旅先の現地本

海外を旅していると、ついその国の文化、とりわけ音楽出版物なんかについ惹かれてしまう。
最初の頃だとカセット・テープがまだ大陸や東南アジアで余命を保っていた頃で、それでも中国・最南部の雲南省の小さな町、たとえば大理なんかの間口の狭い小さなカセット屋の店先にも段ボールに放り込まれた音楽CDや愛国戦争物VCD(低画質のビデオCD)等が売られ、感心したものだった。タイのバンコクで、VCD専門プレーヤーを見つけたのもその少し後だったか。DVDは、まだ、ワンランク上の高嶺ってあつかいだった。
例によって、バンコクのお手軽ソフトの殿堂MBKマーブンクロンでも、オリジナル・カセット・テープからCD、ゲームCDまでコピーし売りまくっていた。時折、あの二百万本売れたといわれるボー(スニター・リティックル)のデビューアルバムも、二回店舗を変えて買ってみても音の全く出ないブランクを渡されるようなこともあったけど。

けれど、印刷出版物も、やはり、異国情緒そのままなので、文字が分からぬままでも、つい、どんなものか手にしてしまう。そんな中でも、バンコクはアジア旅の基点として頻繁に行き来し、本屋や書籍コーナーに通う回数も多かった。タイ文字が珍しくて、とりわけ詩の本(大抵は薄い冊子型。サイズは色々小さなものも多かった。)は、挿絵なんかが入っていたりして視覚的に興味を惹いた。
またタイは元々映画量産国の一つでもあって、映画コンプレックスもあっちこっちにあり、TTゲストハウスに常備の英語新聞[ バンコク・ポスト ]でチェックしたりしてサイアム周辺の映画コンプレックスに日本より三カ月~半年早い封切りの洋画やタイ映画を観に通った。
タイは隣国カンボジアと同様、今でも霊媒師や霊能者たちが活躍している土俗的オカルティズムの跋扈する社会で、ホラー映画が断然人気があったようだ。そんなホラー・オカルト映画にも、時代の要請で、新しい波がおこり、その金字塔的作品が、ノンシィー・ニミブット監督のタイの伝説的ホラーの映画化[ ナン・ナ―ク ](1999年)だった。空前のヒットだったらしいが、同様に二年後の十六世紀アユタヤを舞台にした宮廷王権争奪物語たるチャートリー・チャルーム監督[ スリヨタイ ](2001年)も大ヒット。この[ スリヨタイ ]のDVD持ってるけど、劇場じゃ三時間だったのが、DVDセットじゃ、三枚組で五時間という長時間物で観終わるのに一苦労。
そんな映画関係の出版物も増えて来たのか、[ ナン・ナ―ク ]や[ スリヨタイ ]なんてビッグ・ヒット作に関する気の利いた出版物も店頭に並ぶようになって、[ ナン・ナ―ク ]はモノクロだけど[ スリヨタイ ]は国策映画でもあるからかカラー写真口絵が豊富。でも、映画自体[ ナン・ナ―ク ]の方が気に入ってるのもあるが、作り的にも二百ページもある[ ナン・ナ―ク ]の方がやる気まんまん、映画全体の流れを項目立てて懇切丁寧に作ってて好感が持てる。両方とも定価は130バーツ前後。

1992年に三十才で亡くなったタイのルークトゥンの歌姫プンプアン・ドゥアンチャンに関する本。
[ 去っていったドゥアンチャン ]185バーツ。B5版より一回り小さなサイズだけど三百ページ以上あって読み応えありそう。タイ語辞典片手じゃちょっとしんどそうなので未だ手付かず。
ルークトゥンって余り聴かないけど、プンプアンは嫌いじゃない。

どこで買ったのか、「上海戸籍出版社」とあるので、恐らく上海の福州路のその店で買ったのだろう。
この辺りは確か古書店が並んでいた記憶があるけど、現在はどうだろう。最初の頃は、地方から出稼ぎやって来た小姐たちが大して広くもない店の中に何人も居て、昼飯なんかそこら辺に座り込み、ホーロー製の丼や大コップに盛ったぶっかけ風を箸でかき込んでいたのが印象的だったけど、時代が経過するにつれて、小奇麗な店員然としてきてそんな"人民"風味的服務員なんかすっかり姿を消してしまった。
昔の印刷物のままの写植印刷・・・まさか板版画で刷ったものじゃあるまい。組活字じゃ難し過ぎよう。
[ 老子 ]上下巻が原文のまま(?)で、勿論解説文などなく、本文のみ。1.6元は安いのかむしろ高いのか。
道可道非常道名可名非常名・・・

イランの首都テヘランの本屋で見つけた冊子型の書籍で、いかにも中国趣味的異国情緒感を醸し出した表紙が好い。
老舎[ 茶館 ]1957年
中華民国成立前後の長い時代的変遷を見続け又翻弄されてきた北京の老舗茶館の物語。
戯曲として発表された時から文化大革命の終息するまで、中国国内ではさまざまな難題難儀をこうむってきた典型的作品。老舎自身も文革中に、紅衛兵たちに殺害されたとか、入水自殺したとか死因も定かならぬまま死亡。開高健の[ 玉、散る ]でも有名。
イラン=ペルシャと中国とは、随分と古くから往来し因縁浅からぬ関係にあるのだろうから、互いにどんな意識と感情を持っているのか興味あるところだ。
漢字茶館の下にペルシャ文字で「チャーイ・ハーネ」、つまりチャイ屋=茶館と認めてある。
巻末には、中国の演劇舞台での[ 茶館 ]のモノクロ写真が八ページにも渡って掲示してある。ホメイニーのイスラム革命の初期においては社会主義的要素も強かったらしく、イスラム原理主義体制の中でも問題なく書店の棚に並べられていたのだろう。
当方も、まさかイスラム原理主義の総本山イランのテヘランで老舎の作品が並べられているとは思いもしかったけど、他にフランスの小説家・思想家のカミュの作品もあった。大きなカミュの顔写真が表紙を飾っていた。
その割には、音楽の方は中々厳しかったようだ。
日本の喜太郎のカセット・テープは、器楽演奏だけだからかあっちこっちで見かけた。
イラン映画が世界でそれなりにヒットし、インターネットで簡単に海外の音楽・ニュースが見られるようになった昨今、イラン国内音楽事情は少しは変わったのだろうか。
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