややこしくなってくる。美形女優にはやっかいな役なのかも知れない。

冒頭の、町外れの街道をまだ幼い芙美子と行商の両親三人がトボトボ歩く姿は、ふと高峰三枝子主演の《按摩と女》(監督・清水宏)や、少し毛色は異なるが韓国・パンソリの旅芸人親子の遍歴記《西便制ソピョンジェ》( 監督・林 權澤)を想起させる。
林芙美子の放浪人生の源点なのだろう。
さいはての駅に下り立ち
雪あかり
さびしき町にあゆみ入りにき
雪が降っている。私はこの啄木の歌を偶(ふ)っと思い浮かべながら、郷愁のようなものを感じていた。
林芙美子《 放浪記 》(新潮文庫)

戦後の作品だけど、戦前の場合によっては明治・大正の頃のものも混じっていたろう行く先々の町の佇まいがモノクロ的陰影に映え、やがて成長した芙美子=高峰秀子の登場となる。ベテランの加東大介に、当時新進気鋭の仲谷昇、宝田明。後者の二人の若い時の演技って初めてお目にかかった。
確かに若々しい。
仲谷・宝田ともに喰えない文人で、芙美子がミルク・ホールの女給をしながら支えてやってたのが、結局ウザがられ捨てられてしまうってお決まり。後年チャラいイメージの強かった宝田明も、うだつの上がらぬ作家然とした鬱屈した演技で悪くはない。
平成の現在でも、似たり寄ったりの泡沫的あるいは青春残酷物語的カップルは無数に居て葛藤・愛惜悲惨を繰り返し続けているのだろう。


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