上海の熱く長い夜 《 不夜城 》
王兵監督の映画《 無言歌 夾辺溝 》( 2010年 )の背景となった初期人民中国=社会主義化における錯綜・迷走・暴虐の反-右派闘争の時代に、やはりその陥穽に脚をとられ滑り落ちてしまった映画作品に、かの《 不夜城 》( 上海江南電影制片庁 )があった。
1957年5月,新しい中国の文芸雑誌《収穫》が創刊された。
作家・巴金と章靳以( チャン・ジンイ― )が編集にあたり、魯迅の《 中国小説的歴史的変遷 》や前年に完成したばかりの老舎の《 茶館 》、そして柯霊( カー・リン )の《 不夜城 》( 初稿は前年の夏に完成してて、この掲載分は改修第二稿 )が掲載された。
柯霊の、中国共産党統戦部・文化部から、当時、革命後の中国に海外に逃亡せずにまだ残っていた資本主義的な企業( いわゆる民族資本 )を、平和裏に社会主義的に改造するためのプロパガンダ的な映画のシナリオを依頼されての執筆であった。
同年、湯暁丹( タン・シャオ・ダン )監督の手によってこの《 不夜城 》が作られる。
上海の繊維印刷会社の経営者家族の、'30年代から中華人民共和国成立を経て'50年代までの紆余曲折・離合集散、そして最後にやっと"公私合営"という初期人民中国的な折衷制に落ち着いた場面で終わる。
当初、上海映画界と共産党中央との肝いりの国外上映をも射程に入れた中国社会主義的成功をぶち上げるための重要な作品で、映画界でもなかなかの好評だったのが、一転、お蔵入りとなってしまった。
その上、翌1958年、突如《不夜城》は資本家を美化した“ 大毒草!”として断罪されてしまう。誰もが唖然とするなか、脚本の柯霊の同僚・巴金すら《不夜城》に対する厳しい批判を上層部から強いられたという。
その後も、度重なる当局の批判と改修を受け、散々に紆余曲折を経、あげくやっぱりお蔵入り。
後、文革の時節に入ると、この映画《不夜城》の故に、柯霊、今度は当局に連行され、上海のかつてのフランス租界時代の監獄である上海思南路( 第二 )看守所に放り込まれ、何年も幽閉されてしまう。その後も、三年間の下放、更にあれこれ計12年の拘束・幽閉の憂き目に遭う。
1967年のある上海独特に蒸し暑い夜、人民広場に引きづり出され、【 徹底批判 反動映画《不夜城》】の題目の下、造反派10万人の怒声とドンジャンと響きわたるラッパや銅鑼の轟音、批判者の罵声の只中で、すっかり“吊るし上げ”慣れしてしまっていた柯霊、眼前の凄絶なる光景を、一人中国的インテリジェンスの定番的所作ともいえる七言絶句につくり、呟いていたという。その時の情景が浮かんでくるようだ。
此真人間不夜城, 広場電炬独天明。
卅年一覚銀壇夢, 贏得千秋唾罵名
一方、監督の湯暁丹も、文革の頃、やっぱりこの《不夜城》と1964年に制作した《 紅日 》を文革派にやり玉に挙げられ、群衆の前で吊るし上げられて、顔や胸を散々殴られたため、その後生涯、後遺症に苦しみ続けることになった。
何しろ、反革命=毒草の代表作としてこの《不夜城》が、江青等文革派によって全国的な批判のモデルとしてやり玉に挙げられていたから堪ったものじゃなかったろう。
そんな文革中の轟々たる非難・論難・暴虐の最中、故・魯迅の夫人=許広平が、柯霊に送った『 ともかく、堪えなさい !』という心底の激励の言葉に、柯霊や関係者達も救われる想いがしたという。
'80年代( 文革後 )に入って、ようやく、公然と上映される運びとなったという。
尚、映画自体は、"《 不夜城 》 ある経営者一家の"解放"的流転史 "で既に紹介済み。
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