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2017年4月24日 (月)

《 青い衣の女 》 バチカン的面目 : コンキスタドール=CIA・MI6

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  「 深い霧に入った途端、気がついたら何百キロも離れた場所に着いていた・・・」


 作者ハビエル・シエラの分身と目されるスペインの神秘主義・超常現象専門雑誌《 ミステリオス 》の記者・カルロスと相棒のカメラマン・チェマが、以前追っていた不可思議な事件――いわゆるテレポーテーション(瞬間移動)。以前観たリチャード・ギア主演の《 プロフェシー 》(2002年)での同じ光景を想い出した。気づいたら、物理的に不可能な長距離を短時間で移動していたのだ。その着いた先が、ウエストバージニア州ポイント・プレザントだった。モスマンと地元で呼ばれる不吉な異生物が絡んできて、数十人の死者を出す橋梁崩壊事件にまで話が及んだ実話を元にしたミステリアスな佳作的小品ホラー映画のプロローグだったか。
 テレポーテーションを題材にした映画って結構ある。
 だけど、現代ばかりじゃなく、随分と昔からこの手の超常現象って人口に膾炙していたようだ。
 

 前回紹介したシエラの《 失われた天使 》(2011年)は、天使の末裔が故郷たる宇宙の果へ戻ってゆく帰還譚だったけど、今回の1998年(2008年改訂版)作品《 青い衣の女 》もやはり天使の末裔が登場する。シエラ、天使と異端審問官がよほど好きなようだ。彼にとって、キリスト教・カトリック世界の正に象徴的存在なのだろう。
 今回も、彼の十八番たるいわゆる“超常現象世界”的面目躍如ってところで、テレポーテーション(瞬間移動)=バイロケーション(同時複数的併存)を媒介にして、近世のバチカン・コンキスタドール(スペイン)、現代のバチカン・CIA(米国権力)の陰謀術数世界を紡ぎ出してゆく。
 

 「 昔の人々は和声を理解し、それを厳密に音楽に応用していただけでなく、それが意識の状態をも変化させ、聖職者や古の奥義を授けられた者たちを現実世界よりも高い領域に触れさせる術も知っていた。・・・・・・古代の賢人たちは、精神の波長を適切なレベルに合わせて“あの世”からのメッセージを受け取っていた。その状態なら、魔術師や神秘家たちはいかなる過去の瞬間をもよみがえらせることができる。言い換えれば、音楽によって脳波の振動数を調整することで、知覚の中枢部分を刺激し、時間を旅することが可能になる。」


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 教会音楽などの“先多声音楽”(プレ・ポリュフォニー)に始原を持ち、バチカンで極秘裏に開発されてきた“クオンタム・アクセス”技術、その結晶としての《 クロノバイザー 》。
 ネットじゃ、《 クロノバイザー 》=“タイム・マシーン”なんて派手なキャッチ・コピーが冠されているけど、実際はどうなんだろう。本当にCIAや英国のMI6やなんかと絡んでいたとなると、随分と焦臭くなってくる。
 そもそもCIAやMI6の連中が、それに不可欠と思われる矜持なんて持ち合わせているだろうか。
 素人でもすぐ既存の様々な陰謀・事件なんかが思い浮かぶはず。
 過去や未来のあるいは進行形の、そもそも彼等の関与が疑われていた事件や都合の悪い事件を、文章を校正し修正するように、自分たちの都合の良いように、修正・改変し、歴史の歪曲=偽造が、場合によっては実に簡単にできたりもするのだから。
 もし、この種の、例えばいわゆる“マインド・コントロール兵器=電磁波兵器”(ひょっとしてまさか同じもの?)なんかを含めて、実際に存在し使われていたとすると、もうとっくに歴史の改変・偽造は為されてきていたってことになりかねない。時代はとっくに、絵に描いたように《1984》世界の真っ直中って訳だ。

 
 そんな科学の粋、その実何とも胡散臭いバチカンの影の結晶=《 クロノバイザー 》的現代と、“先多声音楽”(プレ・ポリュフォニー)から発展したその源基形態=バイロケーション(=テレポーテーション)が頻用(?)されていた遙か近世のコンキスタドール世界(=メキシコ)を、同時進行的に物語は展開してゆく。複数の登場人物・事件の同時進行も含めての、小説・映画における流行の手法であり、シエラの得意の方法でもある。( まさか、シエラ、《 クロノバイザー 》=バイロケーションという主題に合わせて、この手法を採ったのじゃあるまい。) 
 
 コンキスタドールに滅ぼされた後のアステカ(メキシコ)では、当然にキリスト教ローマ・カトリックが権勢を揮うことになり、その宗教的版図を全土に及ばさんと精力的展開していたのだけど、驚いたことに、コンキスタドール的悪辣と暴虐によるのではない、むしろ自発的改宗によってキリスト教化された地域が存在したという。
 恐らくは歴史的事実ではあるのだろうが、それを《 青い衣の聖女 》、生涯スペインから出たこともないマリア・ヘスス・デ・アグレダ( 後に、彼女以外にも何人も存在していたという展開になる )の神秘的霊力(バイロケーション)的布教によるものとして仮構したのは、歴史の間隙を縫うというよりも、如何にも風に当を得たものかも知れない。
 集団帰依=改宗っ訳だけど、実際には、バチカン認定のアステカにおけるキリスト教宣教開始年代以前に、ひょっとしてコロンブス以前のもっと旧い時代にキリスト宣教やそれに類する活動・影響が存在していた可能性も、この物語の中でもちょっと触れられているけど、例えば日本における仏教伝播などと同様十分にあり得たろう。
 そして、現在じゃ、メキシコの9割以上の人々がキリスト教徒となっている押しも押されぬキリスト教(徒)国家となってしまって、これは、この物語のシナリオ的解釈からすると、霊能力修道女たちまでも駆使したバチカン=ローマ・カトリックの周到さの勝利と謂うべきなのだろうか。

 
  《 青い衣の女 》 ハビエル・シエラ 訳=八重樫克彦・由貴子(ナチュラル・スピリット)

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