« ハリマオ(谷豊)は南進の輝ける南十字星か ? ( 2 ) | トップページ | 無一物的遁走へ Spectator《 つげ義春 》特集 »

2018年6月23日 (土)

夜闇は死の香りそれとも生の息吹 《 立去った女 》 (フィリピン映画)

The_woman_who_left


 
 最長十一時間の作品もあるというフィリピンの監督ラブ・ディアス、この二年前の作品《 立去った女 》で初めて知ったのだけど、思わせぶりに大型拳銃まで初老の元女教師ホラシアに持たせたりしながの“ 復讐譚 ”のはずが暴力に厭んでいるのか、最後にはスルリと回避し、むしろ“ 平穏 ”を選ばさせてしまう。
 それにしてもこの作品、三時間というより四時間近い長丁場にもかかわらず全その長さを感じさせず、その上タルコフスキー並みにそのモノクローム映像が中々のものだったとしたら、ともかく最後まで一気に観るほかないだろう。

一昔前のフィリピンといえば信じられないくらいのはした金で殺人を請け負う貧民層で溢れた国ってイメージが強く、現在は如何なっているのか定かじゃないけど、この映画の設定はまだまだそんな時代状況の最中ってところ。
 地方ボスが暴力と金で幅を利かせ、同じ頃、タイなんかでもそんな暴力抗争が殺し屋なんかも介在して果てしない状況を作品化した映画も後を絶たず、否どころか、国家権力自体が正にそんな状況を派手に現実化しつづけ、マルコス以降のフィリピンも同様だったのだろう。同じスペイン語圏という訳じゃあるまいが、中南米並に誘拐事件の多発なんかが伝えられてもいた。

 詳細は語られないけれど、地方ボスだったかつての恋人ロドリゴが、後にホラシアが別の男と一緒になったのを恨み、ある女を使ってホラシアに殺人犯の汚名を着せ、投獄させてしまった。それから三十年が過ぎ、何の因果でそうなったか同房で起居を共にする羽目に陥ったその冤罪事件の当の殺人犯だった女囚が、長年ホラシアと生活する中でホラシアの人間性に感服し、貧しさからやむなく犯してしまった旨も一緒にロドリゴに頼まれてやらかした事件の顛末を刑務所長に自白してしまい、ホラシアが釈放された日に自殺してしまう。
 唐突に保釈されたホラシア。
 が、彼女は、釈放されたことを、誰にも秘密にしておいてほしいと刑務所長に頼み、自身の家に戻ってみると、不在の間の管理人家族が住み着いているだけで、彼女の夫はとつくに死去し、息子は行方知れず。唯一娘だけが嫁ぎ先で健在。その娘にも彼女の釈放のことを他言無用と厳命する。
 そして、仇敵・ロドリゴの住む島へと向かう。
 小さな食堂を始め、夜な夜なロドリゴの屋敷の近辺の様子から探り始める中で、様々な“虐げられた人々”と遭遇し、関係が深まってゆく。深夜のそんな光景や蠢きがモノクローム世界に繰り広げられてゆく。


 《 タクシー・ドライバー 》(1972年)でロバート・デ・ニーロが演じた主人公・ヴェトナム帰りの元海兵隊員トラビスの有名な所作・場面に相似したシーンも少なくない。
 バロット(アヒルの半孵化卵)売りに拳銃の入手を頼み、連れられて行った先のブローカーのところで、テーブルの上にずらり並べられ黒光りした拳銃・・・これって《 タクシー・ドライバー 》の定番シーン。日本の映画でも汎用されたショットで、さすが自室で半裸になり鏡に向かって拳銃を構えたりはしていなかったものの似たシーンも。
 支持する大統領候補の私設警護官を決め込んだトラビスが、大統領候補の演説会に下見に向い、本物のシークレット・サービスに怪しまれ、ほうほうの態で逃げ出してしまう。そのあたりから明らかにトラビスの心に変容を来たし、錯綜的力学の果てに、ひょんなことから巡り合った少女娼婦アイリスを売春組織から救い出そうと完全武装して一人乗り込んでゆくって些かエキセントリックな慣性的な衝動の軌跡。
 死の匂いをプンプンと漂わせるトラビス。
 当時は病み鬱屈したポスト・ベトナム的状況の米国の象徴として、そして現在の救いようもなく荒廃し鬱屈した日本でも盲目的迷走の秘されたイコンとして。
 しかし、ホラシアも地方ボス・ロドリゴの行きつけの教会に下見にゆき、そこで見つかりそうになって逃げだすのだけど、逃げ戻った部屋で蒼白となって鎮静剤をしこたま呑み込んだりすることなく、闖入ゲイのホランダの傷ついた身体と心を献身的に癒してゆく中で、次第に復讐への意志と情念が薄らいでゆき、ついには復讐を放棄してしまう。
 ところが、入れ替わるように、元々自殺衝動の強かったホランダがホラシアの拳銃を使って、ロドリゴを射殺してしまう皮肉。
 同じ夜の世界が基軸になっていても、トラビスの孤独な魂のゆらぐ夜の闇と、ホラシアの潤んだ夜の闇とは、やはり微妙に違っているようだ。


  監督・脚本・撮影・編集 ラブ・ディアス (2016年)

|

« ハリマオ(谷豊)は南進の輝ける南十字星か ? ( 2 ) | トップページ | 無一物的遁走へ Spectator《 つげ義春 》特集 »

旅行・地域」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事