馴致的現象論 「ペルーの異端審問」

「さて、悪魔とルイス・ロペスの双方が挿入した薄紅色の開口部」を入念に調査すべく、聖職者らは被告の恥毛を剃りあげたというのだが、・・・・・・男と悪魔のペニスにどの程度の違いがあるか? 悪魔の一物がうろこに覆われ黒光りしているのは本当か? あるいは通説どおりに、その精液は血にまみれた緑色をしているのか?
硫酸と魚の臭気が漂う精液で舌が焼けはしなかったのだろうか?」
1572年、ペルー=リマの異端審問所は、“強大な悪魔に憑かれ”、“5人の聖職者に自分と寝るように求めた”かどで、マリア・ピサロを起訴した。
神学的想像力のおもいったけを駆使しての牽強付会的審問の連綿、正に彼らこそが悪魔。
彼女と関わった神父の一人が<悪魔と契約を交わした>罪で火あぶりに、他の神父らは修道院の独房に幽閉、マリア・ピサロは異端審問所の地下牢に放り込まれ翌年死亡。
キリスト坊主らの頽落の果ての処分は同じ利益共同体的決着に過ぎないのだろうけど、もろキリスト教的共同幻想に憑かれた病的被害者の哀れさ。
そんなペルーの数世紀にわたる厖大な症候群的記録・説話の中から幾編かを選りすぐったこのフェルナンド・イワサキの《ペルーの異端審問》、ちょっと前に吹き荒れた、教皇フジモリの異端・悪魔狩りと合わせてみると興味深い。
ぼくは、ペルーに限らず南米におけるスペイン軍=キリスト教の侵略・征服(史)を見るとき、以降の南米の人々の有り様に、常に「馴致」という屈辱的屈従史が行間に絵図の間に鬱々として見えて仕方ない。
キリストって、彼らの神じゃなかったはず、彼らを弾圧し彼らの国と社会を滅ぼした神、彼らの家族・一族を犯し略奪し殺戮の巷と化した征服者らの神でしかないのにもかかわらず、すっかり血塗られたキリストの信奉者となってむしろ嬉々としているのを見るにつけ。
それは一体いかなる精神的作用・変転なのだろうか?
征服者・権力者らの、支配・統治の技術論ってとこなんだろうか?
「ペルーの異端審問」フェルナンド・イワサキ 翻訳・八重樫克彦・由貴子 (新評論)
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