昏い谷間の活劇「邪痕魔道」 阪妻&古海卓二
いわゆる昏い谷間の時代=昭和初期に束の間花咲いたいわゆる傾向映画、とりわけ古海卓二の「アジプロ」映画、《 日光の円蔵 》、《 戦線街 》、《 剣 》 等当方にとって垂涎的幻の作品群の少し前、大正15年(1926年)、獏与太郎こと古海卓二、金子洋文、小生夢坊、高堂国典(俳優)等で、当時寡占的だったらしい四社(松竹・日活・帝キネ・東亜)の打倒の意気の下に結成された第一線映画連盟、しかし、たった三作品撮っただけで一年でポシャってしまった。
背に腹は代えられないと、妻の女優・紅沢葉子は京都まで赴き、当時全盛の阪妻こと阪東妻三郎に泣きついた産物が、この《 邪痕魔道 》。
大阪朝日新聞社・全関西映画協会の懸賞(千円)公募した原作で、脚色・監督を卓二が担当。当初は阪妻、卓二すっかり意気投合しノリノリだった。が、何しろ古海卓二、当時、時代劇じゃ常道だった要所要所の主役のドアップを、必然性がない!の一言で無視したりで、たちまち仲が険悪に。それでも、一場面のみのドアップ、延々と続くチャンバラ剣劇シーンの最長記録のいずれも革命的と評価されたりで、大ヒット。
この《 邪痕魔道 》後、ケンカ別れし、もう一人の雄・市川右太衛門の右太プロに参加。傾向映画《 日光の円蔵 》(1929年12月)、《 戦線街 》(1930年2月)等を撮ることになる。
偶々ネットで見つけたこの《 邪痕魔道 》のパンフレット。
9センチ×13センチの小判で、「道頓堀 朝日座」と裏表紙にある。
その前身は江戸時代後期まで遡り、明治中期に芝居館「朝日座」を名乗り、明治末期には映画上映をメインに据えた映画館となった由。
この小パンフ、朝日座が独自に作ったものなのか、同じ系列の映画館共通に配布されてたものかどうかは定かじゃない。
「解説」に、吉原仲之町の野外セットが、当時としては空前の規模とあり、俳優陣も“ オールスターキャスト ”とあって、大々的な阪妻再起作品ってことだったようだ。
冒頭、◇ 言葉・・・宿命に反逆する者ーーーそはその結末において血塗どろの敗北を招くとも、よしまたその歩程において凄惨な悲劇を生むとも人生の苦闘に直面し得る熱と力の強者ではあるまいか。◇
二年前の阪妻の代表作《 雄呂血 》(大正14年)じゃ、"直情径行"で生きるに不器用な侍・久利富平三郎の凋落と惨憺の軌跡が描かれていたが、この《 邪痕魔道 》の主人公・詫間栄之進、京で十幾年の剣術修行を終えて江戸に戻ってきた所からストーリーが始まる。
早速許嫁の変節が発覚し、自身もこの家の嫡男じゃなく妾腹の子であることすら告げられ、忽ちにして奈落の淵に突き落とされてしまう。
実の老いた母親を半場強引に自身と一緒に出奔させた栄之進の行く末は、正に暗澹奈落の転落転変行。やがて時代(昭和)そのものが、その跡を雪崩うつように辿ってゆく。
但し、このパンフは、あくまで「前編」のみ。
新記録を樹立したといわれる剣戟延々の格闘篇は後編。
卓二監督、数年後の、右太衛門との共作《 戦線街 》じゃ、検閲カットの最長記録も樹立。記録ずくめの与太平=古海卓二、正に彼の傍若無人・破天荒な生様そのまま、投影の観すらあるこの《 邪痕魔道 》。
傾向映画は勿論、この作品も、後年阪妻と再度組んだ《 変幻七分賽 》なんかも是非観てみたいが、殆ど焼失してしまったようだ。残念。
《 邪痕魔道 》監督・古海卓二 主演・阪東妻三郎 原作・坂西夫次郎 阪妻プロ(太秦撮影所)1927年(昭和2年)作品
参考《 日本映画縦断1 傾向映画の時代 》竹中労(白川書院)1974年
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