炎夏の精霊的跋扈
盂蘭盆過ぎて暑熱もいよいよたけなわの感すらある今日この頃、ようやく人並みにクーラーをかけたまま毛布を被って寝るって策に倣い始め、熱帯夜的悪睡から何とか免れるようになった。
余りの焦熱に、小さな裏庭に生えているハイビスカスが低丈の一本を除いててんで花をつけない。葉色濃い植えた時と殆んど丈の変わらぬ一本だけが、黄色のいかにもトロピカルな花弁をひろげ一抹の涼を覚えさせてくれる。
吸血鬼宜しく蚊すら姿を隠す肌を焼きつづける陽光に、繁茂した雑草の間に伸びたハイビスカスに水をやると、弾かれたように薄茶のバッタや細っそりした緑色の精霊バッタが一斉に飛び立ち、ざらついたコンクリート塀やなんかにしがみつく。
忙しさや暑熱に怠惰を決め込んでいる隙にびっしり伸びてしまった雑草も、実はメインの精霊バッタのために、あえて手つかず状態に放置していたのだった。いわば精霊バッタの生存域確保ってことで、ここ数年の間の常套的所作。
早い話、殿様バッタみたいにいかつい風貌と違って、葉叢から生れた緑の分身、あるいは精霊の如くの細っそりと華奢な体躯は神秘的すらあって、童年時代からの愛着だけど、さすがに大人になってからは直に手で触れるような真似はしなくなった。
蜘蛛や小鳥に食べられたのか、以前は一センチくらいの小さいのがピョンピョンいっぱい撥ねていたのが、十数匹ぐらいになってしまった。薄茶や緑の殿様バッタの方もかなり数が減ってしまって偶にしか見かけなくなった。
精霊バッタも殿様バッタも孵化してから半年ぐらいの寿命で、殿様バッタの方は、年二回産卵するという。密度が高い環境で育った殿様バッタは、群生相という集団性を共有するようになり、大量に飛びまくって農作物に絶大な被害を及ぼすのは昔から有名。とりわけ、徳川時代なんて殺虫剤や農薬などの対抗手段も殆んどなくて、大飢饉に至ってしまった。遙か旧約聖書の時代からイナゴの災厄が云われてきてたのは、大量発生したこの殿様バッタの類らしい。
「悔い改めよ、天(=神)の国は近づいた」
と叫んだヨハネ(洗礼者ヨハネ)、ナザレのイエスにもヨルダン川で洗礼したイエスの母親マリアの筋の義兄でもあり、やがて当時のイスラエルの領主ヘロデ・アンティパスによって斬首される預言者の、常日頃食していたのが、いなごと野蜜=棗椰子だったという。
大豆より高蛋白ってことで、昔から長野はじめ東北地方じゃ、現在までも食用として採取され、近年、いよいよ世界的に高蛋白食として見直され、イスラエルですら既に企業化してるという。
肉すら買えぬ貧困世帯の多いインドの州じゃ、州政府が直々に、ネズミを安価な蛋白源・食材として推薦していたことがあったけど、現在でも大量発生した殿様バッタの類の災害に苛まれていて、むしろ駆除の方に比重を置いているとのこと。有害な農薬・殺虫剤散布よりも、食材として大量捕獲し、食用に利用する方が遙かに健康的と思える。要はその技術ってことなんだろうが。
何より、ネズミより抵抗感もなく受け入れられそうな殿様バッタ・・・ではなかろうか。( 路上の蟻すら踏みつぶすまいとするジャイナ教徒にとっちゃ、同様に許されざることなんだろう。)
精霊にはじまってやはり精霊に終わらせてしまう人類的業の深さにあらためて思い至ってしまった。
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