100年前のパンデミック禍中の展覧会 黒石的偶感
洋画見物 (偶感)
新光洋画会を観て
===交換の出来る作品、飽くまで素人であれ===
渋い松林桂月の墨絵が表紙になったもう100年以上も前の、《 審美 》と題された薄い小冊子。さすが日焼けしページを繰る下の両端は擦り切れて丸くなってはいるものの、1世紀まるまるの経年感は感じられない。
松林桂月をウィキペディアで見ると、「最後の文人画家」と冠された伝統的な日本画家とある。
その大正中期に出された美術雑誌に、わが大泉黒石が、偶感と銘うって当時の洋画展の感想をしたためていて、自身も時折挿絵なんかを雑誌やなんかに載せていたらしい黒石ならではの見解如何。
たった2ページの短評でしかないが、そこに前年に上梓した《 俺の自叙伝 》バカ売れ中の、しかし、《 中央公論 》では芥川龍之介や佐藤春夫達と熾烈な内紛を繰り広げていた真っ只中、案の定、画壇にかこつけて文壇事情を披瀝。
それにしても“ 新光洋画会を見て ”と題された黒石の偶感に列挙された画家たちの名のいずれも当方の記憶になく、ネットで検索してもその画展に発表された作品すら見つからず。ともあれ、当時まだ新興の団体だったらしいこの新光洋画会の面々の初々しさ溌溂さが黒石気は気にいっているようす。
「 序( ついで )の話だが、物を書くよりも一層陰険な手腕を奮って御殿女中見
たい( 原文 : よう )な内輪喧嘩や、勢力争いや縄張り争いに苦労したり、自分の事を忘れて他人の世話を焼きたがる今日文壇の群小作家に、たまにはゆっくりした気持ちで新進洋画家の展覧会でも観るように勧めたいと思うことがある。浅間しい小文壇の落屋( おとしや )から鬘( かつら )と刀を脱いて、画を見ると云う心持ちになるだけでも、浅草あたりの立ん坊共が久しぶりで湯に入ったような、すがすがしい人間本来の気分に立ち還る恩恵に浴するだろう。文士と云うと、すぐ拙い文章で拙い作品を拵え上げるほかに何も芸のない人間のことだと画家仲間に笑われぬよう、大きな量見を持って、何でも行ったり見たりして置くことだ。そして文士の中にも私見たい(原文:よう)に、十七年も十八年も画の稽古に苦労を重ねて、まだ一枚の画も書けないような頼もしい男もあるのだと世間を感服させるような奇特な心掛けがあってよいのだ。」
「 画でも小説でも玄人になって了( しま )うのは結構に違いないが、玄人になると、今日の画家のように、また小説家のように、窮屈な型が出来て鼻について来るから、成る可く、いつまでも素人でありたいと思う。だから私一人は、小説はなるべく老大家の物を読まないし、画はなるべく新しい人の物を観ようと云う気で、これまで(招待されない時は行けないけれども)大抵の展覧会には出かけたものだ。」
「 今日の文壇には甲作家と乙作家とが作品を交換しても、ちっとも差し支へのない物が少なくないのを洋画家諸君も御存知だろう。文学でも美術でも、今云ったように交換の出来るような作品が一つでも少なくなる事を希望する。私が日本を去る日も段々近づいて来た。またこっちへ舞い戻る時は、新光画会の人々は恐らく相当の玄人になって、或いは大家となっているだろうが、希わくば、玄人臭い玄人になって貰いたくないものだ。」
大正9年といえば、米国で赤狩りが始まり、3月、日本で株価が大暴落し、戦後( 第一次世界大戦 )大恐慌が起こった年でもあるが、何よりも世界的パンデミック=スペイン風邪流行の真っ最中。国内の死者は約40万人、因みに米国は50万~85万人。
現在のコロナ禍の方はといえば、一応3万人となってるけど、超過死亡数的には10万人を超えているらしい。それでも、100年前のスペイン風邪の頃と違って医療状況的には順当といえなくもないけれど、米国はといえば、何と死者100万人を超えているのだ。スペイン風邪の頃より全然多いとは・・・ひとえに米国大統領トランプの功績と謂うべきなんだろうが。よく米国大統領トランプ、大量殺人罪で起訴されなかったもの。米国司法・世論とやらの恣意さ加減がハンパない、正に、異常国家の面目躍如ってところなのか。
《 審美 》第9巻第7号(大正9年7月)
編集発行・印刷人 田中豊平
印刷所 審美画会印刷部(東京日本橋)
三十二頁 一部 30銭
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