100年、あるいは600年の痕跡と消息 ジャンヌ・ダルク (1900年)
YOUTUBEで、初期映画のあれこれを確かめていると、サイレントではあったものの中々に優れモノだったカール・ドライヤー監督のフランス白黒映画 《 裁かるるジャンヌ 》が、1928年(昭和3年)公開作品で、てっきりそれが映画史上最初のジャンヌ・ダルク映画と決め込んでいたら、何と、もっと以前の1900年製作・公開のこの作品《 ジャンヌ・ダルク》 Jeanne d'arc が存在した。
10分ちょっとの短編だけど、監督があのフランス映画初期の立役者G.メリエスで、黎明期らしく単純ではあるものの、色々工夫してて面白い。当然基本白黒だけど、全体に薄い手描き着色カラーを彩している。ドラマチックなカール・ドライヤーとは趣きも異なり、短い時間の中で手短に要所だけを纏めたジャンヌの救国殉教物語ってところ。
ネット見ると、最初の部分がカット、あるいは紛失しているような話もあって、完全版ではないのかも知れない。それでも、時間的には、数分ぐらいだろう。
現行のこのフィルムでは、のっけから少女ジャンヌが生まれ育ったドンレミ村の何処かで、二人の聖女カタリナ、マルガリタ、そして大天使ミカエルを幻視するシーンから始まる。
「 ジャンヌよ、侵略者英国軍を叩き出せ ! 王太子シャルルを戴冠せよ ! 」
との啓示があったらしいが、サイレント映画に付き物の事情説明やセリフを記した字幕が、まだこの黎明初期にはないようで、ひょっとして弁士が解説していたのかも知れない。
そして、現在もドンレミに残っているジャンヌの生家の簡略化された書割が、入口やその上の象嵌も実物に似せて作られ、父親に啓示を訴えるジャンヌ。
この時代、まだ神聖ローマ帝国が存在していて、ドンレミが帰属していたバル公
領は、マース川を挟んで、西側がフランス領で、東側が神聖ローマ帝国領で、ドンレミは西側。何よりも、パリを含むフランス北部は英国侵略軍の占領下にあり、その上、ブルゴーニュ派がシャルル派と敵対し反目し合い、英国側に着いたり離れたり。いよいよ英国占領軍側が、フランス側最後の砦といわれるオルレアンを包囲し、占領も時間の問題となった風前の灯的時勢。
そんな絶対的危機的状況での、神の旗をなびかせた救国英雄・ジャンヌ・ダルクの登場という訳だった。
まだ髪は腰までのびた長髪で、やがてキリストと両側に二人の聖女が描かれた救国護符の旗を手に馬に跨って街を行進してゆく頃には、短いオカッパになっている。女性が馬に跨ること自体が御法度だった封建主義世界ならではの狗肉策なんだろう。
ランスで、フィリップ太子の戴冠式。
戴冠するフィリップの背後に救国護符の旗を掲げ佇むジャンヌ。
フィリップ七世となるのだけれど、権力の座についてしまえばこっちのものとばかり、手のひらを反す様にジャンヌを煙たく思うようになり、ブルゴーニュ公国軍にジャンヌが囚われても知らぬ顔。更に、身柄を英国側に売られ、英国軍統治府のあったルーアンの塔に幽閉されてしまう。
夢枕なのか幻視なのか、大天使ミカエルと二人の聖女の姿が現れ、やがて、英国軍の傀儡司教コーションの違法な異端審問裁判の場に引き立てられてゆく。
火刑上のジャンヌ・ダルク。
中世の版画を彷彿とさせる構図の画面は、かえってシュールなぐらいにリアルで、悪くない。
最後に、天上に昇った聖ジャンヌを天女達が音楽を奏で讃える。
1424年12歳の頃に神の声を初めて聴いてから、1431年5月30日ルーアンのヴィエ・マルシェ広場で火刑に処されるまで、わずか7年の、オルレアンの聖処女ジャンヌ・ダルクの神の僕、あるいは救国聖女としての短い半生だった。
メリエスの素朴な画面作りが、妙に琴線に触れ、それこそ幻視それ自体の如く眼前にゆらめく風は、やはり影像表現の原点というべきか。
因みに、ジャンヌダルク映画は、もっとそれ以前、ジョルジュ・アト” Georges Hatot”監督「ジャンヌ・ダルクの処刑” Exécution de Jeanne d’Arc”」(1898年)があるけれど、これはたった1分の作品。
文字通り、映画草創期的産物というべきしろもの。
これも、白黒画面に、手描き着色。
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